ニュース
2013年04月15日
DPP-4阻害薬の食後高脂血症改善を介した血管内皮保護作用
- キーワード
- インクレチン関連薬 糖尿病の検査(HbA1c 他) 糖尿病合併症
糖尿病や耐糖能障害、メタボリックシンドロームで動脈硬化が進展する一つの機序として、食後の一過性高脂血症の影響があると言われており、実際にFMD(Flow Mediated Dilation.血流依存性血管拡張反応)による検討などから、脂質摂取後に血管内皮機能が低下することが既に報告されている。一方、DPP-4阻害薬は糖代謝のみでなく脂質代謝も改善させることが知られており、食後の一過性高脂血症の改善を介して血管内皮保護作用をもたらす可能性がある。
野田氏らは、DPP-4阻害薬であるアログリプチンが食後高脂血症に及ぼす影響、および、脂質代謝改善を介して食後の血管内皮機能低下が抑制されるかを、健常者を対象に検討した。
血管内皮機能は、前腕駆血後5分後の上腕動脈の最大拡張径から安静時血管径を引いた値を安静時血管径で除した値「%FMD」で評価。クッキー摂取前後にFMD検査を施行するとともに、採血により、血糖、血清脂質、インスリン、グルカゴン、GLP-1、アポB48、RLP-C(レムナント様リポ蛋白コレステロール)を測定した。
1回目のクッキーテスト施行前において、アログリプチン群のGLP-1が5.2±0.7pmol/L、コントロール群3.2±0.8pmol/Lと有意差がみられたが(p=0.03)、その他、BMIや血圧、血糖、血清脂質、心拍数、および前記の検査値のいずれも有意な群間差はなかった。
その一方で、検討対象が健常者であるため血糖は両群とも大きな変動はみられず、AUCにも有意差はなかった。また、血糖の最大変動幅とFMDの最大低下幅にも有意な相関がみられなかったことから、アログリブチンによるクッキー負荷後FMD低下の抑制は、血糖上昇抑制とは別の経路によりもたらされている可能性が考えられた。
FMD最大変化量と TG・アポB48最大変化量との関係
|
動脈硬化惹起性が極めて高いとされるRLP-CもTGと同様に、クッキー負荷2・4時間後で群間の有意差がみられ、AUCもアログリブチン群が有意に少なかった。また、外因性TGの吸収マーカーとされるアポB48は、クッキー負荷後2時間値に有意な群間差がみられ、アログリブチン群のAUCが有意に少なかった。
加えて、TGの最大変動幅はFMDの最大低下幅と有意に相関し(r=0.45,p=0.04)、アポB48の最大変動幅もFMDの最大低下幅と有意に相関していた(r=0.46,p=0.03)。
なお、LDL-CやHDL-Cはほとんど変化しなかった。
これらの結果から同氏は、「GLP-1が腸管でのTG吸収を抑制することで、食後高脂血症によって生じる炎症や酸化ストレスが軽減されて、血管内皮機能の低下が抑えられたのではないか」と考察している。DPP-4阻害薬が糖代謝改善に加えて脂質代謝改善を介する経路でも、動脈硬化進展を予防する可能性が示唆される。
-
原典論文(PubMed):
Alogliptin ameliorates postprandial lipemia and postprandial endothelial dysfunction in non- diabetic subjects: a preliminary report.
Noda Y, Miyoshi T, Oe H, Ohno Y, Nakamura K, Toh N, Kohno K, Morita H, Kusano K, Ito H.
Cardiovasc Diabetol. 2013 Jan 9;12:8. doi: 10.1186/1475-2840-12-8
- FMDは動脈硬化危険因子の集積を鋭敏に反映 CAVI・ABIとの比較
- 食後脂質異常が、食後高血糖よりも血管内皮機能低下に強く影響
- 肥満でEDの中年男性は生活習慣病未発症でも内皮機能が有意に低下
- ACS後の心リハによる運動耐容能向上は血管内皮機能の改善と相関
- DPP-4I追加と併用OHA別にみた内皮機能改善効果 FMDでの検討
- CADでは非糖尿病でも微量アルブミン尿出現率が高く、FMD低下と関連
- 上腕動脈IMT・FMDの同時計測で、冠動脈疾患リスクの層別化が可能
- DPP-4阻害薬の食後高脂血症改善を介した血管内皮保護作用
- 禁煙により酸化ストレスが低下し、血管内皮機能が有意に改善
- 糖尿病細小血管障害とFMD値が相関。短期加療による改善も評価可能
- 血管内皮機能は体温日内変動と相関するが、糖尿病ではその関係が破綻
- 心不全患者の心リハ。急性期のADL改善にも血管内皮機能が関与
- 糖尿病患者の冠疾患スクリーニングにFMDが有用
- 食事由来コレステロールよりはTGとアポB48が血管内皮機能に影響
- 直接レニン阻害薬の多面的効果 透析患者での血管内皮機能を改善
- DPP-4阻害薬の変更による血管内皮機能改善の上乗せ効果
- 塩分の多い食事は、食直後から血管内皮機能(FMD)を低下させる
- 血管内皮機能は血糖変動と逆相関し鋭敏に変化する
- 大豆イソフラボンがTGを低下させ、FMDを改善
- 「血管内皮機能検査」が診療報酬改定で新設される(厚生労働省)
- ミグリトールは冠動脈疾患併発糖尿病患者の血管内皮機能を改善する
- FMD低値は糖尿病発症の予測因子。ドックなどでは精密検査を
- 肥満2型糖尿病では、精神的ストレス軽減が血管内皮機能改善につながる
- 網膜症のある女性糖尿病患者は血管内皮機能(FMD)低下ハイリスク
- HDL-Cの血管内皮機能(FMD)保護作用は糖尿病で相殺される
- 仮面高血圧合併2型糖尿病では血管障害(FMDやPWV)が高度に進展
- DPP-4阻害薬は血管内皮機能(FMD)を改善する
- 脳や心臓の血管が詰まる前に。血管の若返りがわかる検査指標「FMD」
- 動脈硬化が早期にわかるFMD検査装置
- 血管内皮機能、FMD検査のユネクス
- 一般向けサイト 動脈硬化の進展を知る「FMD検査.JP」
糖尿病の検査(HbA1c 他)の関連記事
- 糖尿病の人は脳卒中リスクが高い 血糖値を下げれば脳卒中を予防できる ストレス対策も必要
- 糖尿病の食事に「ブロッコリー」を活用 アブラナ科の野菜が血糖や血圧を低下 日本でも指定野菜に
- 【国際女性デー】妊娠糖尿病や妊娠高血圧のリスクのある女性の産後の検査が不十分 女性の「機会損失」は深刻
- 【歯周病ケアにより血糖管理が改善】糖尿病のある人が歯周病を治療すると人工透析のリスクが最大で44%減少
- 早い時間に食事をとると糖尿病リスクは減少 「何を食べるか」だけでなく「いつ食べるか」も重要
- 「温泉療法」で⾼⾎圧を改善 ストレスによる睡眠障害を緩和 冬の温泉⼊浴では注意点も
- 糖尿病の予防はすぐにはじめられる こんな人は糖尿病リスクが高い 東京都など
- 「超加工食品」の食べすぎは糖尿病の人にとって危険? 血糖値が上昇し筋肉の質も低下
- 握力が低下している人は糖尿病リスクが高い 握力や体力を維持して糖尿病リスクを減少
- 糖尿病の人は脳卒中リスクが高い 脳卒中の脅威は世界で拡大 【脳卒中を予防するための8項目】