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2012年04月10日

激しい痛みが起こる仕組みを解明 治療に光 九州大

 糖尿病やがん、脳卒中などで神経が障害されると、鎮痛薬が効きにくい「神経障害性疼痛」という慢性痛が発症し、服が肌にふれただけでも激しい痛みを感じることがある。そのメカニズムは不明で、効果的な治療法も確立されていない。九州大学を中心とする研究グループは、神経のダメージで発症する神経障害性疼痛の原因タンパク質「IRF8」をつきとめたと発表した。

脳の免疫細胞の活性化スイッチを特定
働きを抑える薬を開発し痛みを緩和
 研究グループではこれまでの研究から、脳や脊髄で免疫機能を担っている「ミクログリア」と呼ばれる細胞が、神経損傷後の脊髄で過度に活性化した状態になり、激しい痛みを引き起こされることをあきらかにしていた。ミクログリアは、脳や脊髄の中枢神経で免疫防御を担う細胞で、正常状態では細長い突起を動かしながら周囲の環境を監視し、脳の健康を維持している。しかし、神経細胞に障害が起こると活性化し、炎症性物質(炎症性サイトカインなど)をつくり、神経細胞の機能異常などを引き起こす。

 ミクログリアで発現する分子がどのようにして調節されているのかはよく分かっていなかったが、研究グループは今回、神経を損傷させたマウスの脊髄で、さまざまな分子の発現をコントロールするタンパク質「IRF8」がミクログリアだけで劇的に増え、それが痛みを起こす分子を増加させ、神経障害性疼痛を引き起こすことを発見した。

 IRF8は、多くのミクログリア分子をまとめて調節し、激しい痛みを起こすようなミクログリアの過度の活性化状態を導く‘活性化スイッチ’のような役割をしているという。ミクログリアで特異的に働くこのようなタンパク質は過去にみつかっておらず、今回のIRF8が世界初のものとなる。研究チームは「IRF8の働きを抑える薬を開発できれば、ミクログリアの過度の活性化状態を正常化し、慢性痛を緩和できる可能性がある」と述べている。

 IRF8が発現しないように遺伝子を操作したマウス「IRF8遺伝子欠損マウス」では、神経損傷後の激しい痛みが緩和され、さらにミクログリア活動を高めて痛みを起こす多くの分子も減っていることが確認された。

 今後は、なぜIRF8がミクログリア細胞だけで増えるのか、またIRF8によって発現する新しい分子はあるのかなどを研究することで、ミクログリアの活性化メカニズムや慢性疼痛の仕組みの全容を明らかにできる可能性があるという。さらに、ミクログリアは脊髄だけでなく、脳においても特異的であり、アルツハイマー病やパーキンソン病などの脳疾患の原因究明などにも応用が期待できる。

 この研究成果は、九州大学大学院薬学研究院薬理学分野の津田誠准教授、井上和秀教授などの研究チームによるもので、米科学誌「Cell Reports」電子版に掲載された。

九州大学


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[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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