ニュース

2023年05月11日

糖尿病とともに生きる人々の命を守る WHOが糖尿病の5つのグローバル目標を策定 世界中で急増する糖尿病に対策

 世界保健機関(WHO)は、世界中で急増している糖尿病に対策するため、糖尿病の5つのグローバル目標を策定した。

 WHOは、すべての糖尿病患者が、手頃な医療費で公平に、包括的な糖尿病ケアにアクセスできるようにするため、協力して糖尿病の課題に取り組むことを呼びかけている。

世界中で急増している糖尿病に対策

 世界保健機関(WHO)は、世界中で急増している糖尿病に対策するため、糖尿病の5つの治療目標を策定した。詳細は、5月にジュネーブで開催された「世界保健総会」で発表された。

 すべての糖尿病患者が、手頃な医療費で公平に、包括的な糖尿病ケアにアクセスできるようにするため、加盟国に保健当局と協力して、糖尿病の課題に取り組むことを呼びかけている。

 世界で糖尿病とともに生きる人の数は、1980年の1億800万人から、2021年には5億3,700万人に増加しており、糖尿病は世界的な脅威になっている。

 これを受けてWHOは、2021年の11月14日の世界糖尿病デーに、インスリン発見100周年にあわせて、糖尿病の予防と管理のための包括的なアプローチを世界的に拡大するため、『グローバル糖尿病コンパクト』を発表した。

 糖尿病は世界的に、中年患者の平均余命を4~10年短縮し、心血管疾患、腎臓病、がんなどによる死亡リスクを1.3~3倍に上昇させている。また糖尿病は、とくに働き盛りの世代の人々にとって、足の切断や失明の主要な原因になっているとしている。

 糖尿病とともに生きる人々は、適切な治療を続けていれば、糖尿病のない人と変わらない寿命をまっとうし、生活していくことができる。

 しかし、世界には糖尿病の治療を受けられないでいる人が多く、糖尿病が原因で亡くなった人のおよそ半数は、70歳未満で死んでいる。糖尿病が原因の腎臓病による死亡数は46万人に上る。さらに、心血管疾患による死亡の20%は、血糖値の上昇が原因となっているとしている。

世界保健機関(WHO)の『グローバル糖尿病コンパクト』

糖尿病の5つのグローバル目標

 「糖尿病の医療は進歩していますが、糖尿病の診断を受けておらず、糖尿病を放置したままになっている人は少なくありません。糖尿病の状態を改善するために必要な医療や医薬品にアクセスできない人も多くいます」と、WHOの非感染性疾患担当ディレクターであるベンテ ミケルセン氏は言う。

 「たとえば、インスリンは血糖降下作用の高い効果的な薬剤であり、これまでも多くの人々の命を救ってきました。しかし、インスリンの発見から1世紀以上が経過した今日でも、世界にはインスリンにアクセスできないでいる人が多くいます」としている。

 WHOは、すべての糖尿病患者が、手頃な医療費で公平に、包括的な糖尿病ケアにアクセスできるようにするため、加盟国に保健当局と協力して、糖尿病の課題に取り組むことを呼びかけている。

 さらに、これまでに得られた研究データを包括的に分析し、糖尿病を効果的にコントロールするため、「グローバル糖尿病コンパクト」の5つの主要な目標をまとめた。詳細は、医学誌「Lancet」に発表された。

 糖尿病患者の健康転帰の改善するための、5つのターゲットは次の通り――

糖尿病の5つのグローバル目標

1 糖尿病とともに生きる人の80%以上が、臨床的に適切に糖尿病と診断されるようにする。そのために、より多くの人が健診や検査を定期的に受けられるようにする。

2 糖尿病と診断された人の80%が、1~2ヵ月の血糖値を反映し、血糖コントロール目標になっているHbA1cを8.0%未満に下げる。さらには、糖尿病合併症のための目標として7.0%未満を目指す。

3 糖尿病の人の80%は、血圧を140/90mmHg未満に下げる。さらに可能であれば、130/80mmHg未満を目指す。

4 コレステロール値の高い人は、スタチンによる治療により効果を期待できる。40歳以上の糖尿病患者の60%以上が、必要に応じてスタチンを使えるようにする。

5 すべての1型糖尿病患者が、手頃な医療費で、インスリン治療や血糖自己測定をできるようにする。

糖尿病の早期発見・治療は費用対効果が高い

 「2型糖尿病は、食事や運動などの集中的な生活スタイルの介入を行い、リスクの高い人は薬物療法を適切に受けられるようにし、肥満のある人はそれを改善することで、良い状態を維持し、合併症を予防できるようになります」と、『グローバル糖尿病コンパクト』をまとめた、英国のインペリアル カレッジ ロンドン公衆衛生学部のエドワード グレッグ教授は言う。

 「糖尿病と診断された人々に、必要な医薬品や医療機器を提供し、血糖値と心血管代謝の危険因子を管理し、さらに組織化されたケアを提供することで、急性および慢性の合併症を減らし、寿命を延ばすことができます」としている。

 そのために、糖尿病を早期にスクリーニングし、治療を開始することが必要となる。糖尿病を発症したら、早期に実行可能な介入をすることで、糖尿病合併症を予防でき、費用対効果も高いことは実証されている。

 「しかし、実現には世界的に巨大なギャップがあります。世界で糖尿病とともに生きる人の80%が、低所得国や中所得国に住んでおり、そうした国では、糖尿病と適切に診断されていない人口の割合が高く、糖尿病の治療を長期間受けられていない人も多いのです。インスリンなどの高価な治療薬を使うこともできません」と、グレッグ教授は指摘する。

 「糖尿病は世界的に急増しており、その医療コストは大幅に増大しています。もっとも不利な立場に置かれた人々に対し、不均衡をもたらしています」としている。

世界がともに行動を起こし糖尿病による負担を軽減する取組みを

 日本などの先進国では、医療システムが確立され、糖尿病に関するリソースが豊富にある。しかし、そうした豊かな国でも、糖尿病患者に対してエビデンスにもとづく適切なケアを十分に提供できていない現状がある。

 各国が力を合わせて、医療制度と経済を整備すれば、糖尿病がもたらす最悪の結果を防ぐことができる。費用対効果が高く、実行可能な介入は多くある。

 「こうした目標は野心的ですが、達成できれば、糖尿病ともに生きる人々の転帰と生活の質を大幅に改善することができます。各国がともに行動を起こし、世界的に増大している糖尿病による負担を軽減するための枠組みが必要とされています」と、グレッグ教授は強調している。

First-ever global coverage targets for diabetes adopted at the 75th World Health Assembly (世界保健機関 2022年5月28日)
Improving health outcomes of people with diabetes: target setting for the WHO Global Diabetes Compact (Lancet 2023年3月14日)
The Global Diabetes Compact: a promising first year (世界保健機関 2022年4月14日)
Diabetes (世界保健機関 2022年4月5日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲