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2023年05月11日

「納豆」は糖尿病の人も活用したい食品 血糖値やコレステロールが下がり認知症の予防にも

 日本食のスタイルの特徴のひとつは、大豆をよく食べること。日本的な食事スタイルが日本人の長寿の要因になっている可能性がある。

 とくに納豆は、糖尿病や高血圧、脂質異常症の食事療法にも活用したい食品だ。

 納豆は腸内環境を整えるのに役立ち、脂肪肝の抑制につながる。納豆を食べている人は認知症リスクが低いという研究も発表されている。

 納豆など、大豆イソフラボンを豊富に含む大豆食品を食べていると、コレステロールや血糖値が下がり、糖尿病の人では耐糖能異常の改善を期待できるという報告もある。

納豆は低カロリーでいろいろな栄養が含まれる

 日本食のスタイルの特徴のひとつは、大豆をよく食べること。日本的な食事スタイルが日本人の長寿の要因になっている可能性がある。

 納豆、豆腐、枝豆、みそ、大豆の煮豆、厚揚げ、がんもどき、おから、豆乳など、大豆食品は日本食に欠かせない。

 とくに納豆は、糖尿病や高血圧、脂質異常症の食事療法にも活用したい食品だ。納豆は、煮大豆を納豆菌が発酵させることでできる食品で、この発酵過程で「ナットウキナーゼ」をはじめとするさまざまな栄養素が生成される。

 ナットウキナーゼは、納豆のネバネバ部分に含まれるタンパク質分解酵素で、血栓の主成分であるフィブリンに働きかけて分解する作用や、血栓を溶けにくくする物質を分解する作用などがある。

 納豆には良質な植物性タンパク質や食物繊維も含まれ、1パック(50g)のカロリーは100kcalと低カロリーだ。カルシウムは45mg、カリウムは330mg、食物繊維は3.3g、それぞれ含まれる。骨タンパク質の働きや骨形成を促進するビタミンKも含まれる。

 また、納豆などの大豆食品に含まれる「イソフラボン」についても、骨粗鬆症の予防や脂質代謝の改善などに有効だという報告がある。

納豆などの発酵食品は腸内環境を整えるのに役立つ

 ヒトの腸のなかには、40兆個以上の細菌が棲んでおり、これらの腸内細菌がまるで植物が群生する花畑のようであることから、「腸内フローラ」とも呼ばれている。

 納豆やヨーグルト、漬物などの発酵食品を食べることは、腸内フローラを改善にするためにも役立つ。

 とくに納豆に含まれる納豆菌は、腸内で乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を増やす働きをする。腸内の善玉菌を増やして、腸内環境を整えるのに役立つ。

 発酵食品に含まれる善玉菌の効果として、整腸作用(有害菌の排除、便秘・下痢の改善)、血圧降下作用、免疫調節によるアレルギー抑制作用なども報告されている。

大豆食品を食べて脂肪肝を抑制

 「大豆・魚・海藻」といった日本食が中心の食事スタイルにより、脂肪肝の進展を抑えることができるという研究を、大阪公立大学が発表している。

 脂肪肝とは、肝臓に脂肪が過剰にたまった状態のこと。2型糖尿病や肥満のある人は、脂肪肝を合併していることが多い。

 脂肪肝は、2型糖尿病、脂質異常症、肥満などと関連が深く、放置していると肝臓の病気が進行して、肝炎や肝硬変、肝臓がんになるリスクが高まる。

 納豆には植物性タンパク質も含まれる。とくに納豆・豆腐・煮豆・味噌などの大豆食品をよく食べている人では、筋肉量も多く、筋肉量が多いグループは肝線維化の進展が抑制されていた。

納豆を食べている女性は認知症リスクが低い

 納豆をよく食べている女性は、認知症リスクが低いことが、日本人を対象とした大規模な調査でも明らかになっている。

 大豆食品に含まれるイソフラボンは、ポリフェノールの一種で、食事で十分に摂取していると、認知機能や記憶の改善に効果があるという報告がある。

 大豆食品を食べることが、認知機能の低下やアルツハイマー病を予防するのに役立つ可能性があると期待されている。

 さらに、大豆の発酵食品である納豆には、納豆の発酵過程で納豆菌が産出するナットウキナーゼやポリアミンといった酵素も多く含まれる。

 納豆のネバネバした部分に含まれる成分がナットウキナーゼで、生理活性をもつのがポリアミン。ともに動物実験などで認知機能の低下を予防する効果が示されており、健康増進や抗加齢に有用とみられている。

 日本人を対象とした多目的コホート研究「JPHC研究」の研究グループは、45~74歳の4万1,447人の男女を対象に、平均9.4年の追跡調査を行った。

 その結果、女性では納豆の摂取と認知症リスクの低下との関連がみられた。とくに60歳未満の女性で、納豆の摂取が多いグループで、認知症リスクが低下していた。

大豆イソフラボンが糖尿病を改善

 米国のマサチューセッツ大学の研究では、イソフラボンを豊富に含む大豆食品を食べると、糖尿病と心臓病のリスクが減少することが明らかになっている。

 大豆食品を食べる習慣があると、コレステロールや血糖値が下がりやすくなり、糖尿病の人では耐糖能異常の改善を期待できるという。

 大豆イソフラボンが、インスリン感受性を媒介する重要な受容体である転写調節因子を活性化し、グルコースの取り込みを改善し、糖尿病を改善する効果をもたらすとみられている。

 日本人を対象とした「JPHC研究」でも、6万人を対象に5年間追跡した結果、肥満や閉経後女性で2型糖尿病のリスクが低下することが示された。大豆イソフラボンがインスリン感受性を改善するとみられている。

納豆がなぜ体に良い? 分子メカニズムを解明

 納豆がなぜ体に良いのか、分子メカニズムを解明した研究を、大阪公立大学が発表した。

 納豆は日本を代表する発酵食品のひとつ。納豆の製造に古くから利用されている納豆菌は、枯草菌の一種で、日本で利用されている納豆の多くは、宮城野株を使って作られている。

 研究グループは、宮城野菌スターター由来の納豆菌株を用いて実験を行い、納豆菌を与えた線虫は、寿命が延びることを明らかにした。

 詳しく解析したところ、納豆菌による寿命の延伸作用に、自然免疫や寿命に関わることが知られる細胞内情報の伝達経路や、血糖値を下げるインスリンやインスリンに似た構造をもつホルモンであるインスリン様成長因子(IGF)の伝達経路が関与していることが分かった。

 また、納豆菌を摂取することで、宿主の生体防御や自然免疫に関わる遺伝子群の発現が上昇することも分かった。納豆菌の摂取により、酸化ストレスに耐える強さを示すストレス耐性なども向上していた。

 糖尿病のある人が高血糖の状態が続くと、酸化ストレスが亢進することが知られている。そうなると、インスリン作用の低下により、寿命延長効果が打ち消され、寿命が短縮してしまうと考えられる。

 「納豆は古くから日本に馴染みのある食品で、身近にある利用しやすい安価な食品です。納豆を、健康寿命の延伸に役立てられる可能性があります」と、研究者は述べている。

納豆菌は自然免疫や寿命に関連する生体経路を介して線虫の寿命を延伸し、
一部のストレス耐性を向上させる

出典:大阪公立大学、2023年

Walnuts may be good for the gut and help promote heart health (ペンシルベニア州立大学 2020年1月16日)
Walnuts and Vegetable Oils Containing Oleic Acid Differentially Affect the Gut Microbiota and Associations with Cardiovascular Risk Factors: Follow-up of a Randomized, Controlled, Feeding Trial in Adults at Risk for Cardiovascular Disease (Journal of Nutrition 2019年12月18日)
Fatty liver has stronger association with insulin resistance than visceral fat accumulation in non-obese Japanese men (Journal of the Endocrine Society 2019年5月20日)
Severity of Liver Fibrosis Is Associated with the Japanese Diet Pattern and Skeletal Muscle Mass in Patients with Nonalcoholic Fatty Liver Disease (Nutrients 2023年2月26日)
Soy product intake and risk of incident disabling dementia: the JPHC Disabling Dementia Study (European Journal Of Nutrition 2022年7月5日)
Association of soy and fermented soy product intake with total and cause specific mortality: prospective cohort study (BMJ 2020年1月29日)
Soy isoflavones lower serum total and LDL cholesterol in humans: a meta-analysis of 11 randomized controlled trials (American Journal of Clinical Nutrition 2007年4月)
Nutrition researchers track down how soy reduces diabetes risk (マサチューセッツ大学 2009年10月1日)
Heart-healthy effects of soy consistent over time, University of Toronto meta-study finds (トロント大学 2019年6月27日)
Soy product and isoflavone intakes are associated with a lower risk of type 2 diabetes in overweight Japanese women (Journal of Nutrition 2010年3月)
Impacts of Bacillus subtilis var. natto on the lifespan and stress resistance of Caenorhabditis elegans (Journal of Applied Microbiology 2023年4月20日)
大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A(厚生労働省)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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