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2012年02月06日
糖尿病の遺伝子を診断 オーダーメード医療へ期待
個々の患者に合わせた「オーダーメード医療」が実現できれば、糖尿病の治療をより効果的に行えるようになると期待されている。「遺伝子に着目した医療」が解決策になるという研究が米国で発表された。
遺伝子に診断する新しい糖尿病の治療
糖尿病によって健康をおびやかされている人の数は、米国だけでも2500万人を越える。1人ひとりの遺伝情報に基づく「オーダーメード医療」を実現すれば、糖尿病と糖尿病合併症を効果的に予防できるようになる。この研究は、医学誌「Health Affairs」1月号に発表された。
医療が進歩すれば、健診を受けたときに1回の検査で糖尿病だけでなく、乳がんや大腸がんといった深刻な病気もみつけだすことも可能になるという。「効果的な治療を早期に開始できれば患者の負担を減らせるだけでなく、医療費の削減にもつながる」と、アルバート・アインシュタイン医学大学のAllen Spiegel氏は話す。
米疾病管理予防センター(CDC)は、2007年の米国の糖尿病による直接・間接の経済負担は1740億米ドル(約14兆円)に上ると発表した。糖尿病の脅威は米国など先進国だけの問題ではない。世界の糖尿病有病数は3億4700万と推定されており、これは米国の全人口よりも大きな数字だ。
個々の患者に合わせた「オーダーメード医療」が、急増する糖尿病に対する対策として有用であることを、Spiegel氏らは強調する。糖尿病の発見が遅れ、必要な治療を開始できないでいると、糖尿病合併症を発症する危険性は高くなる。合併症が進展するほど治療は難しくなり、患者のQOL(生活の質)は大きく低下していく。医療費などの社会的な負担も甚大だ。糖尿病を発症した人を初期の段階に発見し、効果的な治療を行うことは医療政策における重大な戦略となる。
「“肥満がある”、“空腹時血糖値が高い”、“糖尿病の家族歴がある”といった項目が2型糖尿病の危険因子として知られている。これらを調べるのは比較的簡単ではあるが、糖尿病の発症リスクを正確に知るためには十分ではない」とMeredith Hawkins氏は話す。
特に空腹時血糖値が100〜109mg/dLと出た場合は、正常域ではあっても血糖値が高めで、将来に糖尿病や耐糖能障害を発症する危険性が高い。空腹時血糖値の測定は糖尿病の早期発見に役立つとされる。一方で、CDCは米国の成人の4人に1人に空腹時血糖異常があると予測しているが、実際に糖尿病を発症しているのはわずか2%に過ぎないという。より確実に糖尿病の発症を予測するために、実際的な方法を追加する必要がある。
糖尿病を発症する危険性の高い人を効率良くみつけだし、早期に治療を開始することが課題となる。「糖尿病発症の高リスク群の同定に有用で正確なマーカーが求められている」とSpiegel氏は話す。「糖尿病療養は長期にわたる。糖尿病をコントロールし合併症を防ぐために、医師は“この患者に必要なのは薬物療法か、それとも生活習慣改善か”といった診断をしなければならない。より正確に判断するためにも、正確なマーカーが必要だ」。
個々の患者の糖尿病リスクを正確に判定するために有望視されているのは、糖尿病の病態や発症リスクとも密接な関連がある遺伝暗号だ。ヒトの遺伝情報はほとんどが共通しているが、わずかな個人差(遺伝子多型)があり、その一部が病気のなりやすさに関係していると考えられている。例えば、高血圧症と関連の深い遺伝子多型をもっている患者で、もっていない人に比べ、糖尿病のリスクが5倍に跳ね上がるという研究が報告されている。
また、遺伝子の外側にある化学修飾(エピゲノム)は、遺伝子発現の多様性に関わる第二の遺伝暗号として注目されている。エピゲノムは、特定の塩基や遺伝子を束ねるヒストンなどに施される化学的な修飾で、遺伝子の発現に影響している。
世界の医療資源は限られている。2型糖尿病や肥満の効果的な対策法を開発するのは、先進国と同じように糖尿病患者が急増している途上国においても必要だ。糖尿病の遺伝情報に関する研究は世界中で行われている。「近い将来に、糖尿病のリスクの高い人をスクリーニングテストで見つけだし、効果的に介入することで発症を予防できるようになる」と研究者らは述べている。
Why Personalized Medicine Holds Promise for Preventing and Treating Diabetes(アルバート・アインシュタイン医学大学 2012年1月9日)‘Personalized Medicine’ To Identify Genetic Risks For Type 2 Diabetes And Focus Prevention: Can It Fulfill Its Promise?
Health Aff January 2012 vol. 31 no. 1 43-49
糖尿病と遺伝子
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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