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2020年11月16日

世界糖尿病デー WHOなど「明日を変えるために、団結して糖尿病に立ち向かおう」

 11月14日の世界糖尿病デーに合わせて、世界保健機関(WHO)は、糖尿病に対する包括的なアプローチである「グローバル糖尿病コンパクト」を発表した。
 また、医学誌「ランセット」には、ランセット糖尿病委員会による「データを活用し糖尿病治療と患者の生活を変革する」という論文が発表された。
 糖尿病のもたらす問題を克服するために、世界規模で社会環境と糖尿病医療の整備を進めることが必要だという。
世界の糖尿病人口は4億6000万人以上 40年で4倍に
 11月14日の世界糖尿病デーに合わせて、世界保健機関(WHO)は、各国が糖尿病の予防と管理のための効果的なプログラムを実施するため、包括的なアプローチである「グローバル糖尿病コンパクト」(Global Diabetes Compact)を発表した。

 糖尿病の予防と管理を促進するために、これまでに報告された糖尿病に関する医療資材を1つのパッケージにまとめたもの。とくに若い世代の肥満を減らすことに焦点を当てており、治療面では低中所得国で糖尿病医療へのアクセスを改善することに重点を置いている。

 世界の糖尿病人口は4億6,000万人以上に上り、1980年頃に比べ4倍に増えている。糖尿病と糖尿病合併症の予防・改善のためのケアを十分に受けられていない人が多く、2019年には420万人が糖尿病のために死亡したと推定されている。

 糖尿病は世界的に、中年患者の平均余命を4~10年短縮し、心血管疾患、腎臓病、がんによる死亡リスクを1.3~3倍上昇させる。また糖尿病は、とくに働き盛りの世代の人々にとって、足の切断や失明の主要な原因になっている。

 糖尿病のもたらす課題を克服するために、医療・研究・教育だけでなく、官公庁、産業界、NPO、地域住民の参加を広く呼びかけている。

世界糖尿病デーに世界保健機関(WHO)が開催したオンライン イベント
WHOのテドロス アダノム事務局長が、政府、非政府組織、糖尿病患者団体
の代表者とともに、糖尿病の予防とケアの将来について話し合った。

新型コロナのパンデミックは糖尿病の人にとってとくに深刻
 また、医学誌「ランセット」には、世界糖尿病デーに合わせて、ランセット糖尿病委員会による「データを活用し糖尿病治療と患者の生活を変革する」(The Lancet Commission on diabetes: using data to transform diabetes care and patient lives)とう論文が発表された。

 2型糖尿病、がん、心臓病などの非感染性疾患(NCD)が世界的に増えている。世界の全死因の70%以上にあたる4,100万人がNCDによるものだ。

 世界保健機関(WHO)は、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために、2030年までに主要なNCDによる早期死亡率を30%削減することを掲げているが、達成の目処は立っていない。

 世界の糖尿病有病者の80%は低所得国や中所得国に集中している。糖尿病に対策することで、これらの国で最大80万人の早期死亡を回避できるとしている。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、糖尿病の人にとってとくに深刻なものになった。糖尿病の人は、とくに糖尿病のコントロールが十分にできていなかったり、糖尿病合併症を発症した人では、感染により重症化したり死亡するリスクが2倍以上に高まる。医療にアクセスできない途上国などの患者ではとくに深刻だ。

 糖尿病の効果的な治療や予防戦略は確立してきたが、それに十分にアクセスできる患者は世界では限られている。ランセット糖尿病委員会は、世界の44人の糖尿病医療の専門家が集まり、継続的なデータ収集と、医療チームのための効果的な糖尿病ケアの開発に4年間取り組む。

糖尿病をコントロールするための6つのコンポーネント
 ランセット糖尿病委員会は、これまでに得られた研究データの包括的な分析した結果、糖尿病を効果的にコントロールするための6つのコンポーネントを提案している。

(1) 高度な肥満のある2型糖尿病患者は、体重を15kg以上持続的に減らすと、血糖コントロールが改善し、"糖尿病が治った"状態を最大2年間維持できる可能性がある。

(2) 「血糖値(HbA1c)を0.9%低下」「収縮期血圧(最高血圧)を10mmHg低下」「悪玉のLDLコレステロールを39mg/dL低下」。これらをそれぞれ行うことで糖尿病を改善できる。2型糖尿病患者が、これらの3つを組み合わせて実行すると、心血管疾患、全原因死、あるいはその両方のリスクを10~20%減らせる。

(3) 脂質異常症の治療薬であるスタチンや、高血圧の治療薬であるレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬などを使用し、危険因子を減らすことで、糖尿病の人や糖尿病予備群は、心臓病や腎臓病のリスクを20~40%減らすことができる。

(4) 糖尿病の治療薬であるSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬を使用すると、低血糖のリスクを増やすことなく、心臓病や腎臓病のリスクや死亡リスクを最大で40%減らすことができる。

(5) 医師や看護師とともに多職種で構成される医療チームにより、患者の病態に合わせて個別化された医療を行い、データを重視した統合的なケアを提供することで、2型糖尿病患者の心血管疾患や全死因による死亡を20~60%減らすことができる。

(6) 保健指導により食事や運動などの生活スタイルを改善し、糖尿病の治療薬であるメトホルミンを効果的に使用することで、耐糖能異常(IGT)のある2型糖尿病の予備群の人が糖尿病を発症するのを30~50%予防または遅延させることができる。

糖尿病予備群の段階で効果的な保健指導が必要
 耐糖能異常(IGT)とは、糖尿病と診断されるほどの高血糖ではないものの、血糖値が正常より高い状態にあること。食後に血糖値が高くなっていたり、空腹時の血糖値が高くなる場合がある。食後高血糖があると、通常の健診だけでは発見しにくい。

 耐糖能異常のある糖尿病予備群の人は、将来に糖尿病になる可能性が高いので、定期的に検査を受けることが大切だ。また、耐糖能異常は動脈硬化にも影響をおよぼし、心筋梗塞や脳梗塞になるリスクが高くなると考えられている。

 「糖尿病の世界的に大きな課題になっており、政治・経済・社会・医療など、さまざまな領域にまたがって影響しています。限りある資源を賢く使用し、社会環境を維持し、人類を守るために、この課題にともに立ち向かうことが必要です」と、ランセット糖尿病委員会のメンバーで香港中文大学の香港糖尿病・肥満研究所のジュリアナ チャン教授は言う。

 「糖尿病は非感染性疾患(NCD)のなかでも大きな課題になっています。社会を構成するすべての人が糖尿病の拡大に関わっています。社会環境を整備し、糖尿病のエコシステムを構築し、実践を重ねてコミュニティに力を与えることで、糖尿病による負担を軽減できます」。

国際糖尿病連合(IDF)
The Lancet Commission on diabetes: using data to transform diabetes care and patient lives(ランセット 2020年11月13日)
World Diabetes Day 2020: Introducing the Global Diabetes Compact(世界保健機関 2020年11月14日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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