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2025年04月18日
糖尿病のある人の食事 炭水化物を減らして動物性食品をとると合併症リスクが減少 食事のバランスは大切

順天堂大学は、1日の摂取エネルギーに占める炭水化物の割合が高いことが、2型糖尿病のある人の心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントや、死亡のリスクの増加と関連することを明らかにした。
逆に、炭水化物の摂取を減らし、タンパク質や脂質の摂取を増やすと、そのリスク低下に寄与することも分かった。
「2型糖尿病のある日本人は、炭水化物の摂取割合が高いと心血管イベントや死亡リスクが増加し、逆に、炭水化物の摂取を減らし、動物性のタンパク質や脂質の摂取を増やすことがリスク低下に寄与する可能性が示されました」と、研究者は述べている。
「これらの結果は、2型糖尿病を有する人の心血管疾患を予防するために、食事に含まれる栄養素の調整が重要であることを示唆しています」としている。
糖尿病の人の食事の栄養素と心血管イベントや死亡のリスクの関連性を調査
研究は、順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の三田智也准教授、綿田裕孝教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国内分泌学会雑誌「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」にオンライン掲載された。
2型糖尿病のある人々は、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントや死亡のリスクが高いことが広く知られている。糖尿病の管理では、これらのリスクを軽減するために、食事、運動、睡眠、そして生活リズムの改善が重要となる。
しかし、これまでの研究で、脂肪摂取量を減少させることを主としたエネルギー制限食などによる介入では、2型糖尿病のある人の心血管イベントや死亡リスクについては、その低下に結びつかないことが示されていた。このことから、単に食事量を制限するのではなく、食事の質や食事以外の生活習慣も考慮することが重要であると考えられる。
そこで研究グループは、2型糖尿病のある人を対象に、食事を含む生活習慣を質問票で評価し、最大10年間にわたり心血管イベントや死亡の発症状況を追跡して調査した。
その結果、炭水化物の摂取割合が高いほど、心血管イベントや死亡のリスクが増加し、逆に、炭水化物の摂取量を減らし、タンパク質や脂質の摂取量を増やすことが、そのリスク低下に寄与することが分かった。
とくに、動物性のタンパク質や脂質を増やすことで、心血管イベントや死亡の発症リスクは低下した。また、飽和脂肪酸の摂取割合が高いことも、心血管イベントや死亡のリスクの低下と関連していた。
「本研究では、2型糖尿病のある人々で、炭水化物摂取割合が多いほど主要アウトカムの発症リスクが増加することが示されました。糖代謝異常をともなう2型糖尿病のある人は、一般人口に比べて炭水化物摂取の影響を受けやすい可能性があります。とくに、日本人の主食である米の摂取量が多いと、主要アウトカムが増加する可能性が示唆されました」と、研究者は述べている。
「これらの結果は、2型糖尿病のある人の心血管疾患予防のために、食事に含まれる栄養素の調整が非常に重要である可能性を示唆するとともに、その方法は欧米人と日本人では必ずしも同じではない可能性を示唆しています」としている。

炭水化物が少なくタンパク質・脂質が多いと心血管疾患のリスクが減少
糖尿病治療ガイドラインでは、2型糖尿病のある人々に対して、初期設定としてエネルギー摂取量の40〜60%を炭水化物から摂取することを提案しているが、適切な栄養素の割合についてはよく分かっていない。
さらに、2024年版の日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドラインや米国糖尿病学会のガイドラインは、総炭水化物摂取量を減らすことが血糖管理の改善に寄与する可能性が示唆されている。
そこで、研究グループは2型糖尿病のある人を対象に、食事の栄養素を含むさまざまな生活習慣と心血管イベントや死亡リスクとの関連性を調査した。
順天堂医院などに通院中で心血管イベントの既往がない2型糖尿病のある人731人を対象に、試験開始時、2年後、5年後に食事、身体活動量、睡眠時間、睡眠の質、生活のリズムなどさまざまな生活習慣を質問紙により評価し、心血管イベント発症日や死亡日あるいは追跡終了日までの各生活習慣スコアの平均値を算出した。
対象者の平均年齢は57.8歳、62.9%が男性で、BMI(体格指数)は24.6±4.1だった。平均追跡期間は7.5年で、その間に7.5%が心血管イベントあるいは死亡という主要なアウトカムを発症した。
食事評価には、日本人の食習慣を反映させるために設計された簡易型自己記入式食事歴質問票(BDHQ)を使用し、摂取エネルギーや主要栄養素の摂取量を推定した。
炭水化物、タンパク質、脂質の三大栄養素は密接に関連しており、たとえば炭水化物摂取量が多いと、タンパク質や脂質の摂取量が少なくなる傾向がある。そのため、各栄養素単独での摂取量を検討するのではなく、これら3つの栄養素のバランスを考慮することが重要になる。
そのため、炭水化物、タンパク質、脂質の摂取量にもとづき、低炭水化物ダイエットスコアを算出した。炭水化物摂取量で11等分し、摂取量がもっとも少ないものを10点、もっとも多いものを0点、タンパク質と脂肪の摂取量でも同様に計算し、これらを合計して「総低炭水化物スコア」を算出した。このスコアが高いほど、炭水化物摂取が少なく、タンパク質や脂質摂取が多いことを示している。
また、動物性食品と植物性食品にもとづくスコアも別々に算出し、それぞれ「動物性低炭水化物スコア」と「植物性低炭水化物スコア」として評価した。最大10年間にわたり心血管イベントや死亡の発症状況を追跡し、各生活習慣と心血管イベントあるいは死亡のリスクとの関連性を検討した。
その結果、年齢、性別、総エネルギー摂取量、動脈硬化のリスク因子を調整した後も、炭水化物摂取割合が高いほど主要アウトカムの発生リスクが高いことが示された。
また、「総低炭水化物スコア」や「動物性低炭水化物スコア」が高いほど、主要アウトカムのリスクが低いことも明らかになった。さらに、飽和脂肪酸の摂取割合が高いと、リスクが低下することが認められた。
炭水化物を減らして動物性食品からタンパク質などを適度にとる食事を推奨
欧米の研究では、「動物性低炭水化物スコア」が高いと総死因および心血管イベントによる死亡リスクが高まる一方で、「植物性低炭水化物スコア」が高いとリスクが低下することが示されている。
しかし、アジア諸国の研究では、「動物性低炭水化物スコア」が高いと死亡リスクが低下することが報告されている。
今回の研究でも、日本の2型糖尿病のある人々で「動物性低炭水化物スコア」が高いと主要アウトカムのリスクが低下することが確認された。
この結果は、動物性タンパク質や脂質を増やし、炭水化物摂取量を減らすことが、主要アウトカムの発症リスクを低下させる可能性があることを示唆している。
なお、日本での動物由来のタンパク質源としては魚が主であり、本研究の対象者でも肉類の摂取量は比較的少々だった。
肉類はタンパク質、ミネラル、ビタミンが豊富で、エネルギー源として優れており、適量の肉類摂取の有用性が、動物性脂質摂取のリスクに優り、心血管リスク低減に寄与したと考えられるという。したがって、過剰な動物性タンパク摂取を勧めるものではないとしている。
注:4月22日に更新しタイトルと見出しの一部を変更しました。 糖尿病ネットワーク事務局
順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学
Relationship of carbohydrate intake proportion to cardiovascular events in Japanese people with type 2 diabetes mellitus (Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism 2025年3月21日)
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