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2022年09月07日

糖尿病予備群の段階から「サルコペニア」のリスクは上昇 早期からの生活スタイル改善が重要

 加齢により筋肉量が減少し、筋力が低下した状態である「サルコペニア」は、2型糖尿病の人で発症が多いだけでなく、糖尿病予備群の段階でリスクが上昇することが明らかになった。

 順天堂大学は、高齢者1,629人を対象に調査を実施し、2型糖尿病までいたらないが、血糖値が高めの「前糖尿病」の段階で、男性ではサルコペニアのリスクが高いことを確かめた。

 前糖尿病の男性では、サルコペニアのリスクが2.1倍に上昇した。さらに、男性と女性ともに、加齢ややせ、高い体脂肪率は、サルコペニアのリスクとなることも分かった。

 早期から、運動や食事などの生活スタイルの改善が重要であることがあらためて示された。

糖尿病になる前の段階からサルコペニアに注意する必要が

 順天堂大学は、文京区在住の高齢者1,629人を対象とした調査により、2型糖尿病だけでなく、男性では糖尿病予備群ともいわれる「前糖尿病」の段階で、「サルコペニア」のリスクが高いことを明らかにした。

 前糖尿病は、「境界型糖尿病」とも呼ばれ、糖尿病と診断されるほどではないが、血糖値が高めになっている状態。今後、2型糖尿病に進行したり、動脈硬化症のリスクがあることもあり、食事や運動などの生活スタイルの改善が必要と考えられており、近年重視されている。

 一方、サルコペニアは、骨格筋量が減少し、筋力低下や、身体機能低下をきたした状態。サルコペニアは介護の原因として重要で、2型糖尿病の人で発症リスクが高いことが知られている。

 今回の研究により、糖尿病になる前の段階から、サルコペニアのリスクについて注意する必要がある可能性が示された。これまで、前糖尿病とサルコペニアの関連は明らかにされていなかったので、研究は予防医学の観点からも、極めて有益な情報になると考えられる。

 研究は、順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の加賀英義助教、代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史准教授、河盛隆造特任教授、綿田裕孝教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」にオンライン掲載された。

糖尿病予備群とサルコペニアの関連を調査

 超高齢社会を迎えた日本では、介護を必要とする高齢者が増えている。介護の主要な原因として、加齢にともなう骨格筋量、筋力、身体機能の低下を特徴とするサルコペニアがある。

 糖尿病の高齢者は、糖尿病のない高齢者に比べて、サルコペニアのリスクが2倍高いという報告があり、糖尿病の人はより注意が必要なことが知られている。

 一方で、高齢化にともない、糖尿病予備群ともいわれる前糖尿病の状態の人が増加している。前糖尿病では、将来糖尿病になりやすいだけでなく、糖尿病患者と同様に、脳卒中や心筋梗塞といった心血管疾患のリスクが高いことが明らかになっている。

 そのため、近年では前糖尿病状態から動脈硬化症の予防が積極的に行われるようになった。しかし、前糖尿病状態がサルコペニアのリスクとなっているかどうかはよく分かっていなかった。

 そこで研究グループは、都市部在住高齢者を対象とした調査研究「文京ヘルススタディー(Bunkyo Health Study)」により、前糖尿病とサルコペニアの関連を調査した。

 文京ヘルススタディーは、順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンターで行われている、東京都文京区在住の1,629名人高齢者を対象に、認知機能・運動機能などが「いつから」「どのような人が」「なぜ」低下するのか、「どのように」早期の発見・予防が可能となるかなどを明らかにするための研究。

糖尿病と診断されるほどではないが血糖値が高めの「耐糖能異常」

 研究グループは、65~84歳の高齢者1,629人(男性687人、女性942人)を対象に、身長・体重・体組成測定、握力・膝伸展、屈曲筋力などの筋力測定、歩行速度や開眼片脚立ち検査などの身体機能検査、75g経口糖負荷検査による耐糖能評価を実施した。

 「経口ブドウ糖負荷試験」は、糖尿病の診断方法のひとつで、糖尿病が疑われる人に対し、ブドウ糖が含まれる飲料を飲んでもらい、血糖値の変化をみる検査。

 また、「耐糖能異常」とは、経口ブドウ糖負荷試験で2時間後の血糖値が140m~199mg/dLと、糖尿病と診断されるほどではないにしても、高めになっている状態をさす。インスリン分泌量の低下やインスリンが効きにくいこと(インスリン抵抗性)により生じると考えられている。

 耐糖能の診断は、日本糖尿病学会の診断基準に従い、空腹時血糖値<110mg/dLかつ、糖負荷後2時間血糖値<140mg/dLかつ、HbA1c<6.5%の被験者を正常耐糖能、空腹時血糖値≧126mg/dLまたは、糖負荷後2時間血糖値≧200mg/dLまたは、HbA1c≧6.5%、または経口血糖降下薬を内服中の被験者を2型糖尿病、その他の被験者を前糖尿病と判定した。

 サルコペニアは、AWGS2019の基準の握力(男性<28kg、女性<18kg)と生体電気インピーダンス法による骨格筋量(男性<7.0kg/m²、女性<5.7kg/m²)で診断した。

糖尿病予備群の段階でサルコペニアのリスクは2.1倍に上昇

 研究グループは、研究に参加した高齢者を、「正常耐糖能群」「前糖尿病群」「2型糖尿病群」の3群に分類し、サルコペニアの有病率を比較した。

 その結果、男性では、耐糖能が悪化し、血糖値が高めになるにしたがって、サルコペニアの有病率が上昇する一方、女性では2型糖尿病群でのみ、サルコペニアの有病率が増加していることが明らかになった。

 さらに、年齢、BMI、体脂肪率、身体活動量、エネルギー摂取量、脳血管疾患の既往の有無で調整した結果、2型糖尿病群では、正常耐糖能群と比べて、サルコペニアのリスク(オッズ比)が、男性で2.6倍、女性で2.1倍に高まることが分かった。

 また、男性でのみ前糖尿病群で、正常耐糖能群と比べて、サルコペニアのリスクは2.1倍に高まることも示された。さらに、男性と女性で、加齢や低いBMI、高い体脂肪率はサルコペニアの独立したリスクとなっていることも明らかになった。

男性では、耐糖能が悪化するにしたがい、サルコペニアの有病率が上昇
女性では、2型糖尿病群でのみ、サルコペニアの有病率が高い

2型糖尿病群では、サルコペニアのリスクが男性で2.6倍、女性で2.1倍に上昇
男性の糖尿病予備群でも、サルコペニアのリスクは2.1倍に上昇

年齢、BMI、体脂肪率、身体活動量、エネルギー摂取量、脳血管疾患の既往で調整
出典:順天堂大学、2022年

運動や食事などの生活スタイルの改善に早期から取り組む必要が

 今回の研究により、都市部在住高齢者のサルコペニアの有病率やそのリスクが明らかとなった。

 「糖尿病患者だけでなく、前糖尿病状態の男性でも、サルコペニアの有病率が上がることから、運動や食事などの生活習慣の改善に早期から取り組むことが、糖尿病の予防のみならずサルコペニアの予防の観点からも重要であることが示唆されました」と、研究グループでは述べている。

 「日本では、介護や支援を必要とする高齢者は年々増加しており、介護予防や健康寿命延伸のための対策が急務となっています。都市型高齢者コホートである文京ヘルススタディーは10年間の観察研究を予定しており、本研究を継続することで、サルコペニアのみならず、介護原因疾患のリスクや早期スクリーニング方法、さらには介入方法まで確立することを目指していきます」としている。

順天堂大学大学院医学研究科 代謝内分泌内科学
順天堂大学大学院医学研究科 スポートロジーセンター
文京ヘルススタディー (順天堂大学スポートロジーセンター)
Prediabetes is an independent risk factor for sarcopenia in older men, but not in older women: the Bunkyo Health Study (Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle 2022年9月2日)

 健診データなどを入力することで、3年以内に糖尿病を発症する確率を表示することができる、30~64歳のまだ糖尿病と診断されたことのない人が対象のツール。
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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