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2024年07月23日

【1型糖尿病の最新情報】1型糖尿病を根治する新しい治療法の開発 幹細胞由来の膵島細胞を移植

 幹細胞由来の膵島細胞を増やした後に移植する、新たな治療法の開発が進められており、このほど第1/2相試験が成功したと、米国糖尿病学会(ADA)が発表した。

 移植された幹細胞由来の膵島は、本物の膵島と同様に機能し、移植を受けた1型糖尿病患者の全員が、HbA1cが7.0%未満に低下し、インスリンの投与が減るか完全になくなり、重症の低血糖イベントはなくなり、血糖値が目標範囲内におさまった時間が70%超に増加した。

 「この治療法が1型糖尿病の治療の極めて重要な進歩となることを期待しています」と、研究者は述べている。

幹細胞由来の膵島細胞により1型糖尿病の人をインスリン依存から解放

 幹細胞由来の膵島細胞を増やした後に、点滴により移植する、新たなVX-880の第1/2相試験であるFORWARD試験の新しい成果が発表された。

 研究は、6月にフロリダ州オーランドで開催された「第84回米国糖尿病学会年次学術集会」(ADA 2024)で発表されたもの。

 開発が進められているVX-880は、インスリンを分泌する膵島細胞を幹細胞から分化し増やして、1型糖尿病患者に移植する新しい治療法だ。

 新たに作った膵島細胞を肝門脈への注入によって移植することで、血糖に応答してインスリンを産生する膵島細胞の機能を復活させ、血糖値を調節する能力を回復するというもの。これにより1型糖尿病の人をインスリン治療から解放し、負担を軽減することを目指している。

 1型糖尿病は、血糖値を下げるインスリンを分泌する膵臓のβ細胞が、壊されてしまうことで発症する。β細胞からインスリンがほとんど分泌されなくなることが多く、1型糖尿病と診断されたら、インスリンを注射やインスリンポンプで補充し、血糖管理を生涯続ける必要がある。

 1型糖尿病は、世界中で若い人を中心に幅広い年齢の人が発症している。一般的に糖尿病として認知されている糖尿病の9割以上を占め生活習慣が関わる2型糖尿病とは、1型糖尿病の発症の原因や治療の考え方は異なる。

 1型糖尿病でβ細胞が壊される原因はよく分かっていないが、免疫反応が正しく働かず、自分の細胞を攻撃してしまう「自己免疫」が関わっていると考えられている。

 1型糖尿病では、血糖管理を適切に維持できないでいると、心臓、腎臓、眼、神経などの合併症を発症する危険性が高まる。そのため1型糖尿病の人は、毎日4~5回の注射、あるいはポンプによるインスリン補充による血糖管理を行っている。

 糖尿病を管理することで、糖尿病のない人と同じように生活できる。社会で活躍している1型糖尿病の人は、日本を含む世界中に多い。米国疾病予防管理センター(CDC)によると、1型糖尿病の成人の数は米国だけでも約170万人に上る。

 しかし、インスリン治療をがんばっていても、血糖管理が不安定になったり、低血糖の頻度が高くなる場合がある。さらには、1型糖尿病がもたらす負担は、多くの患者やその家族にとって大きく、精神的・経済的な負担も重い。1型糖尿病の根治を、ほとんどの患者と家族が願っている。

移植を受けた1型糖尿病患者の全員がHbA1c 7.0%未満に改善

 米国糖尿病学会で発表された、VX-880の第1/2相試験であるFORWARD試験に参加したのは、1型糖尿病で低血糖の自覚障害があり、1年間に2回以上の重症の低血糖イベントを経験している成人12人(平均年齢 44歳、平均HbA1c 7.8%)。

 VX-880を点滴で移植された患者は、全員が90日目までに膵島細胞の移植とグルコース応答性のインスリン分泌が確認され、血糖管理が改善した。

 全員のHbA1cが7.0%未満に低下し、インスリンの投与が減るか完全になくなり、重症の低血糖イベントはなくなり、血糖値が目標範囲内におさまった時間が70%超に増加した。

 さらに、膵島細胞の移植後の180日の追跡期間を完了した10人の参加者のうち、7人は外因性インスリンを使用しておらず、2人はインスリン使用量が約70%減少した。

 注目すべきことは、1年を超える追跡調査を受けた参加者の100%が、12ヵ月目にもHbA1cを7.0%未満に維持し、重度の低血糖イベントもなくなり、インスリン非依存という目標を達成したことだ。

 「これらのデータは、幹細胞由来の膵島であるVX-880が、本物の膵島と同様に機能し、患者に大きな利益をもたらす可能性があることを示しています」と、シカゴ大学外科および膵臓・膵島移植プログラムのディレクターであるピオトル ウィトコウスキー教授は述べている。

 「VX-880の開発により、1型糖尿病の治療に革命を起こし、外因性インスリン投与以外の代替ソリューションを提供できるようになる可能性があります。この治療法が1型糖尿病の治療の極めて重要な進歩となることを期待しています」としている。

1型糖尿病の治療に革命を 今後の研究に期待

 1型糖尿病の人や膵臓手術を受けた人が、インスリン治療が困難で血糖管理が不安定になり、重度の低血糖の頻度が高くなっている場合、膵島移植という治療法がある。これは、臓器提供者(ドナー)より提供された膵臓から膵島細胞を分離して移植する治療法。

 しかし、膵島移植は有用であるものの、ドナー不足が深刻な課題になっている。幹細胞から分化した膵島を移植する治療法が実現すれば、こうした課題も解決できる。移植した膵島細胞を免疫拒絶から保護する免疫抑制療法の開発も進められている。

 VX-880の試験は今後も進められ、さらに拡大される予定で、現在、37人の1型糖尿病の参加者が登録されているという。将来的に1型糖尿病の人にVX-880を提供するという目標をサポートするため臨床データが集められる。

Expanded FORWARD Trial Demonstrates Continued Potential for Stem Cell-Derived Islet Cell Therapy to Eliminate Need for Insulin for People with T1D (米国糖尿病学会 2024年6月21日)
Vertex Announces Positive Results From Ongoing Phase 1/2 Study of VX-880 for the Treatment of Type 1 Diabetes Presented at the American Diabetes Association 84th Scientific Sessions (バーテックス 2024年6月21日)
National Diabetes Statistics Report (米国疾病予防管理センター 2024年5月15日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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