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2012年02月28日
遺伝子情報で糖尿病を階層化 欧州で産学連携「DIRECT」が始動
欧州で2型糖尿病のテーラーメード医療の開発を目指す産学連携コンソーシアム「DIRECT」が開始された。欧州の21の研究機関と4つの製薬研究機関から専門家が集結するDIRECTでは、今後7年をかけて2型糖尿病のバイオマーカー開発などに取り組むという。
50億円をかけ10万人の遺伝子情報を調査
「DIRECT」(DIabetes REsearCh on patient straTification)は、英ダンディー大学などの21の学術研究機関と、イーライリリーやサノフィ・アベンティスといった4つの製薬企業などが協力し立ち上げられた欧州の産学連携コンソーシアム。英国、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、オランダ、スウェーデン、デンマークなどに研究拠点を置き、糖尿病患者の協力を得て10万人分の遺伝子情報が収集される。
プロジェクト2012年2月に開始され7年続けられる。約50億円(4,500万ユーロ)の予算が投入される過去に例をみない大規模な研究となる。約150人の研究者が集結し、糖尿病予備群や糖尿病患者などから臨床・ゲノム情報を収集し、7年後を目安にバイオマーカーの開発などに取り組む。
世界の2型糖尿病の有病数は2億8500万人に上り、2030年までに4億3900万人に上昇すると予測されている。2型糖尿病の病態は患者によってさまざまだが、遺伝子を解析することで、糖尿病の発症パターンを見分けることができると考えられている。発症前にさかのぼれば、糖尿病の発症タイプによる階層化も可能になり、それぞれのタイプに合わせた適切な治療を早期から開始できるようになる。
多くの患者で糖尿病の診断は、明白な高血糖が認められてから行われるが、どのように糖尿病を発症したかという経過は患者によってさまざまだ。高血糖の状態になってから何年も経過してから糖尿病と診断される患者も少なくなく、診断されたときには動脈硬化症など糖尿病合併症がすでに進展しまっている場合も多い。
もしも遺伝子検査により糖尿病のタイプを見分けることができれば、発症以前に糖尿病を予防でき、糖尿病を発症してからもより適切な治療を行えるようになり、結果として多くの患者を救えるようになる。
7ヵ年のプロジェクトは3年と4年の2期に分けられる。前期で治療法の開発にあて、4〜7年を費やし臨床試験を行う予定。
このコンソーシアム研究が目指しているのは次のことだ――
- 糖尿病を発症する危険性の高い人を新たなバイオマーカーでみつけだし階層化する。
- 糖尿病発症の根底にある膵臓のβ細胞機能の変化を評価しアルゴリズムを適用し、効果的な治療を行えるようにする。
- 糖尿病の症状の進行に応じて、適切な治療や新しい治療を行えるようにする。
- インスリンを分泌するβ細胞がどれだけ機能しているかを調べ階層化し、新たに開発した治療法を適用する。2型糖尿病のリスクの高い患者で、この治療法は効果的とみられる。
- 治療困難な糖尿病患者を遺伝情報をもとに特定化する。
DIRECT - Diabetes Research on Patient Stratification_org -
糖尿病と遺伝子
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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