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2022年11月07日
【世界糖尿病デー】運動不足が原因で糖尿病が増加 WHOが警告「ソファに寝転ぶのをやめて立ち上がろう」
2020年~2030年に世界の5億人が、運動不足が原因で、心臓病、肥満症、2型糖尿病などの非感染性疾患(NCDs)を発症するという予測を、世界保健機関(WHO)が発表した。
運動不足によりこうした疾患の発症が増えることで、毎年4兆円(270億ドル)の追加の医療費の必要になるとしている。
世界中の政府が、運動のベネフィットを国民に広く理解してもらい、運動をする習慣を促進する緊急の対策を行う必要があるとしている。
WHOは「運動や身体活動を行うことを習慣にすると、健康状態は全体的に改善します。ソファに寝転んでいるのをやめて、立ち上がって体を動かしましょう」と呼びかけている。
運動習慣は糖尿病の人に多くのベネフィットをもたらす
2型糖尿病の発症には、体質などの遺伝的な因子に加え、社会環境的な因子も関わっている。そのなかで、運動不足は糖尿病の原因のひとつになっている。 日本人は、欧米人に比べて体のインスリン分泌能力が低いことが多く、少し肥満になっただけで糖尿病リスクが上昇することが知られている。 運動をする習慣は、さまざまな好ましい効果をもたらす。運動を行うと、体のブドウ糖や脂肪酸の利用が促され、血糖値が低下する。運動を習慣として続けていると、血糖を下げるインスリンの効きも良くなり、血糖値が下がりやすくなる。 運動により、エネルギーの摂取量と消費量のバランスも良くなり、肥満が改善し、過剰にたまった内臓脂肪も減る。少し太っているという程度でも2型糖尿病になりやすい日本人にとっても、運動の効果は大きい。 とくに高齢者では、運動療法により、寝たきりにつながりやすいフレイルやサルコペニアも予防できる。 糖尿病の人は、インスリンや一部の血糖降下薬を用いている人は、低血糖に注意する必要があったり、血糖値が異常に高かったり、合併症が出ているなどの場合などには注意をする必要があるものの、ほとんどの人は運動を安全に行える。 世界糖尿病デー2022運動不足の人は世界中で増えている
しかし、世界保健機関(WHO)によると、運動不足の人は世界中で増えており、2020年~2030年に世界の5億人が、運動不足が原因で、心臓病、肥満症、2型糖尿病などの非感染性疾患(NCDs)を発症すると予測されている。 世界保健機関(WHO)が発表した2022年「世界の運動・身体活動に関する報告書」では、各国の政府がすべての年齢層と立場の国民に対し、身体活動量を増やすことを推奨する対策をどれだけ実施しているかが示されている。 対象となった194ヵ国のデータをみると、全体として進捗は遅く、各国は心臓病、肥満症、2型糖尿病などの非感染性疾患(NCDs)を予防・改善し、医療サービスの負担を軽減するために、もっと心拍数を上げて真剣に取り組み、より効果的な政策の立案と実施を加速する必要があるとしている。 報告書では、次のことが明らかにされた――。- 運動・身体活動について行動指針を策定した国は半数未満であり、うち実際に運営できているのは40%未満にとどまる。
- すべての年齢層の人を対象とした運動・身体活動ガイドラインを設けている国はわずか30%。
- 成人の運動への取り組みの状況については、ほぼすべての国が調査しているが、若年者や小児については把握できていない国が多い。若年者の運動への取り組みを調査している国は75%で、5歳未満の子供の運動・身体活動について把握できているのは30%未満。
- 運動を安全に行うために環境整備も必要とされる。ウォーキングやサイクリングを安全にできるよう、道路設計基準を設けている国は40%強にとどまる。
運動の習慣化は社会・環境・経済にも多くのメリットをもたらす
新型コロナの拡大により運動へのアクセスが減った
WHOの報告書では、運動不足がもたらす経済的な脅威は深刻で、有効な対策をしないでいると、心臓病、肥満症、2型糖尿病などの非感染性疾患(NCDs)の新たな発症例が増えると予測されている。 そうした疾患の医療費は毎年4兆円(270億ドル)ずつ増え、2030年までに44兆円(3,000億ドル)近くに達するという。そうした疾患は、効果的な対策をすれば予防・改善が可能だ。 NCDsへの対策と困民の運動不足の解消に取り組んでいる国は増えているものの、そうした政策の28%は十分な資金が提供されていないとも報告されている。過去2年間に全国的な運動キャンペーンを実施したり、参加者の多い大規模な運動イベントを開催した国は半数強に過ぎない。 その原因のひとつは、新型コロナのパンデミックだ。多くの国は新型コロナの拡大により、運動キャンペーンを推進する主導権を発揮する機会が減少した。多くの地域や集団で運動や身体活動へのアクセスが減り、それらに参加する機会の不均等が拡大した。 東京で2021年に開催されたオリンピック・パラリンピック夏季大会は、19日間に33競技339種目が行われたが、そのほとんどの会場で無観客での開催となったことが記憶に新しい。目標は「2030年までに運動不足を15%削減」
運動をしやすい環境の整備も必要
運動をすることに多くのベネフィットがあることを、すべての国民に知ってもらい、運動・身体活動を増やすのを支援するために、全国的でより効果的な運動推進のPRキャンペーンや大規模な参加型イベントを計画している国は多い。 そうした国のために、WHOの「身体活動に関するグローバル行動計画 2018-2030(GAPPA)」では、20の政策が推奨され提言されている。 そのひとつは、「ウォーキングやサイクリングなどを奨励するために、より安全に運動できる環境が必要。とくに道路・保育所・学校・1次医療機関、職場などの主要な環境では、運動・身体活動のためのプログラムにより多くの機会を提供できるよう整備することを考慮する」というもの。 「運動・身体活動の増加を促進するために、社会生活や産業活動の基盤となるインフラストラクチャの整備も必要です。現状では、安全な歩道・公園・自転車レーンなどへのアクセスがどれだけ良好であるかを調査するための世界共通の指標はまだありません」と、WHOの身体活動推進部のフィオナ ブル氏は言う。 「環境整備の遅れや悪化と運動不足の人の増加という悪循環におちいっている国や地域は多いことが示されています。正確な指標やデータがあれば、より効果的な政策や投資を行えるようになり、運動・身体活動に関する各国の政策を包括的かつ確実に追跡できるようになる可能性があります」としている。 WHO highlights high cost of physical inactivity in first-ever global report (世界保健機関 2022年10月19日)Time to get off the couch, WHO warns, as 500 million risk developing chronic illness (国際連合 2022年10月19日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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