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2025年03月04日

【世界肥満デー】内臓脂肪が増えると糖尿病リスクは上昇 肥満は脳のインスリンの働きを低下 認知症リスクが増加

 3月4日は「世界肥満デー」だ。体に脂肪がたまりすぎて肥満になると、脳でのインスリンの働きが低下し、食欲を抑えられなくなることが、最新の研究で明らかになった。

 高カロリーで栄養バランスを悪いジャンクフードを、短期間食べただけでも、脳のインスリンに対する感受性は低下するという。

 肥満は認知症のリスクも高めることも分かった。40~50代の中年期に内臓脂肪が多くたまっていた人は、20年後に認知症を発症するリスクが高いという。

 「40~50代の中年期に、食事や運動などのライフスタイルの改善に取り組み、必要に応じて薬物療法を行い、適切な体重管理や内臓脂肪の減少などに取り組めば、認知症を予防できる可能性があります」と、研究者は指摘している。

3月4日は「世界肥満デー」 肥満がもたらす危機に対策

 3月4日は「世界肥満デー」だ。肥満は日本を含む全世界で、この数十年で大幅に増加しており、肥満がもたらす危機に対策することが呼びかけられている。

 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群、メタボ)は、内臓脂肪の蓄積に、高血圧・高血糖(糖尿病)・脂質異常という、動脈硬化の危険因子が組み合わさることにより、心臓病や脳卒中、腎臓病などの健康障害のリスクが高くなった状態。

 世界保健機関(WHO)は1999年に、メタボの概念と診断基準を提唱し、インスリン抵抗性に着目し、動脈硬化の危険因子を減らす対策を呼びかけている。日本も、メタボの診断基準が策定されてから20年を迎える。

 インスリン抵抗性は、肥満などが原因で、血糖値を下げるインスリンの働きが悪くなった状態。内臓脂肪が増えすぎると、インスリン抵抗性が起こり、血糖管理が難しくなり、糖尿病のリスクが上昇する。

 内臓脂肪型肥満により、インスリンの働きを強める善玉のアディポカインの分泌が減り、インスリンの働きを抑える悪玉のアディポカインが増える。さらには、免疫細胞から炎症性のサイトカインが分泌され、全身の炎症が起こりやすくなる。

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脂肪がたまりすぎると脳のインスリンの働きも低下

 インスリンは肥満の発症でも重要な役割を果たしており、体に脂肪がたまりすぎて肥満になると、脳のインスリン感受性も低下し、食欲を抑えられなくなるということが、ドイツのテュービンゲン大学やドイツ糖尿病研究センター(DZD)などによる新しい研究で示された。

 「健康な人では、インスリンは脳内で食欲を抑制する働きもしていますが、肥満のある人ではインスリン抵抗性が生じ、摂食行動を適切にコントロールできなくなる可能性があります」と、同大学糖尿病・内分泌・腎臓病学部のステファニー クルマン教授は言う。

 研究グループは、普通体重の男性29人を対象に実験を行った。参加者を通常の食事をとる群と、チョコレートバーやポテトチップスなどの高カロリーの超加工食品をとる群に分けた。磁気共鳴画像法(MRI)などによる検査を行い、肝臓にたまった脂肪の量や脳のインスリン感受性などの変化を調べた。

 その結果、不健康な食事を5日間とっただけで、肝臓の脂肪量は大幅に増加し、さらには脳のインスリン感受性は著しく低下することが示された。通常の食事に戻してから1週間経っても、この状態は持続した。

 「高カロリーで栄養バランスを悪い食事を、短期間とっただけでも、肥満の人と同様に脳でのインスリンの働きが低下することが分かりました」と、クルマン教授は言う。

 「すでに世界保健機関は、肥満は流行病だと宣言しており、世界中で10億人以上が肥満に悩まされています。食事と運動などのライフスタイルを見直して、肥満に対策する必要があります」としている。

内臓脂肪の増加は20年後のアルツハイマー病の発症の原因に

 肥満は認知症のリスクも高めることが、別の研究で明らかになった。40~50代の中年期に内臓脂肪が多くたまっていた人は、20年後にアルツハイマー病を発症するリスクが高いことが、米ワシントン大学などの研究で示された。研究は、北米放射線学会(RSNA)が発表したもの。

 「内臓肥満が脳にも悪影響を及ぼすメカニズムを解明し、中年期から食事や運動などのライフスタイルの改善に取り組めば、脳の血流を改善し、認知症のリスクを軽減できると考えられます」と、同大学放射線研究所(MIR)のサイラス ラジ氏は言う。

 アルツハイマー病は、認知症でもっとも多い疾患で、日本でも有病者が600万人に上るとみられている。

 糖尿病のある人は、血糖値が高い状態が長く続くと、認知機能が低下しやすくなり、認知症を発症しやすいことが知られている。この研究は、糖尿病のある人にとっても希望をもたらすものだ。

40~50代にライフスタイル改善に取り組み認知症も予防

 研究グループは今回、中年期の肥満や体脂肪の分布、代謝などとアルツハイマー病の病理の関連について調べた。これらはすべて、健康的なライフスタイルにより改善が可能だ。

 認知機能が正常な平均年齢が49.4歳の中年期の成人80人を対象に、腹部のMRI検査を実施し、皮下脂肪や内臓脂肪、大腿脂肪、筋肉などの量を計測し、代謝(グルコースやインスリンなど)、脂質(コレステロールなど)について調べ、脳のPET検査も行った。

 その結果、内臓脂肪のレベルが高いことは、脳の血流の低下や、アルツハイマー病の発症の原因になる重要な分子であるアミロイドの増加と関連していることが分かった。中年期の内臓脂肪の蓄積や肥満、インスリン抵抗性があること、善玉のHDLコレステロールの低値などが、脳内のアミロイドの増加に与える影響の77%を占めることが明らかになった。

 「多くの人は40~50代という中年期にすでに、アルツハイマー病のもっとも初期段階の病理があらわれます。早くから食事や運動などのライフスタイルの改善に取り組み、必要に応じて薬物療法を行い、適切な体重管理や内臓脂肪の減少などに取り組めば、アルツハイマー病の発症を予防したり遅らせられる可能性があります」と、ラジ氏は指摘している。

 「とくに内臓脂肪型の肥満が原因になるアルツハイマー病のリスクを減らすために、体脂肪の増加にともない生じる代謝や脂質の異常をターゲットにする必要があります」としている。

世界肥満デー (World Obesity Day)
Tübingen Study: The Brain Plays a Central Role in the Development of Obesity (ドイツ糖尿病研究センター 2025年2月27日)
A short-term, high-caloric diet has prolonged effects on brain insulin action in men (Nature Metabolism 2025年2月21日)
Hidden Fat Predicts Alzheimer's 20 Years Ahead of Symptoms (北米放射線学会 2024年12月2日)
Relationships between abdominal adipose tissue and neuroinflammation with diffusion basis spectrum imaging in midlife obesity (Obesity 2024年11月8日)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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