ニュース
2024年08月28日
「スマートインスリン」の開発が前進 血糖値が高いときだけ作用する新タイプのインスリン製剤 1型糖尿病の負担を軽減

オーストラリアのモナッシュ大学とメルボルン大学などは、血糖値が高いときだけ作用する「血糖応答型インスリン(スマートインスリン)」の開発を進めており、このほど前臨床試験が成功したと発表した。
この新しいインスリン製剤は、血糖値が高い場合にのみに作用し、逆に血糖値が下がると不活性になる。これにより膵臓の働きを模倣し、高血糖と低血糖を防げるようになると考えられている。
「スマートインスリンの開発は、まだ初期段階ですが、1型糖尿病の管理に大きな変革をもたらす可能性があります」と、研究者は述べている。
血糖値が高いときだけ作用する「スマートインスリン」を開発
オーストラリアのモナッシュ大学とメルボルン大学などは、血糖値が高いときだけ作用する「血糖応答型インスリン(スマートインスリン)」の開発を進めており、このほど前臨床試験が成功したと発表した。 開発中のスマートインスリンは、血糖値の変化によく反応し、危険な低血糖の頻度を減らすことを実証したとしている。 この新しいインスリン製剤は、血糖値が高い場合にのみに作用し、逆に血糖値が下がると不活性になる。これにより膵臓の働きを模倣し、高血糖と低血糖を防げるようになると考えられている。 英国糖尿病学会(Diabetes UK)、1型糖尿病に関する研究を支援する活動を世界的に行っているJDRF、スティーブ モーガン財団などが研究を支援している。 「開発中のスマートインスリンは、1型糖尿病の管理を革新する、画期的なインスリン製剤になる可能があります」と、モナッシュ大学トランスレーショナル医学部ナノバイオテクノロジー研究所のクリストフ ハーゲマイヤー教授は言う。 研究グループは、スマートインスリンを開発する研究を次の段階に進めるために、すでに75万ドル(約1億円)以上の資金を集めているという。 関連情報膵臓の働きを模倣する新しいタイプのインスリン製剤
スマートインスリンは、健康な膵臓の働きをより良く模倣する新しいインスリン製剤として、開発が進められている。 糖尿病でない人の場合は、血糖値の上昇を膵臓が感知し、インスリンを放出して血糖値を下げる。逆に血糖値が下がると、低くなりすぎないようにインスリンの放出を停止する。 1型糖尿病の人では、この作用の再現が難しく、インスリン注射やインスリンポンプにより、血糖値の変化に応じてインスリンを調整する必要がある。 研究グループが開発中の血糖応答型のスマートインスリンは、体内に注入された後に、血糖値が一定値を超えた場合にのみインスリンを放出し、逆に血糖値が一定値以下に下がると不活性になる。 これにより、血糖値を安全な範囲内に保ち、高血糖や低血糖を回避できるようになると考えられている。 スマートインスリンを開発する研究は、世界中で進行しており、1つの方法はインスリンをケージ(かご)のような構造に閉じ込め、変化する血糖値をそのケージが感知し、それに応じてインスリンを放出するというもの。 もう1つの方法は、インスリンを化学的に編集して、ブドウ糖を感知できるようにするもの。血糖値が低い場合はインスリン分子が物理的に閉じており、血糖値が上昇するとインスリンは形を変えて開き、血糖値を下げる働きをする。 研究グループが、10年近くの研究で開発に取り組んでいるスマートインスリンは、スイートコーン由来のナノ糖から開発した鎖状の粒子による生分解性の人工膵臓システムで、血糖値に応じてインスリンを放出したり不活性になることで、血糖値を正常域に維持するというもの。 研究グループは、今回発表した前臨床試験で、このスマートインスリンが血糖値の変化によく反応し、危険な低血糖の頻度を減らすことを実証した。投与後は3日間にわたり有効であり、現在のインスリン製剤の作用時間を大幅に延長することも示した。とくにコントロールが困難な人の血糖管理を改善することを期待
1型糖尿病は、血糖値を下げるインスリンを分泌する膵臓のβ細胞が、壊されてしまうことで発症する。β細胞からインスリンがほとんど分泌されなくなることが多く、1型糖尿病と診断されたら、インスリンを1日に数回の注射や、インスリンポンプで補充し、血糖管理を生涯続ける必要がある。 1型糖尿病でβ細胞が壊される原因はよく分かっていないが、免疫反応が正しく働かず、自分の細胞を攻撃してしまう「自己免疫」が関わっていると考えられている。 1型糖尿病の人は、必要なインスリン治療を継続できれば、2型糖尿病のように食事や運動などを厳しく制限することはない。糖尿病を管理しながら、社会で活躍している人は世界中に多くいる。 糖尿病の医療は進歩しており、インスリン製剤も糖尿病の病態に合わせてさまざまなタイプのものが開発され利用されている。 一方で、インスリン治療をがんばって行っていても血糖管理が不安定な人や、深刻な低血糖に悩まされている人も少なくない。 新しいタイプのインスリン製剤は、1型糖尿病の人の健康状態と生活の質をより改善し、とくにコントロールが困難な人の血糖管理を改善することが期待されている。1型糖尿病とともに生きる人々の負担を軽減するために
「1型糖尿病の人は、生きていくためにインスリンを補うことが必要ですが、血糖値の管理は複雑で、困難も多く、1型糖尿病とともに生きる人々の負担は大きいものになっています」と、ハーゲマイヤー教授は言う。 「開発中のスマートインスリンが、より速く、より正確に作用し、1型糖尿病の管理の負担を軽減し、合併症リスクを長期にわたり減らす可能性のある、新世代のインスリン製剤となることを目指しています」としている。 研究を支援しているJDRFは、「スマートインスリンの開発は、まだ初期段階ですが、1型糖尿病の管理に大きな変革をもたらす可能性があります。スマートインスリンの実現により、より正確な血糖管理ができるようになり、低血糖をなくし、合併症のリスクを減らし、1型糖尿病とともに生きる人々を血糖値の頻繁なモニタリングから解放し、1型糖尿病による負担を大幅に軽減すると期待しています」と述べている。 Monash researchers set to develop new insulin formulation which could transform type 1 diabetes management (モナッシュ大学 2024年8月13日)An Engineered Nanosugar Enables Rapid and Sustained Glucose-Responsive Insulin Delivery in Diabetic Mice (Advanced Materials 2023年3月12日)
Novel insulins (JDRF 2024年3月27日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
医薬品/インスリンの関連記事
- 世界初の週1回投与の持効型溶解インスリン製剤 注射回数を減らし糖尿病患者の負担を軽減
- インスリン注射の「飲み薬化」を目指すプロジェクトが進行中!ファルストマと慶応大学の共同研究による挑戦[PR]
- 水を飲むと糖尿病や肥満が改善 水を飲む習慣は健康的 高カロリーの飲みものを水に置き換え
- 【1型糖尿病の最新情報】幹細胞由来の膵島細胞を移植する治療法の開発 危険な低血糖を防ぐ新しい方法も
- 糖尿病の治療薬であるGLP-1受容体作動薬が腎臓病のリスクを大幅に低下 認知症も減少
- JADEC(日本糖尿病協会)の活動 「さかえ」がWebページで閲覧できるなど「最新のお知らせ」からご紹介
- 【世界糖尿病デー】インスリン治療を続けて50年以上 受賞者を発表 丸の内では啓発イベントも
- 【インフルエンザ流行に備えて】糖尿病の人は予防のために「ワクチン接種」を受けることを推奨
- 糖尿病治療薬のメトホルミンが新型コロナの後遺症リスクを軽減 発症や死亡のリスクが21%減少
- 【1型糖尿病の最新情報】iPS細胞から作った膵島細胞を移植 日本でも治験を開始 海外には成功例も