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2012年10月15日
血管内皮機能は体温日内変動と相関するが、糖尿病ではその関係が破綻
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- 糖尿病の検査(HbA1c 他) 糖尿病合併症
虚血性疾患における体温日内変動と血管内皮機能の関係に着目した研究から、血管内皮機能が良好であるほど体温日内変動が大きいことが報告された。また、糖尿病患者、特に神経障害のある患者では、両者の関係が非糖尿病患者とは異なることが示された。東京大学大学院医学系研究科循環器内科・網谷英介氏らが、第35回日本高血圧学会総会(9月20〜22日・名古屋)で、『体温の日内変動と血管内皮機能』と題し発表した。
体温の日内変動が心不全リスクと相関するとの報告もあるが、循環器疾患と体温変動とのは関係はよくわかっていない。一方、血管や血流は体温調節を担う重要なファクターであり、循環器系の障害により体温調節の異常を来すことが知られている。今回報告された網谷氏らの研究は、体温を規定する因子としての血管内皮機能と腋窩体温との相関を、各種臨床パラメーターとの関係とともに検討したもの。
虚血性心疾患患者では体温変動の標準偏差が少ない
対象は、虚血性心疾患の入院患者46名。入院中の3日間に腋窩体温を1日数回測定し、その平均値、最高値と最低値の差(変動幅)、標準偏差(SD)を解析した。血管内皮機能は、FMD(Flow Mediated Dilation.血流依存性血管拡張反応)で評価し、FMD測定時には心拍変動を記録して交感神経系との関係も解析した。
主な患者背景は、年齢68.3±7.1歳、BMI24.7±3.5、HbA1c6.2±1.3%、eGFR61.7±16.9、BNP99.1±198.1pg/dL、FMD3.93±1.38%、交感神経系の指標であるSDNN(R-R間隔の標準偏差)24.4±9.5ms、心筋梗塞15.2%、狭心症84.9%、糖尿病45.7%など。
まず、対象である虚血性心疾患(IHD)群46名の平均体温は36.31±0.25℃、変動幅は0.72±0.30℃、標準偏差0.29±0.12で、対照とした非IHDのコントロール群46名と比較すると、IHD群の標準偏差が有意に小さいことが確認された(p=0.037)。
FMDのみ体温変動幅と正相関
次にIHD群内での解析では、体温変動幅は最低体温と強い負の相関があり(r=−0.78,p<0.0001)、体温が高いほどその変動幅は少なくなる傾向があった。
体温変動幅は最低体温のほかに、体表面積(r=−0.29,p<0.048)、上腕動脈血管径(r=−0.31,p<0.035)と負の相関がみられ、有意な正の相関はFMD(r=0.33,p<0.026)との間でのみみられた。その他、年齢や血圧、心拍数、ヘモグロビン、HbA1c、BNP、SDNNなどは有意な相関がなかった。
糖尿病ではFMDと体温変動幅の相関が失われる
前記の関係を糖尿病の有無別に検討すると、非糖尿病患者のFMDと体温変動幅の相関はより強くなった一方で(r=0.49,p<0.012)、糖尿病では両者の相関が消失した(r=0.063,p<0.69)。
また、非糖尿病では上腕動脈血管径が平均体温と正相関していたが(r=0.50,p=0.011)、糖尿病では相関がみられなかった(r=0.0001,p<0.99)。
神経障害があると体温変動幅とFMDの関係が逆転する
次に、対象を体温変動幅0.6℃を基準に二分し、非糖尿病、糖尿病、および糖尿病で神経障害を有する患者の各グループごとにFMD値を比較。非糖尿病では体温変動幅が大きい群のFMDが、体温変動幅の少ない群より有意に高かった(p=0.01)。しかし糖尿病や糖尿病神経障害を有するグループでは体温変動幅とFMDの有意な関係がなかった(図)。
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上腕動脈血管径を4.2mmで二分し平均体温との関係を比較した場合も同様に、非糖尿病では血管径が大きい群の平均体温が、血管径の小さい群より有意に高かったが(p<0.001)、糖尿病や糖尿病神経障害を有するグループでは有意な関係がなく、特に神経障害を有するグループにおいては、むしろ血管径が大きい群の平均体温が低い傾向にあった。
夜間/日中の平均体温と相関するのは、体表面積、糖尿病、FMD
続いて、体温の変動パターンへ影響を与える因子を検討するため、夜間の平均体温を日中の平均値で除した値が1を上回る群(29名)と下回る群(17名)とで比較したところ、両群で有意差がみられた項目として、体表面積(1.69±0.16m2 vs.1.59±0.14m2,p=0.031)、糖尿病(34% vs.65%,p=0.046)、FMD(4.26±1.36% vs.3.38±1.26%,p=0.034)の3項目が抽出され、年齢、血圧、心拍数、ヘモグロビン、HbA1c、BNP、SDNN、上腕動脈血管径などは有意な相関がなかった。
糖尿病では夕方の体温上昇傾向が障害されている
この体温変動パターンとFMDとの関係を、非糖尿病、糖尿病、および糖尿病で神経障害を有する患者の各グループごとにみた場合も、糖尿病の存在や神経障害併発の影響がみてとれる。
非糖尿病では、夜間の平均体温を日中の平均値で除した値が1を上回る群のFMDは、1を下回る群より有意に高いが(p=0.05)、糖尿病や糖尿病神経障害を有するグループでは有意差がなく、血管内皮機能と体温変動パターンの関連が確認できなかった。
以上のように、血管内皮機能と体温日内変動の有意な関係、それに及ぼす糖尿病、特に糖尿病神経障害の影響など、多くの示唆に富む結果が得られ、網谷氏は「体温に着目したアプローチは、今後の血管疾患の治療に関して新たな測定法や治療法の解明に役立つ可能性がある」とまとめた。
◇FMD関連情報:
- FMDは動脈硬化危険因子の集積を鋭敏に反映 CAVI・ABIとの比較
- 食後脂質異常が、食後高血糖よりも血管内皮機能低下に強く影響
- 肥満でEDの中年男性は生活習慣病未発症でも内皮機能が有意に低下
- ACS後の心リハによる運動耐容能向上は血管内皮機能の改善と相関
- DPP-4I追加と併用OHA別にみた内皮機能改善効果 FMDでの検討
- CADでは非糖尿病でも微量アルブミン尿出現率が高く、FMD低下と関連
- 上腕動脈IMT・FMDの同時計測で、冠動脈疾患リスクの層別化が可能
- DPP-4阻害薬の食後高脂血症改善を介した血管内皮保護作用
- 禁煙により酸化ストレスが低下し、血管内皮機能が有意に改善
- 糖尿病細小血管障害とFMD値が相関。短期加療による改善も評価可能
- 血管内皮機能は体温日内変動と相関するが、糖尿病ではその関係が破綻
- 心不全患者の心リハ。急性期のADL改善にも血管内皮機能が関与
- 糖尿病患者の冠疾患スクリーニングにFMDが有用
- 食事由来コレステロールよりはTGとアポB48が血管内皮機能に影響
- 直接レニン阻害薬の多面的効果 透析患者での血管内皮機能を改善
- DPP-4阻害薬の変更による血管内皮機能改善の上乗せ効果
- 塩分の多い食事は、食直後から血管内皮機能(FMD)を低下させる
- 血管内皮機能は血糖変動と逆相関し鋭敏に変化する
- 大豆イソフラボンがTGを低下させ、FMDを改善
- 「血管内皮機能検査」が診療報酬改定で新設される(厚生労働省)
- ミグリトールは冠動脈疾患併発糖尿病患者の血管内皮機能を改善する
- FMD低値は糖尿病発症の予測因子。ドックなどでは精密検査を
- 肥満2型糖尿病では、精神的ストレス軽減が血管内皮機能改善につながる
- 網膜症のある女性糖尿病患者は血管内皮機能(FMD)低下ハイリスク
- HDL-Cの血管内皮機能(FMD)保護作用は糖尿病で相殺される
- 仮面高血圧合併2型糖尿病では血管障害(FMDやPWV)が高度に進展
- DPP-4阻害薬は血管内皮機能(FMD)を改善する
- 脳や心臓の血管が詰まる前に。血管の若返りがわかる検査指標「FMD」
- 動脈硬化が早期にわかるFMD検査装置
- 血管内皮機能、FMD検査のユネクス
- 一般向けサイト 動脈硬化の進展を知る「FMD検査.JP」
[ DM-NET ]
日本医療・健康情報研究所
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