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2024年12月09日

【1型糖尿病の最新情報】幹細胞由来の膵島細胞を移植する治療法の開発 危険な低血糖を防ぐ新しい方法も

 1型糖尿病の新しい治療法として、ES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)といった幹細胞から作った膵島細胞を移植し、インスリンの分泌を復活させる治療の開発が進められている。

 1型糖尿病の人の危険な低血糖を防ぐ、新しい方法の開発も進行中だ。最新の情報をご紹介する。

1型糖尿病は2型糖尿病とは異なる

 1型糖尿病は、血糖値を下げるインスリンを分泌する膵臓のβ細胞が、壊されてしまうことで発症する。

 一般的に糖尿病として認知され、糖尿病の人の9割以上を占める2型糖尿病とは、1型糖尿病の発症の原因や治療のあり方はまったく異なる。

 生活習慣病とも呼ばれる2型糖尿病は、中高年以降の人が多く発症するが、1型糖尿病は、世界中で幅広い年齢の人が発症しているものの、小児期や思春期の若い人が発症することが多い。

 1型糖尿病でβ細胞が壊される原因ははっきりとは分かっていないが、免疫反応が正しく働かず、自分の細胞を攻撃してしまう「自己免疫」が関わっていると考えられている。

 1型糖尿病を発症すると、β細胞からインスリンがほとんど分泌されなくなることが多く、血糖を調整するインスリンを注射やインスリンポンプで補充し、血糖管理を生涯続ける必要がある。

幹細胞由来の膵島細胞を移植する新しい治療法
移植した膵島細胞を免疫から保護する方法を開発

 1型糖尿病の新しい治療法として、ES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)といった幹細胞から作った膵島細胞を移植し、血糖値を調整するインスリンの分泌を復活させる治療の開発が、世界中で進められている。

 幹細胞由来の膵島細胞を増やし移植する治療法は、すでに臨床試験がはじめられている。しかし、膵島細胞を新たに作り移植して、インスリンの分泌を再開できても、自己免疫により移植した膵島細胞がまた壊されてしまうおそれがあることなどが課題になっている。

 現在行われている膵島細胞の移植では、免疫抑制剤の使用が必要であり、移植を受けた1型糖尿病の人の負担は大きい。

 そこで、米国のサウスカロライナ医科大学とフロリダ大学は、体の免疫反応を監視し調整する免疫細胞の一種である制御性T細胞の働きに着目し、移植した膵島細胞を免疫から保護する治療法の開発を進めている。

 幹細胞から作りだした膵島細胞に、免疫細胞が反応しなくなるタグ(上皮成長因子受容体の不活性化バージョン)を組み込み、自己免疫から守る仕組みが考えられている。

 このタグは不活性で、細胞の機能に悪影響を与えたり、副作用を引き起こす可能性はないという。すでに免疫不全マウスを使った実験で、タグ付けした膵島細胞と制御性T細胞の働きにより、膵島細胞が保護され、インスリンの分泌が保たれ安全・正常に機能することを確かめている。

 「幹細胞の工学と制御性T細胞の工学を組み合わせることで、1型糖尿病の治療にすぐにでも活用できる技術開発の第一歩をふみだすことができました」と、サウスカロライナ医科大学で免疫学を研究しているレオナルド フェレイラ氏は述べている。

1型糖尿病の低血糖を防ぐ方法を開発1
血糖値を上げるグルカゴンを放出するナノカプセルを開発

 低血糖は、主に血糖値を下げる薬を使用し、血糖値が正常範囲以下にまで下がった状態。

 血糖値が70mg/dL以下になると、空腹感、冷汗、不安感といった低血糖の症状があらわれ、さらに血糖値が下がると、意識障害や昏睡などの危険な症状があらわれ、適切に治療をしないと死にいたることもある。

 1型糖尿病の人はインスリンだけでなく、血糖値を上げるグルカゴンの分泌も不足していることが多いという。肝臓でのブドウ糖生成を促し、血糖値を正常化するグルカゴンが分泌されないと、危険な低血糖のリスクが高まる。

 そこでカリフォルニア大学などは、1型糖尿病の低血糖の新たな治療法として、血糖値が危険なレベルまで低下するとグルカゴンを放出するナノカプセルの開発に取り組んでいる。

 研究は、米国化学会(ACS)が発表したもので、カリフォルニア大学ロサンゼルス校内分泌学部のアンドレア ヘベナー氏や生物化学部のヘザー メイナード氏らによるもの。

 研究グループは、薬物送達に使用されるナノスケールのコロイド状粒子であるミセルに着目し、血糖値が正常なときには血液中のグルカゴンを包み込んで保護し、危険な低血糖になると溶解するグルコース応答性ミセルを開発した。ナノカプセルを事前に注入し、低血糖時にのみ作用する治療を想定している。

 インスリン誘発性低血糖のマウスに、このグルカゴンを包み込んだミセルを注射したところ、40分以内に血糖値は正常域に回復した。このミセルはマウスの体内でそのままの状態を保ち、血糖値が臨床閾値を下回り重度の低血糖になったときのみに、グルカゴンを放出することも実証した。

 低血糖の治療に使われている、従来の緊急時のグルカゴン注射は約30分で血糖値を上げるが、人の助けが必要になる場合がある。さらに、1型糖尿病の人は低血糖発作の多くは夜間に発生しており、夜間に血糖測定などを行うのは困難であることも多い。

 開発に取り組んでいる技術は、従来の治療法の課題を解決するものとしている。

1型糖尿病の低血糖を防ぐ方法を開発2
グルカゴンを分泌する能力を回復して低血糖を防ぐ

 スウェーデンのヨーテボリ大学が発表した別の研究では、ソマトスタチンを阻害することが、1型糖尿病の人の危険な低血糖を防ぐ新たな治療戦略になることが示された。

 研究は、同大学細胞内分泌学部のパトリック ロールスマン教授らによるもので、研究成果は、「Nature Metabolism」に掲載された。

 一方、消化管ホルモンであるソマトスタチンには、インスリンやグルカゴンなどの分泌を調整する働きがあることが知られている。研究グループは今回、1型糖尿病の人ではソマトスタチンが分泌され、低血糖時のグルカゴン分泌を阻害していることに着目した。

 1型糖尿病マウスで、薬理学的にソマトスタチンを阻害すると、低血糖時に膵臓がグルカゴンを分泌する能力が回復し、危険な低血糖を防げることを確かめた。

 β細胞を活性化した遺伝子組み換えマウスを使用し、膵島内の異なる細胞タイプ(グルカゴンを分泌するα細胞、インスリンを分泌するβ細胞、ソマトスタチンを分泌するδ細胞)間の相互作用のマッピングにも成功した。

 「今回の新しい発見により、β細胞とδ細胞のあいだのオープンセル接続を通じて発生する電気信号伝達の、これまで知られていなかった重要な役割が明らかになりました」と、同大学生理学部のアンナ ベンリック氏は述べている。

 「ソマトスタチンを阻害することで、血糖値の危険な低下を薬理学的に抑制できるという発見は、1型糖尿病の低血糖を防ぐ治療法の可能性を切り開くものです」としている。

Revolutionary bioengineering research may transform type 1 diabetes care, pave way for tackling cancer and autoimmune disease (サウスカロライナ医科大学 2024年11月25日)
Combinatorial genetic engineering strategy for immune protection of stem cell-derived beta cells by chimeric antigen receptor regulatory T cells (Cell Reports 2024年11月26日)
A new injectable to prevent and treat hypoglycemia (米国化学会 2024年10月2日)
A Glucose-Responsive Glucagon-Micelle for the Prevention of Hypoglycemia (ACS Central Science 2024年10月2日)
Potential strategy against blood glucose drops in type 1 diabetes (ヨーテボリ大学 2024年9月30日)
Loss of electrical β-cell to δ-cell coupling underlies impaired hypoglycaemia-induced glucagon secretion in type-1 diabetes (Nature Metabolism 2024年9月23日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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