新型コロナウイルス感染症の拡大の影響を受け、世界各国の経済が大打撃を受けている。日常生活や働き方が大きく変わり、収入が減ってしまった人も多い。

　米国糖尿病学会(ADA)が、2021年3月4日～16日に、米国全土の糖尿病患者5,645人を対象に実施したオンライン調査によると、糖尿病とともに生きる米国人の5人に1人(19%)が、新型コロナの拡大により、受診頻度を減らしているという。

　ウイルス感染をおそれ診療をためらう人もいるが、経済的に困窮してしまい、これまで通りに医療費を払えなくなってしまったという人が少なくない。

　その結果、糖尿病とともに生きる人の4人に1人(23%)が、公衆衛生上の緊急事態により、良好な血糖コントロールを維持するのを難しく感じているという。 　「血糖コントロールの悪化は、糖尿病合併症のリスクを増加させるだけではありません。糖尿病患者が新型コロナに感染した場合、血糖コントロールが良好でないと、とくに重症化しやすくなることが知られています」と、ADAのチーフ科学・医療役員のロバート ガッベイ氏は言う。

　「コロナ禍こそ、糖尿病の適切な治療を続けて、良好な血糖コントロールを維持することが重要です」としている。

　「ワクチン接種が広がった結果、感染拡大が収束したとしても、産業活動や社会生活がすぐに元通りになるわけではありません。すべての糖尿病患者が安全で健康に生きられるように、考えられる障壁をすべて取り除く努力をしなければなりません」と、ガッベイ氏は強調している。

　なお、糖尿病患者は新型コロナのワクチン接種が優先されるが、米国では2021年3月の時点で、すでに糖尿病患者の半数が1回以上のワクチン接種を受けていたという。

　ワクチン接種を受けた糖尿病患者の10人に9人近くは、「ワクチンにより血糖コントロールが変化したことはない」と答えている。 　米国糖尿病学会(ADA)は、糖尿病患者がより手頃な医療費で治療を受けられるようにするため、糖尿病治療薬の価格高騰を抑制し、医療費を削減することを、米議会下院エネルギー・商業委員会に要請している。

　「糖尿病とともに生きる人々が、生活に困窮し、医療費を払えなくなると、医療上の管理が困難になります。患者さんは、生命を維持するために必要な医薬品や医療機器にお金を払うか、それとも生活に必要な衣食住を優先するかという、苦しい選択を強いられることになります」と、ADAのトレーシー ブラウン会長は述べている。

　「米国では新型コロナの拡大により、糖尿病患者さんの5人に1人近くが、薬の処方箋をとるか、それとも食品をとるかという選択を余儀なくされているという調査結果があります」。

　「米議会は医薬品をより手頃な価格に抑制するための政策をしばらく前から検討しています。ADAは、患者さんの医学的ベネフィトを優先する政策を選択し、払い過ぎているお金を患者さんのポケットに戻すよう、委員会と議会に求めています」としている。 　単にサプライチェーンのプレーヤーの間で資金を循環させるような政策は、患者自身がこうした金融活動に参加しない限り、患者に提供できる医療、薬剤、医療保険、医療費の控除などのサービスの充実につながらないと指摘している。

　先行医薬品の特許が切れたあとに製造された「後発医薬品」であれば、先行医薬品と同等・同質の品質、安全性、有効性がありながら、価格はより安い。最近は、インスリンのようなバイオ医薬品にも、同じように使えながらより安価なバイオ後続品が出ている。こうした「後発医薬品」を活用するのは、ひとつの方法だ。

　糖尿病の治療でも必要があれば、患者の経済的負担をできるだけ軽くすることを考慮した、戦略をとることが必要だという。

　「患者さんのことを第一に考えて実践的なアプローチをするべきであり、より手頃な医療費で医療を受けられるようにするよう、連邦政府に行動を求めています」と、ブラウン会長は述べている。

米国糖尿病学会(ADA)