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2022年09月20日

糖尿病の人は短命? しっかり治療すれば寿命を10年延ばせることが判明

 糖尿病とともに生きる人は、「心臓病で死亡するリスクが2~4倍高い」「脳梗塞のリスクが2~4倍高い」といった話を聞いて、気持ちが落ち込んだことはないだろうか?

 しかし、糖尿病の人が希望をもてる、明るいニュースも発表されている。糖尿病の治療を続けて、血糖値を適切にマネジメントしていれば、糖尿病のない人と変わらない生活をおくれるという。

 治療を最適化すれば、糖尿病の人は寿命を最大で10年以上延ばすことも可能だ。

糖尿病のある人は寿命が短い?
「いえいえ、そんなことはありません」

 2型糖尿病の管理に苦労している人は、糖尿病が健康におよぼすネガティブな影響を聞いて、不安を感じ、悲観的になっているかもしれない。

 医師や医療従事者から、こんな話を聞いて、気持ちが落ち込んだことはないだろうか。

「糖尿病の人は、糖尿病でない人に比べ、心臓病で死亡するリスクが2~4倍高い」
「欧米では糖尿病の人の40~50%で、心筋梗塞が直接の死因となっています」
「糖尿病の人は、糖尿病でない人に比べ、脳梗塞のリスクが2~4倍高い」
「糖尿病の治療をしっかりと続けて、血糖値を適切に管理していないと、さまざまな糖尿病合併症が引き起こされます」

 しかし、糖尿病とともに生きる人が希望をもてる、明るいニュースも発表されている。糖尿病の治療を続けて、血糖値を適切にマネジメントしていれば、糖尿病のない人と変わらない生活をおくれ、寿命は平均で4年近く延びるという研究が発表された。

 もしも、糖尿病の管理の指標となる値をすべて改善できれば、糖尿病の人は寿命を最大で10年以上延ばすことも可能だという。

 ただし、血糖値を適切に管理できていないと、寿命は4年短くなるおそれもある。糖尿病の人にとって、とても気になる情報だ。

糖尿病合併症のリスク変動をシミュレート

 研究は、米国のフロリダ大学、テュレーン大学、インペリアル カレッジ ロンドン、ピッツバーグ大学、米国疾病予防管理センター(CDC)の研究者によるもので、研究成果は「JAMA Network Open」に発表された。

 研究グループは、平均年齢65.6歳の421人の糖尿病患者を対象に、「BRAVO糖尿病モデル」と呼ばれる、糖尿病に関連するさまざまな検査値などから、糖尿病合併症のリスク変動をシミュレートするモデルを使用した。

 このモデルは、米テュレーン大学などが開発したもので、ACCORD研究などの大規模な糖尿病臨床研究のデータを検証し、世界の10万人を超えるデータを使用して作られた。

 糖尿病の合併症である大血管症(心筋梗塞、心不全、脳卒中、狭心症、血行再建術など)、細小血管症(慢性腎臓病、腎不全、網膜症、失明、神経障害、下肢切断)、低血糖やケトアシドーシスなどの有害事象、さらには余命などの長期的な健康状態を予測することができる。

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治療を続けて生活スタイルを改善すれば余命を延ばせる

 研究グループは、糖尿病のある人のモニタリングに一般的に使用されている5つの指標に焦点をあてた。すなわち、▼過去1~2ヵ月の血糖値を反映するHbA1c、▼血糖値、▼体格指数(BMI)、▼血圧値、▼悪玉のLDLコレステロール。

 その結果、糖尿病の治療により、これらのバイオマーカーを適切にマネジメントすれば、糖尿病の人は余命を最大で10年以上延ばせる可能性が示された。

 余命とは、あとどれくらい生きられるかということ。米国の2型糖尿病患者であると、治療により検査値を改善すれば、平均余命を3年以上延ばすことができるという。

 たとえば、HbA1cが9.9%で血糖管理が不良だった人が、正常値である5.9%まで改善することで、平均余命を3.8年延ばせる。

 さらに、糖尿病の治療は進歩しており、2型糖尿病の人の寿命は延び、糖尿病のマネジメントは改善されている傾向があることも示された。

 糖尿病とともに生きる人は、たとえ治療目標となっている最適値を達成できなくても、糖尿病治療を続けて、生活スタイルを改善することで、検査値を改善していけば、何もしないのに比べて、それだけ余命を延ばせることも示された。

治療に積極的に取り組むことで利益を得られる

 「研究では、推奨されている治療目標を達成することで、2型糖尿病のある人の寿命を延伸できる可能性が高いことが示されました」と、同大学で糖尿病の予測モデリングを研究しているホイ シャオ氏は言う。

 「2型糖尿病とともに生きる人々は、治療に積極的に取り組むことで得られる利益を簡単に理解できることを望んでいます。治療を最適化し、患者さんを成功に導くために、強力な動機づけとなる方法が必要です」。

 「調査結果は、患者さんがより健康的な生活スタイルを実現するための動機づけになり、かかりつけの医師が治療介入をより積極的に行うために役立つと考えられます」。

 「糖尿病の医療は進歩しており、技術は改善されているにもかかわらず、米国では患者さんによっては、糖尿病のマネジメントが悪化し、HbA1が時間の経過とともに上昇している症例も見受けられます。そうした方には、治療に対する強力な動機づけが必要です」としている。

糖尿病の人は余命をこんなに延ばせる

 研究では、糖尿病のある人の平均余命は、糖尿病の治療を受け、検査値を改善することで、次のように延伸できることが示された。たとえ治療目標となっている最適値を達成できなくても、治療を続けて、検査値を少しでも改善していくことが大切だ。

  • HbA1c値を、9.9%の高値から5.9%に改善すると、余命を3.8年延ばせる。6.8%なら3.4年、7.7%なら0.5年、それぞれ余命を延ばせる。糖尿病合併症を予防するために目標となるHbA1c値は7.0%未満だ。
  • 収縮期血圧(最高血圧)を、160.4mmHgから114.1mmHgに改善すると、余命を1.9年延ばせる。128.2mmHgなら1.5年、139.1mmHgなら1.1年、それぞれ余命を延ばせる。
  • 悪玉のLDLコレステロールを、146.2mg/dLの高値から59md/dLに改善すると、余命を0.9年延ばせる。84md/dLなら0.7年、107md/dLなら0.5年、それぞれ余命を延ばせる。
  • 体格指数(BMI)を、41.4の高値から24.3に改善すると、余命を3.9年延ばせる。28.6なら2.9年、33なら2年、それぞれ余命を延ばせる。

寿命を10年以上延伸することも可能

 「バイオマーカーの改善が複数積み重なれば、平均寿命をさらに延ばすことが可能です。すべての検査値を大幅に改善できれば、10年以上延伸することも期待できます」と、シャオ氏は言う。

 「糖尿病管理を理想的に進めるベネフィットについて、患者さんに分かりやすく示しながら、過剰治療を回避しながら、それぞれの患者さんに合わせた治療を進めることが望まれます」と、フロリダ大学医学部の糖尿病内分泌学のナイッキー シン オスピナ准教授は述べている。

 「治療目標を個別化することも、最適な健康状態を達成するために必要です。治療の潜在的な健康上の利益をシミュレートし、患者さんに示すことで、糖尿病ケアの改善につながることを願っています」としている。

UF Health study shows years of life gained by ideal Type 2 diabetes control (フロリダ大学 2022年5月4日)
Potential Gains in Life Expectancy Associated With Achieving Treatment Goals in US Adults With Type 2 Diabetes (JAMA Network Open 2022年4月18日)
Bravo Diabetes Simulation Model
Years of life gained by ideal type 2 diabetes management (Diabetes NSW & ACT 2022年5月6日)
Tulane researchers develop new way to predict complications in diabetes patients (テュレーン大学 2018年5月15日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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