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2025年03月06日

腎不全の患者さんを透析から解放 「異種移植」の扉を開く画期的な手術が米国で成功

異種移植とは? 異種移植の扉を開く画期的な手術が成功
糖尿病ネットワーク編集部

 「異種移植」は、動物の臓器をヒトへ移植する新しい治療法で、遺伝子組み換え技術の進歩とともに、目覚ましい発展をとげている。

 臓器の機能が低下し、移植でしか治らない人に、臓器を移植し、健康を回復しようとする臓器移植が行われている。しかし、世界的に臓器提供者(ドナー)が不足しており、とくに日本では海外に比べてドナー数が極端に少なく、移植を受けられる人は限られており、移植待機患者の数は多い。異種移植は、そうしたドナー不足を解決する治療法として期待されている。

 動物の臓器をヒトに移植するうえで、免疫システムが強く反応するという課題があるが、遺伝子操作によりヒトへの移植に適するよう形質転換する技術の開発が世界で積極的に行われている。

 遺伝子改変された異種臓器をヒトに移植する研究は、2022年に米国ではじめて実施され、遺伝子改変を行ったブタの臓器を移植する臨床研究の報告は増えている。動物のなかでもブタは臓器の大きさが人と近く、移植に適していると言われている。

 1型糖尿病についても、血糖値を調整するインスリンを作る細胞が集まった膵島を移植する治療が行われているが、ドナーが圧倒的に不足している。日本でも、次世代の膵島移植治療として、無菌室で育てられた医療用ブタの膵島を特殊なカプセルで包み移植する「バイオ人工膵島」の異種移植の開発が進められている。

 ヒトのiPS細胞から臓器の細胞を作って、患者に移植する方法も研究されているが、iPS細胞から臓器を作り出すのは技術的に難しいという課題があり、異種移植は実用可能性が高いと期待されている。

HealthDay News

米国で4例目のブタ由来腎臓移植を受けた患者が退院

 

 米マサチューセッツ総合病院で、同国で4例目となる、遺伝子編集されたブタの腎臓を移植された、66歳の男性腎不全患者が退院した。

 この移植手術は、遺伝子編集されたブタの臓器をヒトに用い得るかを調査するという、米食品医薬品局(FDA)が承認した新たな臨床試験の一環として実施された。

 同様の手術は、1月下旬にアラバマ州の女性に対しても行われ成功していて、その直後に行われた今回の手術も成功したことで、深刻なドナー不足の解決に向けて大きな一歩を踏み出した。

 ニューヨークタイムズ紙によると、今回移植を受けた患者はニューハンプシャー州在住のTim Andrewsさん。彼は過去2年以上にわたり透析治療を受けていたが、透析開始後に心臓発作を起こし、吐き気と倦怠感にも悩まされていた。

 移植治療について医師と相談し始めた昨年8月ごろからは、車椅子に頼る生活だった。ところが、ブタの腎臓を得てからわずか1週間後には、退院できるほどに回復した。

 「まるで新しいエンジンを手に入れたようだった。術後回復室から集中治療室に移動しベッドに移る際に、タップダンスをしたくらいだ。信じられないほど幸せだ」とAndrewsさんは語っている。

 米国では現在、10万人以上が臓器移植を待っており、その患者の多くは腎臓を必要としている。ドナー不足のために、待機期間中に亡くなる人も少なくない。

 このギャップを埋めるために、複数のバイオテクノロジー企業が、ブタの臓器のヒトに対する拒絶反応を抑制するための遺伝子編集技術を開発してきた。Andrewsさんに移植された腎臓は、59ヵ所の変更を含む、69ヵ所の遺伝子編集が施されたものだと、ニューヨークタイムズ紙が報じている。

 これまでに米国内で4人がこのような技術の下、ブタの腎臓の移植を受けている。そのなかの1人、アラバマ州のTowana Looneyさんは順調に回復している。しかしその一方で、ほかの2人の患者は移植手術後に死亡した。

 このような困難にもかかわらず、今回の移植手術を主導した、マサチューセッツ総合病院の移植外科医の1人である河合達郎氏によると、医師たちは常に学び続けているという。

 では、移植外科医は何を目指しているのだろうか? ニューヨークタイムズ紙の取材に対して河合氏は、「遺伝子編集されたブタの臓器を用いた移植医療を、より多くの患者に適用可能な治療法として、臓器不足の解決策を確立することだ。その実現にはまだ長い道のりが残されているが、今回の移植もそのための重要な一歩である」と答えている。

 ただし、これらの症例の積み重ねによって、ブタ由来の臓器移植が安全かつ効果的であることが証明されたとしても、その費用や保険適用の課題がまだ不確定要素として残っている。

 腎不全患者の多くは働くことができずにメディケアに頼っているが、将来的にメディケアや民間保険が、このような移植医療をカバーするかどうかは現段階では不明だ。

[HealthDay News 2025年2月10日]

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Photo Credit: Adobe Stock

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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