ニュース

2024年10月03日

【1型糖尿病の最新情報】iPS細胞から作った膵島細胞を移植 日本でも治験を開始 海外には成功例も

 1型糖尿病の新しい治療法として、iPS細胞などの多能性幹細胞から作った膵島細胞を移植する治療の開発が進められている。

 このほど、京都大学医学部附属病院が、膵島移植が適応となる1型糖尿病患者を対象に、iPS細胞由来膵島細胞を移植する医師主導の治験を開始すると発表した。

 まだ開発研究の段階だが、実用化に成功すれば、1型糖尿病の新しい治療法になると期待がかかる。

1型糖尿病の新しい治療法 iPS細胞から作った膵島細胞を移植

 1型糖尿病の新しい治療法として、iPS細胞などの多能性幹細胞から作った膵島細胞の移植が期待されている。

 インスリンは、血液中の糖をとりこませるように細胞に働きかけ、血糖値を下げる効果のあるホルモン。

 膵β細胞は、膵臓のランゲルハンス島にある、血糖値に応じてインスリンを分泌し、血糖値の調節をになう細胞。1型糖尿病の人は、この膵β細胞が何らかの原因により破壊されており、血中のインスリンが不足しており、生命を維持するためにインスリンを注射などで補うことが必要だ(インスリン依存状態)。

 そのインスリンを分泌するβ細胞のかたまりが膵島。膵島と同じ細胞集団をiPS細胞から作ったものが「iPIC(ヒトiPS細胞由来膵島細胞)」と呼ばれている。

 iPS細胞は、さまざまな臓器などの細胞に分化する能力をもつ多能性幹細胞で、京都大学の山中伸弥教授が2007年に、ヒトの細胞からiPS細胞の樹立に世界ではじめて成功した。

 iPICを移植すると、体内で膵島構造を作り、血糖値の変化に応じた生理的なインスリン分泌ができるようになり、移植後の糖尿病患者の血糖管理を大きく改善できると考えられている。

関連情報

日本でも1型糖尿病患者を対象に治験を開始

 京都大学医学部附属病院の矢部大介教授らが、膵島移植が適応となる1型糖尿病患者を対象に、iPS細胞由来膵島細胞を移植する医師主導の治験を2025年1月より開始すると発表された。

 膵島移植は、1型糖尿病患者に、臓器提供者(ドナー)より善意で提供された膵臓から、膵島細胞のみを分離して移植する治療法。

 膵島移植は、2020年に保険収載され、日本で公的保険を用いて受けることができるようになっているが、慢性的なドナー不足により、年間数例程度の実施にとどまっている現状がある。

 膵島移植を実施しても、インスリン投与が必要なくなるインスリン離脱のためには、複数回の移植が必要であり、ドナー不足を解消するための新たな治療法の開発が望まれている。

 日本には10~14万人の1型糖尿病患者がいると推計されているが、うち10%程度は、とくに血糖値の変動が激しく血糖管理が不安定なブリットルタイプであり、無自覚低血糖の危険性がある。

膵島移植はドナー不足が深刻 新たな治療を目指す

 京都大学医学部附属病院が取り組んでいるのは、iPS細胞から膵島細胞のかたまりを作りシート状にし、それを患者の腹部皮下に移植する新しい治療法の開発。

 研究グループは、そのiPS由来膵島細胞シートの安全性を確認するための医師主導の第1/1b相試験を、2025年1月より開始する。

 将来的に、糖尿病領域での移植医療のドナー不足解消に貢献し、患者の新たな治療選択肢となることを目指すとしている。

 iPS細胞由来膵島細胞(iPICs)は、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)と武田薬品工業の共同プログラムである「T-CiRA」での研究を経て見出された膵内分泌前駆細胞集団で、大量培養が可能としている。

 膵前駆細胞は、受精卵が分裂・成長してさまざまな細胞に変化していくときに生じる、膵臓のもとになる細胞。

 すでにこのiPICsを、糖尿病モデル動物に移植すると、血糖値が正常化し、耐糖能(血糖値を正常に保つ能力)が改善することを確認している。

 治験には、内因性インスリン分泌能が廃絶しており、専門的治療によっても血糖変動の不安定性が大きく血糖管理が困難な、膵島移植の適応となる1型糖尿病患者が参加する予定としている。

京都大学医学部附属病院

海外にはiPS由来膵島を移植し
1型糖尿病の治療に成功したという報告も

 海外でも、iPS細胞(多能性幹細胞)により膵島を作り移植する、新しい治療法の開発研究が行われている。

 患者の体から採取された細胞を使い作った膵島を移植し、1型糖尿病を治療するのにはじめて成功したと、中国の北京大学や南開大学などが発表した。

 研究は、北京大学基礎医学部などのホンクイ デン氏らによるもので、研究の詳細は、医学誌「Cell」に発表された。

 「Nature」に掲載された記事によると、中国天津市に住む25歳の1型糖尿病の女性が移植を受けた。その女性は2023年6月に、30分もかからなかった手術で、腹部に約150万個に相当する膵島の注入を受けたとしている。

 女性は2ヵ月半後、移植した膵島により、インスリン投与をしなくても生きていけるだけのインスリンが分泌されるようになり、その状態を1年以上維持している。

 血糖管理は大幅に改善し、危険な血糖値の急上昇や急降下を経験することもなくなり、1日の98%以上の時間、血糖値は目標範囲内にとどまっているという。

 ただし、研究はまだ開発の段階で、専門家はこの研究について「大変に興味深いが、もっと多くの患者で、さらにもっと長い期間、同じことを再現できるかを確かめる必要がある。さらに多くの研究が必要だ」と指摘している。

Stem cells reverse woman's diabetes -- a world first (Nature 2024年9月26日)
Transplantation of chemically induced pluripotent stem-cell-derived islets under abdominal anterior rectus sheath in a type 1 diabetes patient (Cell 2024年9月25日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲