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2021年03月18日

【新型コロナ】「未来の自分」に手紙を書いてネガティブ感情を軽減 明るい未来を想像

 「未来の自分」を想像して手紙を書くことで、ネガティブな感情を減少できる可能性があることが、京都大学の研究で示された。
 新型コロナウイルス感染症の蔓延にともない、人々のネガティブ感情が高まっているなか、手紙を書くことは、すぐに始められるセルフケアの手法になる可能性がある。
未来の自分を想像して手紙を書くことの効果を検証
 新型コロナウイルス感染症の蔓延にともない、人々のネガティブな感情が高まっている。未来に起こりうる前向きなことについて考えることで、ネガティブ感情を軽減できる可能性がある。

 そこで京都大学こころの未来研究センターでは、「未来の自分を想像して手紙を書くことの効果」を実験的に検証した。

 これまで、未来の自分に手紙を書く課題は、貯蓄行動、道徳的な判断、健康促進の行動などに効果があることが示されていたが、メンタルヘルス分野での検討は行われていなかった。

 その結果、自分に手紙を書くことで、否定的なネガティブ感情が減少し、前向きのポジティブ感情が増加することが明らかになった。

 手紙を書くことは、人との接触も不要で、パンデミック下でもすぐに始められるセルフケアになる可能性がある。手紙を取り入れた、メンタルヘルス改善のプログラムなども考えられるという。

 研究は、同センターの千島雄太特別研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、学術誌「Applied Psychology: Health and Well-Being」にオンライン掲載された。
【特集】新型コロナウイルス感染症
「現在の悪い状態はずっとは続かない」という認識は書くことで高まる
 研究グループは、2020年4月13~15日の期間に、738人の実験参加者からオンラインでデータを取得。参加者は、それぞれ現在の生活の記述後に、1年後の自分に手紙を書く「未来への手紙条件」、1年後の自分の立場から現在に向けて手紙を書く「未来からの手紙条件」、さらには現在の生活の記述のみを行う「統制条件」にランダムに割り当てられた。

 「未来からの手紙条件」では、1年後にタイムスリップしたと想定して、1年前(実際には2020年4月)に手紙を書くこととし、全ての条件で、記述の中に新型コロナの影響について書くように指示された。

 実験の前後で、感情状態(恐怖、怒り、悲しみ、喜びなど)、時間的距離化(現在から距離を置いて長期的な視野をもつ態度)を測定した。

 参加者に1年後の新型コロナの影響に関する予測についても尋ねたところ、2020年4月当時、「1年後に状況が良くなる」と回答した者の割合は64.4%であり、「悪くなる」と回答した者は13.8%だった。多くの人が1年後には状況が好転すると信じていたことが示された。

 分析した結果、「未来への手紙条件」と「未来からの手紙条件」で同程度のネガティブ感情の減少がみられた一方で、「統制条件」では大きな変化はみられなかった。同様に、ポジティブ感情と時間的距離化の得点については、手紙の前後で増加が認められた。

自分に手紙を書くことで、ネガティブ感情が減少し、ポジティブ感情が増加する

出典:京都大学こころの未来研究センター、2021年
自分に手紙を書くことはすぐに始められるセルフケアの一手法に
 続いて、効果のメカニズムを探るために媒介分析を行った結果、手紙を書くことの効果は、「時間的距離化」の増加によって説明されることが示された。つまり、手紙を書くことで「現在の状態はずっとは続かない」という認識が高まり、ネガティブ感情が軽減されたと考えられる。

 今回の研究により、「社会的距離」(ソーシャル・ディスタンス)を確保することが要求される世の中で、大変な現状から「時間的距離」(テンポラル・ディスタンス)をとって、パンデミックという現象をより長い目で見ることの意義が示された。

 手紙を書くという作業は、人との接触も不要で、パンデミック下でもすぐに始められるセルフケアの一手法として今後普及していく可能性があるとしている。

 「本研究では手紙によって、一時的にネガティブ感情が減少することを示しましたが、効果の持続性については未検討です。今後、この点について検討するとともに、手紙を用いた介入プログラムなどを考案し、メンタルヘルスの改善にとって効果的な取り組みを進める予定です」と、研究グループは述べている。

手紙を書くことの効果は、「時間的距離化」の増加によって説明できる

出典:京都大学こころの未来研究センター、2021年

京都大学こころの未来研究センター
Temporal distancing during the COVID‐19 pandemic: Letter writing with future self can mitigate negative affect(Applied Psychology: Health and Well-Being 2021年2月17日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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