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2025年03月11日

糖尿病の人は脳卒中リスクが高い 血糖値を下げれば脳卒中を予防できる ストレス対策も必要

 糖尿病のある人は、脳卒中のリスクが高いことが知られている。

 糖尿病のある人が脳卒中を発症するリスクは、血糖値が正常な人に比べて、2~4倍高いことが示されている。

 血糖値を適正に管理することで、脳卒中を予防できる。良好な血糖管理を目指すことが重要だ。

 血糖値が高めの糖尿病予備群の段階で、脳卒中リスクは上昇している。ストレスが脳卒中リスクを高めることも、最新の研究で明らかになった。

糖尿病の人は脳卒中のリスクが高い

 脳卒中は、脳の血管がつまったり破れたりすることで、脳が障害を受ける病気。脳卒中には、血管がつまっておこる脳梗塞、血管が破れておこる脳出血、くも膜下出血がある。

 血糖が高い状態を放置していると、血管が傷ついて、糖尿病の合併症が起こりやすくなる。糖尿病のある人は、脳卒中を発症するリスクが高いことが知られている。

 国立がん研究センターを中心に実施されている大規模研究である「JPHC研究」では、糖尿病のある人の脳卒中の発症リスクは、血糖値が正常な人に比べて、2~4倍高いことが示されている。

 糖尿病の合併症は、数年から数十年をかけて、ゆっくりと進行する。かなり進行するまで症状がでないこともあり、気がつかないうちに合併症が進むと、ときとして命にかかわる重い状態になることもある。

 脳卒中や心筋梗塞などは、場合によっては死にいたる怖い合併症だが、ライフスタイルの改善や適切な治療により、発症や重症化を防止することができると考えられている。

糖尿病の診断後にすぐに脳卒中を発症

 脳卒中は、2型糖尿病の診断を受け治療を開始してから、5年以内に発症するリスクが高く、発症率は糖尿病のない人に比べ2倍以上に上昇することが、カナダのアルバータ大学の研究で示されている。

 「患者さんと医師の多くは、脳卒中などの糖尿病の合併症は、診断後にかなりの時間を経て発症するものと考えていますが、これは脳卒中のリスクを過小評価している可能性があります」と、同大学神経学科のトーマス ジェラカティル氏は言う。

 研究グループは、2型糖尿病と診断されて間もない、平均年齢が64歳の1万2,272人の患者を調査した。その結果、糖尿病のある人の10%近くが、診断後5年以内に脳卒中を起こしたことが判明した。

 「糖尿病と診断されたら、すぐに血糖値などの管理を積極的に行うことが大切です。心血管疾患のリスク要因を減らすために、患者さんと医療従事者の両方が取り組むことが重要です」と、ジェラカティル氏は指摘している。

糖尿病予備群の段階で脳卒中リスクは上昇

 まだ糖尿病と診断されるほどではないが、血糖値が高めになっている糖尿病予備群の段階でも、インスリン抵抗性があると、脳卒中のリスクは上昇することが、米国のマイアミ大学の別の研究で示されている。

 インスリン抵抗性は、遺伝や肥満などを原因に、血糖値を下げるインスリンの働きが悪くなった状態。

 脳卒中などを発症するリスクは、インスリン抵抗性の高い人はそうでない人に比べて、45%高いことが分かった。

 「血糖値が高くなっている人は、血圧値や中性脂肪値なども高く、善玉のHDLコレステロールの値が低下していることも多く、これらが相乗的に影響して、脳卒中のリスクが上昇している可能性があります」と、同大学神経学科のタチアナ ルンデック氏は言う。

 「2型糖尿病もインスリン抵抗性も、治療し管理することが可能です。血糖値が高くなっている人は、早期から対策し、インスリン抵抗性の影響を最小限に抑えることが、脳卒中の予防につながります」としている。

 研究グループは、糖尿病と診断されていない1,509人の成人を対象に、平均8.5年間追跡して調査した。

血糖値を良好に管理すれば脳卒中を予防できる

 糖尿病とともに生きる人は、血糖値を適正に管理することで、脳卒中を予防できるという研究を、米国神経学会(AAN)が発表している。

 糖尿病の合併症を予防するために、1~2ヵ月の血糖値の平均があらわされるHbA1cを7.0%未満にすることが目標とされている。

 研究は、韓国のソウル国立大学などによるもの。研究グループは、平均年齢70歳の糖尿病患者1万8,567人を対象に調査した。参加者の全員、血栓が原因の虚血性脳卒中で入院していた。

 「HbA1cを6.8%から7.0%の範囲に管理できていれば、脳卒中や心筋梗塞などの血管疾患のリスクを最小限に抑えられることが示されました」と、同大学神経学科のムンク ハン教授は言う。

 一方で、HbA1cが7.0%を超えて高くなっている人は、脳卒中や心臓発作などの血管疾患を再発するリスクが上昇することも判明した。参加者のHbA1cの平均は7.5%だった。

 「とくに、すでに脳卒中を発症したことのある糖尿病患者さんは、脳卒中や心臓病などのさまざまな血管疾患のリスクを下げるために、良好な血糖管理を目指すことが重要です」と、ハン教授は指摘している。

ストレスは脳卒中のリスクを高める
ストレス対策も必要
 ストレスも脳卒中リスクを高めることが、米国神経学会(AAN)が発表した最新の研究で明らかになった。

 慢性的なストレスを抱えて生活している人では、とくに女性で脳卒中のリスクが上昇している場合があるという。ストレスを解消する対策も必要だ。

 「経済的負担や、長時間労働、仕事にともなう要求やプレッシャー、雇用の不安定などにより、多くの人はストレスを感じています」と、フィンランドのヘルシンキ大学のニコラス マルティネス マジャンダー氏は言う。

 「これまでの研究でも、慢性的なストレスは、心身の健康に悪影響を及ぼすことが分かっています」としている。

 研究グループは、虚血性脳卒中を発症したことのある18~49歳の成人426人を調査し、発症したことのない426人と比較した。虚血性脳卒中は、脳の一部への血流が遮断される病気で、筋力低下、麻痺、感覚の消失や異常、発話障害などの症状があり、死にいたることもある。

 その結果、とくに女性で、中程度のストレスは脳卒中のリスクを78%増加させた。46%の人が中程度以上のストレスを抱えていた。

多目的コホート研究(JPHC Study) 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト
Diabetes Mellitus and Risk of Stroke and Its Subtypes Among Japanese: The Japan Public Health Center Study (Stroke 2011年8月11日)
Risk Of Stroke Doubles If Diagnosed With Type 2 Diabetes (アルバータ大学 2007年6月15日)
Short-Term Risk for Stroke Is Doubled in Persons With Newly Treated Type 2 Diabetes Compared With Persons Without Diabetes: A Population-Based Cohort Study (Stroke 2007年5月3日)
Insulin resistance may be associated with stroke risk (JAMA and Archives Journals 2010年10月12日)
Insulin Resistance and Risk of Ischemic Stroke Among Nondiabetic Individuals From the Northern Manhattan Study (Archives of Neurology 2010年10月)
Insulin Resistance a Possible Causal and Treatable Risk Factor for Ischemic Stroke (Archives of Neurology 2010年10月)
What Are Ideal Blood Sugar Levels for Preventing Repeat Strokes, Heart Attacks? (米国神経学会 2021年9月29日)
Association of Prestroke Glycemic Control With Vascular Events During 1-Year Follow-up (Neurology 2021年10月26日)
Stressed out? It may increase the risk of stroke (米国神経学会 2025年3月5日)
Association Between Self-Perceived Stress and Cryptogenic Ischemic Stroke in Young Adults: A Case-Control Study (Neurology 2025年3月5日)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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