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2024年09月19日

1型糖尿病のランナーが東京マラソンを完走 CGMとインスリンポンプを組み合わせたシステムでより活動的に

 持続血糖モニタリング(CGM)とインスリンポンプを組み合わせた、インスリン投与量をアルゴリズムにもとづき自動的に調整し、継続的に投与する新しい技術により、1型糖尿病とともに生きる人が、フルマラソンを完走できるようになったと、欧州糖尿病学会(EASD)で発表された。

 1型糖尿病を管理するために、CGMやインスリンポンプが広く利用されるようになっているが、1型糖尿病のある成人が運動に取り組むうえで、低血糖への恐怖はいぜんとして大きな障壁となっていることも示された。

1型糖尿病のランナーが東京マラソンを完走

 持続血糖モニタリング(CGM)とインスリンポンプを組み合わせて、インスリン投与量をアルゴリズムにもとづき自動的に調整し、継続的に投与する新しい技術により、1型糖尿病の成人3人が、血糖値の管理がより改善し、より活動的な生活をおくれるようになった結果、フルマラソンを完走できるようになったと、チリ カトリック大学などが発表した。

 研究は、スペインのマドリードで9月に開催された欧州糖尿病学会(EASD)で発表されたもの。

 その1人は、1型糖尿病の病歴が22年の50歳の男性で、東京マラソンを2023年3月に3時間34分のタイムで完走した。

 使用された「アドバンス ハイブリッド クローズドループ(AHCL)」と呼ばれる新しい技術は、CGMとインスリンポンプをアルゴリズムにより連携し、測定された血糖値に応じてインスリン投与量を自動的に調整し、5分ごとに投与するもの。つまり、血糖値の持続的な変化をよみとり、それにあわせてインスリンを適切・継続的に投与することが可能になる。

 その男性は、AHCLを組みこんだシステムを使用した結果、レース30日前には血糖値が目標範囲内(TIR、70~180mg/dL)におさまった時間は89%に上り、範囲を超えた時間(>180mg/dL)は9%、下回った時間(<70mg/dL)は1%で、過去1~2ヵ月の血糖値平均をあらわすHbA1cを6.9%にコントロールしていた(合併症予防のためのHbA1cの目標は7.0%未満)。

 その男性はレース中も、良好な血糖コントロールを維持し、マラソンに取り組んだ時間の96%は血糖値が適正な範囲内におさまり、範囲を下回ったのはわずか4%で、範囲を超えた時間はなかった。血糖値の平均は107mg/dLで、成人に推奨される平均血糖値154mg/dL未満を大幅に下回った。

 なお、低血糖を防ぐため、マラソン当日は朝食のインスリン投与量を25%減らし、血糖値をより適切に管理するため、レース前の軽食に適用するインスリン投与量も50%減らすなど、調整も行ったという。

糖尿病とともに生きる人生がより健康・安全・活動的になることを期待

 もう1人は、1型糖尿病の病歴が4年の40歳の男性で、チリのサンティアゴマラソンに2023年5月に参加し、4時間56分のタイムで完走した。

 レース30日前には、目標血糖値の範囲内におさまった時間は76%、範囲を超えた時間は9%、下回った時間は3%、HbA1cは6.7%だった。

 この男性は、マラソンに取り組んだ全時間、血糖値を適正範囲内にコントロールし、平均血糖値は110mg/dLだった。このことは、このシステムがリアルタイムで反応する能力があることを裏付けている。

 3人目は、1型糖尿病の病歴が27年の34歳の女性で、パリマラソンを2023年4月に3時間56分で完走した。

 「インスリン製剤や医療機器などは進歩しており、血糖値をモニターしインスリンを投与する治療は改善されています。しかし、マラソンのような長時間の有酸素トレーニングや競技中に、血糖値を目標範囲内に維持するのは容易ではありません」と、同大学で糖尿病代謝学を研究しているマリア オネット氏は言う。

 「この新しい技術は画期的で、糖尿病ともに生きる人々がより安全・健康・活動的に生活できるようになると期待されます。今回のケーススタディが、自動インスリン投与システムを使用しながら、マラソンのような激しい運動に挑戦する1型糖尿病のアスリートたちを支援するための有益な情報になることを願っています」としている。

1型糖尿病の人が運動に取り組むうえで低血糖への恐怖は大きな障壁に

 1型糖尿病を管理するために、持続血糖モニタリング(CGM)やインスリンポンプが広く利用されるようになっているが、1型糖尿病のある成人が運動や身体活動に取り組むうえで、低血糖への恐怖はいぜんとして大きな障壁となっていることが、英ダンディー大学の別の研究で示された。

 「糖尿病を管理するための医療は進歩していますが、毎週推奨される運動量を行えず、健康的な体重を維持できないでいる1型糖尿病の人は少なくありません。低血糖に対する恐怖心が大きく影響しています」と、同大学で糖尿病内分泌学を研究しているカトリオナ ファレル氏は述べている。

 「調査では、運動前後のインスリン投与量の調整、および運動時の炭水化物摂取量の調整が重要であることをよく理解していた患者は、運動や身体活動にともなう低血糖に対する恐怖がより少ないことも示されました」としている。

 研究グループは、1型糖尿病の成人463人(男性 221人、女性 242人)を対象に、1型糖尿病の身体活動の障壁を修正版BAPAD-1スケールで測定し、1型糖尿病と身体活動に関する知識と障壁、関連する予測因子などを評価した。

 今後6ヵ月月間に定期的な運動を行えなくなる可能性について評価した結果、運動やスポーツにともなう低血糖に対する恐怖が、運動参加を促すのを妨げる障壁になっていることが示された。

 運動を妨げる要因には、▼糖尿病の管理不良、▼低血糖のリスク、▼疲労への不安、▼ケガへの不安、▼体力レベルが低い、▼社会的支援の欠如などが含まれていた。

 なお、参加者の年齢は45~54歳で、1型糖尿病の罹病期間の平均は21~25年、HbA1cの平均は6.8~7.2%だった。

 参加者の4分の3以上(79%)が、CGMあるいはSMBGで血糖モニタリングを行っており、3分の2近く(64%)が毎日複数回のインスリン注射による治療を行っており、3分の1以上(36%)がインスリンポンプを使用していた。

 「運動にともなう低血糖のリスクがいぜんとして、運動や身体活動の大きな障壁となっていることが明らかになりました。運動によって引き起こされる低血糖を防ぐために、運動を行うときにインスリンおよび/または炭水化物摂取量を調整するための知識が必要です」と、ファレル氏は言う。

 「運動に対する障壁を打ち破り、糖尿病とともに生きる人がより安全・効果的に運動ができるようにするために、医療機関などは糖尿病と運動に関する教育と対話の機会を提供する必要があります」としている。

欧州糖尿病学会年次総会(EASD 2024)
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[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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