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2025年02月10日

糖尿病の人に「不規則な生活」はなぜNG? 体内時計が乱れるとインスリン作用が低下 どうすれば改善できる?

 ヒトの体には、ほぼ1日の周期で体内リズムを調整する「体内時計」の機能がそなわっている。

 体内時計が乱れて、概日リズムに異常があらわれると、糖尿病や高血糖につながりやすいことが明らかになった。

 朝に太陽光などの強い光を浴びると、体内時計をリセットでき、生体リズムを整えられることも分かった。

体内時計の乱れは糖尿病のリスクを高める

 ヒトの体には、ほぼ1日の周期で体内リズムを調整する「体内時計」の機能がそなわっており、ホルモンの分泌や代謝、睡眠などに関わる概日リズムを調整している。

 概日リズムの乱れは、高血糖を引き起こし、糖尿病のリスクを高めることが、英国のインペリアル カレッジ ロンドンなどの研究で明らかになっている。

 通常は、膵臓から分泌されるホルモンであるインスリンの働きにより、血糖値は一定の範囲におさまっている。膵臓では24時間の自然な周期で、インスリンの分泌が調整されている。

 しかし、インスリンが減ったり、働きが悪くなると、食事からとったブドウ糖を体内でうまく利用できなくなり、血液中にブドウ糖がたまり高血糖が起こる。

概日リズムが乱れて睡眠をとれなくなると糖尿病や肥満のリスクが上昇

 「研究では、概日リズムの異常が、糖尿病や高血糖につながりやすいことが示されました」と、同大学ゲノム医学部のフィリップ フロゲル教授は言う。

 「とくに、体内時計が乱れて、睡眠を十分にとれなくなると、糖尿病や肥満のリスクが上昇します」。

 通常であれば、食事をとり血糖値が上昇しても、インスリンが分泌され、血糖値が上がりすぎないように調整される。インスリンの分泌は夜間には低レベルになる。

 それとは逆に、睡眠や覚醒のリズムを調節するホルモンであるメラトニンのレベルは、日中は低く、夜間は高くなる。

 しかし、不規則な生活や加齢などにともない、メラトニンの分泌が乱れると、睡眠パターンに異常があらわれ、血中のインスリン濃度も乱れ、血糖値の調整が難しくなるという。

概日リズムを改善すると血糖管理が良くなる可能性が

 睡眠を十分にとれず、血糖値が高くなっている人は、睡眠障害を治療することで、血糖管理を改善できる可能性がある。

 「糖尿病、肥満、睡眠障害、メンタルヘルス不調などはそれぞれ関連していることが、これまでの研究でも示されています。そのメカニズムの多くに、概日リズムが関連していると考えられます」と、フロゲル教授は指摘している。

 研究グループは、2,151人の糖尿病ではないフランス人の遺伝子構成を分析し、その後、フランス、デンマーク、フィンランドの1万6,000人以上の遺伝子を調べた。

 その結果、特定の遺伝子変異が高血糖や糖尿病のリスク上昇と関連しており、メラトニンの作用を制御するシグナル伝達経路の一部を形成しており、概日リズムの異常と糖尿病リスクを関連付けていることを突き止めた。

概日リズムが正常だとインスリンに対する感受性が高まる

 体内時計の乱れは、糖尿病や肥満につながり、心臓病のリスクも高めることが、米国のヴァンダービルト大学による別の研究でも明らかになっている。

 研究グループは、体内時計の働きと代謝のさまざまな側面について調べ、体内時計の乱れがインスリン作用の24時間周期に影響することを明らかにした。

 「血糖値を調整するインスリンの働きは、さまざまな要因によって低下することがあり、インスリン抵抗性と呼ばれています」と、同大学分子生理学・生物物理学部のオーウェン マクギネス教授は言う。

 「研究では、細胞のインスリンに対する反応は、概日リズムの影響を受けることを、実際にそれを測定し明らかにしました」としている。

 研究グループは、体内時計の正常な機能に必要な遺伝子を除去したマウスは、概日リズムが乱れ、インスリン抵抗性が起こり、体に余分な脂肪が蓄積され肥満になることを確かめた。

 さらに、常時照明のある環境に置かれ概日リズムを乱したマウスは、食べる量が少ないにもかかわらず、体脂肪が増え肥満になり、それにともないインスリン抵抗性や、糖尿病と心血管疾患のリスクが高まった。

 「24時間周期の体内時計が正常に動作していると、インスリンに対する感受性が高まり、血糖値の調整を改善しやすくなると考えられます」と、マクギネス教授は述べている。

朝に太陽光を浴びると体内時計をリセットできる
最適なタイミングで光を浴びて生体リズムを整える
 朝に太陽光などの強い光を浴びることで、体内時計をリセットでき、生体リズムを整えられるという研究が発表された。

 現代の24時間活動をしている社会では、生活パターンが不規則となりやすく、太陽のリズムと関係のない生活をしている人は多い。

 そのため体内時計がずれてしまい、生体リズムに異常をきたし、多くの人は睡眠障害などの不調があらわれている。

 目から入った光は、脳の視床下部にある視交叉上核に伝わる。この神経核は、睡眠や覚醒などの概日リズムを支配する体内時計の中枢とみられている。

 朝に太陽光を浴びるのが難しいという人のために、高照度光療法器具などを使った、人工的な強い光による光療法も開発されている。

 米国のコロラド大学は、時間のタイミングをはかりながら強い光を浴びる光療法により、概日リズムを調整でき、心臓に良い影響があらわれるという研究を発表した。

 「概日リズムは、心臓血管系の機能にも影響します。血圧と心拍は1日のなかで明確なパターンをたどり、昼間にピークに達し、夜間に低下します。これが乱れると、心筋梗塞や心不全などの心臓血管疾患があらわれやすくなります」と、同大学医学部麻酔科のトビアス エックル教授は言う。

 エックル教授は、概日リズムと健康の関連について長年研究しており、1日の適切なタイミングに強い光を浴びることが、体の治癒力を高め、虚血性心疾患などの可能性を減らすことなどを確かめてきた。

 研究グループはすでに、手術後の患者に対して光療法を行い、心臓発作や脳卒中の兆候となるタンパク質であるトロポニンの値が低下するなど、良好な結果を得ているという。

 「概日リズムは、心臓血管の健康にも重要な役割を果たしており、光を使った治療を食事療法などと組み合わせた治療は、心血管疾患を発症した患者さんにも有用と考えられます。ヒトを対象としたさらなる研究が必要とされています」と、エックル教授は指摘している。

Body Clock Linked To Diabetes And High Blood Sugar In New Genome-wide Study (インペリアル カレッジ ロンドン 2008年12月8日)
A variant near MTNR1B is associated with increased fasting plasma glucose levels and type 2 diabetes risk (Nature Genetics 2008年12月7日)
Circadian clock linked to obesity, diabetes and heart attacks (ヴァンダービルト大学 2013年2月21日)
Circadian Disruption Leads to Insulin Resistance and Obesity (Current Biology 2013年3月4日)
Therapy Using Intense Light and Chronological Time Can Benefit Heart: Study shows circadian rhythms critical in circulatory system health (コロラド大学 2024年3月14日)
Circadian Mechanisms in Cardiovascular and Cerebrovascular Disease (Circulation Research 2024年3月14日)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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