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2024年08月01日

糖尿病の医療はここまで進歩している 合併症を予防するための戦略が必要 糖尿病の最新情報

 糖尿病の医療は大きく進歩しており、その動向を理解することが重要という研究を、米カリフォルニア大学健康科学部が発表した。

 糖尿病の治療は進歩しており、糖尿病とともに生きる人の健康を改善し、負担を減らすために、さまざまな新しいことが行われている。

 糖尿病の発症と進行には、複雑な要因が関わっており、糖尿病がもたらす負担を減らし、合併症を予防するために、的を絞った対策を行うことが重要としている。

糖尿病の医療は大きく進歩

 糖尿病の医療は大きく進歩しており、その動向を理解することが重要という研究を、米カリフォルニア大学健康科学部が発表した。

 「糖尿病を発症する人は、世界中で増加し続けています」と、同大学健康科学部の内分泌代謝の専門医であるデール アビル教授は言う。

 「糖尿病の発症には、遺伝、生活スタイル、さまざまな臓器の相互作用、さらには食料不安や大気汚染などの社会的・環境的要因も影響しています」。

 「糖尿病とともに生きる人に最善のケアを提供し、健康状態を改善するために、遺伝・環境・社会的決定因子など、2型糖尿病と1型糖尿病の原因と新しい治療法について明らかにする必要があります」としている。

 研究グループは今回、学術誌「Cell」の創刊50周年記念特別号に発表された論文で、長年にわたり発表されてきた、1型糖尿病と2型糖尿病に関連する数百件の研究を調査した。

糖尿病は「恐ろしい病気」?

 糖尿病は、血糖管理を良好に維持できていないと、神経障害、網膜症、腎臓病、心筋梗塞、脳卒中など、さまざま合併症を引き起こすことから、「恐ろしい病気」というイメージがもたれている。

 しかし、糖尿病の治療は進歩しており、糖尿病とともに生きる人の健康を改善し、負担を減らすために、さまざまなことが行われている。

 一方で、高血圧や脂質異常症などに比べると、糖尿病は食事の管理などの日常生活での制限が大きいと感じている人は多い。血糖値が高くなる糖尿病は、血糖値に影響するものが食事や運動、ストレスなど多くある。

 血圧が高くなる高血圧や、脂質の値に異常があらわれる脂質異常症は、薬物療法により管理しやすく、日常生活での制限は糖尿病ほど難しくないとみられている。

糖尿病は改善が可能

 糖尿病は、血液中のブドウ糖濃度を示す血糖値が高い状態が慢性的に続く状態で、血液中のブドウ糖を細胞へ届けるインスリンというホルモンの分泌が不足したり働きが悪くなることで発症する。

 2021年時点で、世界中で約5億2,900万人が糖尿病と診断されており、これは世界人口の6.1%、16人に1人に相当する。国や地域によっては、糖尿病の有病率は12.3%にも達する。

 糖尿病の95%以上を占める2型糖尿病は、遺伝や体質の影響もあるが、ほとんどの人は生活スタイルを見直して食事や運動、体重などを適切に管理することで、インスリンの働きを良くすることができ、改善が可能だ。

 一方、糖尿病の5%未満を占める1型糖尿病は、膵臓からインスリンがほとんど出なくなること(内因性インスリン不足)により血糖値が高くなり発症する。生きていくためにインスリンを補う治療が必須となる。

 1型糖尿病の人は、必要なインスリン治療を継続すれば、2型糖尿病のように食事や運動などを厳しく制限することはない。糖尿病を管理しながら、社会で活躍している人は世界中に多くいる。

糖尿病の新しい治療薬

 医療は進歩しており、糖尿病の管理を改善するための治療は大きく進歩している。

 2型糖尿病の治療では、比較的新しい薬であるDPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬が利用され、体重増加をともなわず、低血糖のリスクを低く抑えながら血糖値を管理できるようになっている。

DPP-4阻害薬
 DPP-4阻害薬は、膵臓のβ細胞を刺激し、インスリン分泌を促すインクレチンの分解を抑え、インスリンを増やし、血糖値を下げる薬。血糖値を上げるホルモンであるグルカゴン分泌も抑制する。DPP-4阻害薬の効果は食事のあとにあらわれ、食後の高血糖を改善する効果がある。

GLP-1受容体作動薬
 GLP-1受容体作動薬は、インクレチンのひとつであるGLP-1を体の外から補う薬。グルカゴン分泌も抑制する。GLP-1受容体作動薬も空腹時には働かず、食事をとり血糖値が高くなったときに作用するため、低血糖を起こしにくい。

SGLT2阻害薬
 SGLT2阻害薬は、尿に糖を出すことで血糖を下げる薬。血液中に含まれるブドウ糖は、腎臓の糸球体で尿の原液に出た後で、尿細管でとりこまれて血液にもどるが、この薬はブドウ糖の再とりこみを妨げ、尿に糖を出して血糖値を下げる。SGLT2阻害薬は、インスリン分泌と直接関係しないため、他の薬と併用しなければ低血糖になることが少ない。

インスリン製剤やCGMも進歩

 自分の膵臓から必要なインスリンが十分に出なくなった人は、インスリンを外から補う必要がある。インスリン製剤も、糖尿病の病態に合わせてさまざまなタイプのものが開発されている。

 食後の高血糖を改善するために、とくに作用発現が早い超即効型インスリン製剤が使われるようになり、また、週1回の注射で効果のあるインスリン製剤の開発も進められている。

 また、持続血糖モニター(CGM)により、1日24時間連続して血糖値の動きが分かるようになり、多くの患者の血糖管理が改善している。

 CGMは、皮下に刺した細いセンサーにより皮下の間質液のグルコースを連続して測定し、血糖値を推定するデバイス。日本でも、1型糖尿病と2型糖尿病の人が利用している。

1型糖尿病の新しい治療法を開発

 1型糖尿病についても、その管理を改善するための新しい治療法の開発が進められている。

 血糖変動を見える化するCGMと、インスリンを自動的に最適に調整して投与するインスリンポンプを組合せた、「人工膵臓」の開発が進められ、1型糖尿病の人の血糖管理を大幅に改善することが研究で確かめられている。

 2019年に発表された研究では、抗体テプリズマブの14日間の投与により、1型糖尿病のステージ1からステージ3への進行を24ヵ月遅らせることができ、2021年の追跡研究では最大で32.5ヵ月遅延できることが示された。

 さらには、1型糖尿病の人に対して、幹細胞由来のインスリン産生細胞を移植する治療や、無菌室で育てられた医療用の動物を遺伝子編集し、その膵島を特殊なカプセルで包み移植する異種移植の研究も進められ、臨床研究も行われている。

 こうした新しい治療は、インスリン治療をがんばって行っていても血糖管理が不安定な人や、深刻な低血糖に悩まされている人などのための解決策になると期待されている。

医療の進歩の恩恵を誰もが受けられるように

 「世界中で、糖尿病の背後にある分子メカニズムを標的とした、個別化医療および精密医療のアプローチが研究されています」と、アビル教授は指摘している。

 「インクレチンであるGLP-1やGIPは、膵臓のβ細胞に作用しインスリンの分泌を高めます。そうした治療薬は最近の研究で、減量を促し炎症を軽減する効果があり、肥満、心不全、腎臓病などにも有効であることが示されています」。

 「ただし、新しい治療法がもたらすベネフィットが、標準治療よりも臨床的に優れており、費用対効果も高いことを実証する必要があります」としている。

 CGMやインスリンポンプが、とくにコントロールが困難な1型糖尿病の人の血糖管理を改善し、健康状態と生活の質を大きく改善することが多くの研究で示されているが、そうした新しい医療は費用が高くなるため、実際に利用できている人は世界にまだ少ないという現状がある。

 世界には、CGMとインスリンポンプを組み合せた「人工膵臓」を、必要とする1型糖尿病患者が利用できるよう支援する戦略を開始した国も出ている。

 「糖尿病の管理をより改善し、糖尿病の人の負担をより軽減する、新しい治療法を開発しても、利用できる人が限られるようでは、あまり意味がありません。糖尿病の管理を改善し、糖尿病合併症を抑制できれば、将来の医療費の削減にもつながります」と、アビル教授は述べている。

 「糖尿病とその合併症につながる根本的な異質性を理解し、識別するためのツールを開発することも必要です。治療と予防戦略をターゲットにしながら、医療資源を適切に利用し、必要とする人に幅広く適用できるやり方で、その効果を最適化することが求められています」としている。

Recent insights and advances in treatment and management show promise in stemming the growing prevalence of diabetes (カリフォルニア大学ロサンゼルス校 健康科学部 2024年7月25日)
Diabetes mellitus--Progress and opportunities in the evolving epidemic (Cell 2024年7月25日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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