ニュース

2024年12月17日

握力が低下している人は糖尿病リスクが高い 握力や体力を維持して糖尿病リスクを減少

 握力が低下している人は、糖尿病リスクが高いことが明らかになった。握力は全身の筋力の指標となる。

 中高年や高齢者だけではなく、若い人も握力と体力が低下していると、年齢を重ねると2型糖尿病を発症するリスクが上昇することも分かった。

 「握力は、年齢を重ねるにつれ低下していくので、時間の経過にともなうその強度の変化を調べることは、健康的な老化を知るための有力な手がかりになります」と、研究者は指摘している。

 「握力が低下している人は、筋力トレーニングなどにより、筋力の向上に取り組むことで、糖尿病リスクを軽減できる可能性があります」としている。

握力は手軽に測定でき、筋力の目安になる

 握力は、物を握るときに発揮される力のことで、全身の総合的な筋力と関連することが多く、筋力のひとつの指標となる。

 握力は簡便にどこでも測定でき、コストも低いので、日本でも筋力測定の指標として多く用いられている。

 握力が弱い、つまり筋力が弱い人は、体力が低下していることが多く、さまざまな原因による死亡や心血管疾患などのリスクが高く、体に障害が発生するリスクも高くなることが知られている。

 握力は、高齢者に多くみられる骨格筋量や筋力、歩行などの身体機能が低下した状態であるサルコペニアの指標にもなる。

握力を測ると糖尿病リスクが分かる

 握力が低下している人は、2型糖尿病のリスクが高いことが、英国のブリストル大学の研究で明らかになっている。

 研究グループは、糖尿病の病歴のない60〜72歳の776人の成人の握力を、20年間にわたり追跡して測定し、糖尿病の発症との関連を調べた。

 その結果、握力値が減少するごとに、2型糖尿病のリスクは上昇することが明らかになった。

 「握力が低下している人は、筋力トレーニングなどにより筋力の向上に取り組むことで、2型糖尿病のリスクを軽減できる可能性があります」と、同大学筋骨格研究ユニットのセトル クヌッソール氏は述べている。

関連情報

握力が低下している人は要注意

 日本の順天堂大学の調査でも、血糖値を下げるインスリンが働きにくくなるインスリン抵抗性があり、握力が低い人は、糖尿病のリスクが高いことが明らかになっている。

 インスリン抵抗性があり、握力が男性 28kg未満、女性 18kg未満に低下している人は、2型糖尿病のリスクが高いことが、東京都文京区に在住する高齢者1,629人を対象に実施した「文京ヘルススタディー」で示された。

 とくに全身の筋肉が少ないうえに肥満もある「サルコペニア肥満」の状態にある人は、糖尿病だけでなく、高血圧や心疾患などのリスクも高いことから、関心が高まっている。

筋力が低下している人は糖尿病リスクが高い

 握力が低下している人が、2型糖尿病のリスクが高いことは、米国のオークランド大学の研究でも示されている。

 「糖尿病と診断されたことのない人でも、握力が低下していると、2型糖尿病のリスクが高いことが分かりました。体重や年齢に応じて握力を測定することが、2型糖尿病のリスクを知るために有力な手がかりになる可能性があります」と、同大学公衆衛生環境学部のエリーゼ ブラウン氏は言う。

 「糖尿病のある人が、血糖値が高い状態が続くと、血管に障害が起こり合併症を発症するリスクが高くなります。合併症を予防するために、糖尿病を早期に診断することが重要になります」としている。

 研究グループは、米国健康・栄養調査(NHANES)に参加した5,108人の成人のデータを解析し、2型糖尿病のリスクを知るための握力のカットポイントを導き出した。

若い人も握力と体力が低下していると将来に糖尿病リスクが

 握力の低下が問題になるのは、中高年や高齢者だけではない。18歳の若年者も、握力と体力が低下していると、年齢を重ねると2型糖尿病を発症するリスクが上昇することが分かった。

 研究は、米国のマウントサイナイ医科大学や、スウェーデンのルンド大学によるもの。研究グループは、1969~1997年に健康や体力についての検査を受けた150万人以上の男性を20年以上追跡したデータを解析した。

 その結果、若年期に握力が低下し、運動中に酸素を取り込みエネルギーを作り出す能力が低下していた男性は、そうでない男性に比べ、中年期になると2型糖尿病を発症するリスクが3倍に上昇することが分かった。

 「握力が低下している人は、全身の筋力が低下し、体力が低下している可能性があります。ウォーキングなどの有酸素運動と、筋力トレーニングに取り組むと、筋力や体力を向上することができます」と、マウントサイナイ医科大学の家庭医学・地域保健学部のケーシー クランプ教授は言う。

 「糖尿病を予防・改善するための対策は、若いころからはじめる必要があります。学校で適切な体育プログラムを提供したり、地域社会に子供や若者のための安全な遊び場を整備するなど、若い人のためのより効果的なライフスタイル介入が求められています」としている。

握力の国際基準を新たに策定

 握力の国際基準が新たに策定され、発表された。握力計により測定した握力が、最下位の20パーセンタイル未満の成人は「低い」と判定され、20〜39パーセンタイルの成人は「やや低い」と判定される。

 研究は、南オーストラリア大学が主導し、世界中の140人の研究者と共同で実施したもので、69ヵ国の20歳から100歳以上の成人240万人を対象とした100件の研究にもとづいている。

 「握力は、一般的に30~39歳にピークに達し、その後は年齢を重ねるにつれ低下していくので、時間の経過にともなうその強度の変化を調べることは、健康的な老化を知るための有力な手がかりになります」と、同大学で運動・栄養学を研究しているグラント トムキンソン教授は述べている。

Handgrip strength shown to identify people at high risk of type 2 diabetes (ブリストル大学 2020年9月2日)
Handgrip strength improves prediction of type 2 diabetes: a prospective cohort study (Annals of Medicine 2020年9月3日)
高齢者における握力低下とインスリン抵抗性の併存が 2型糖尿病リスクを著しく高めることを発見~高齢者の健康問題に新たな指標~ (順天堂大学 2024年4月3日)
Low Handgrip Strength (Possible Sarcopenia) With Insulin Resistance Is Associated With Type 2 Diabetes Mellitus (Journal of the Endocrine Society 2024年2月2日)
Evaluating grip strength to identify early diabetes (American Journal of Preventive Medicine 2020年4月6日)
Grip Strength Cut Points for Diabetes Risk Among Apparently Healthy U.S. Adults (American Journal of Preventive Medicine 2020年6月)
Lack of Physical Fitness in Youth Associated With Threefold Risk of Developing Type 2 Diabetes in Adulthood (マウントサイナイ医科大学 2016年3月7日)
Physical Fitness Among Swedish Military Conscripts and Long-Term Risk for Type 2 Diabetes Mellitus: A Cohort Study (Annals of Internal Medicine 2016年3月8日)
Getting a grip on health norms: Handgrip strength International strength standards (南オーストラリア大学 2024年12月7日)
International norms for adult handgrip strength: A systematic review of data on 2.4 million adults aged 20 to 100+ years from 69 countries and regions (Journal of Sport and Health Science 2024年12月6日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲