がんばりすぎない糖尿病ライフ

2026年04月16日

夜間低血糖に気をつけて、よりよい運動療法を

 糖尿病をもつ人の中には、運動療法を続けている人もたくさんいらっしゃると思います。「運動をすると低血糖になりやすいので注意しましょう」と言われた経験がある人も多いのではないでしょうか。これはとても大切なポイントですが、実はもう一つ、意外と見落とされがちな注意点があります。それは、運動をした日の夜です。運動中は問題なかったのに、寝ている間に低血糖になるという、いわば時間差の低血糖なのです。

夜間低血糖とは?

 夜間低血糖とは、就寝中から早朝にかけて血糖値が必要以上に低下してしまう状態を指します。眠っている間は低血糖の自覚症状に気づきにくいため、知らないうちに起こっていることも少なくありません。
 特に、運動した日の夜に悪夢を見たり、頭痛や動悸(どうき)で目が覚めたり、大量に寝汗をかいたりしている場合は、夜間低血糖のサインである可能性があります。糖尿病をもつ人にとって夜間低血糖は、気づきにくい一方で体への負担が大きく、睡眠の質が低下したり、翌日の血糖変動が大きくなったり、場合によっては不整脈の原因になることもあります。そのため、あらかじめその仕組みを理解し、対策を考えておくことが大切です。

 では、なぜこのような時間差の低血糖が起こるのでしょうか。それは、体が筋肉に糖質を補充し直しているからです。

筋肉は糖質の貯蔵庫

 筋肉の中には、「グリコーゲン」と呼ばれる糖質の貯蔵庫があります。これは、ブドウ糖がたくさんつながった形で蓄えられており、運動中にはこのグリコーゲンが分解されてエネルギーとして使われます。

 しかし、運動で使われたグリコーゲンは、そのままにしておくわけにはいきません。体は再び筋肉にグリコーゲンを補充しようとします。そのときに血液中のブドウ糖を筋肉に取り込んで蓄え直すため、血糖値が下がりやすくなります。この影響は運動後2~3時間から半日ほど経ってから現れやすいため、ちょうどその日の夜間に低血糖が起こりやすくなるのです。

 ここで、ぜひ覚えておいていただきたいことがあります。運動して筋肉量を少しずつ増やしていくと、グリコーゲンの貯蔵庫そのものが大きくなります。すなわち、筋肉という貯蔵庫が物理的にも機能的にも拡張し、糖質を貯蔵できる場所が増えるということです。

 血液中の余分なブドウ糖をより多く取り込んで蓄えられるようになり、結果として血糖マネジメントが安定しやすくなるのです。実際、筋力トレーニングを続けると筋肉内のグリコーゲン量が増え、かつ、インスリンの効きもよくなるという研究結果がいくつも報告されています。

乳製品を使って上手に対策を

 このような時間差の低血糖に対しては、いくつかの対策があります。

 まず、タンパク質や脂質が少なすぎる夕食は避けることが大切です。また、夕食の最後に、牛乳や豆乳、ヨーグルト、チーズなどの乳製品を少量とるのもよい方法です。

 タンパク質や脂質を多く含む食品は、数時間かけてゆっくり消化・吸収されるため、夜間の血糖低下を和らげてくれます。ただし、砂糖を多く含む補食は、夜間ということもあり、虫歯予防の観点からも控えたほうがよいでしょう。

 補食と血糖上昇の関係については、以前の記事もご参照ください。

低血糖の補食はおいしさよりも成分重視

 また、トレシーバやランタスなどの基礎インスリンを使用されている人は、事前に投与量を少し調整することも選択肢の一つです。例えば、運動した日、あるいはその前日は、基礎インスリンをやや減らすことで夜間低血糖を防げる場合もあります。ただし、自己判断で行わず、主治医と相談しながら調整するのがよいでしょう。

夜間低血糖に気をつけて、よりよい運動療法を

 なお、運動をすると血糖が下がりやすいというイメージが一般的ですが、すべての人に当てはまるわけではありません。特に1型糖尿病の人や、インスリン分泌が少ない糖尿病の人では、アドレナリンやステロイドホルモンなどの血糖を上昇させるホルモンの影響で、運動中にむしろ血糖が上昇し、その後にゆっくり低下していくこともあります。そのため、普段あまり運動をしていない人が新たに運動を始める場合には、できれば一度CGMを使用して、運動前後の血糖値の動きを確認しておくと安心です。

 運動は血糖マネジメントにとってとてもよい習慣です。運動療法は「夜の低血糖対策まで含めて1セット」と考えて、自分の体の反応を見ながらうまく付き合っていくことが大切ですね。

プロフィール

田中慧プロフィール画像

田中 慧
たなか さとし
東京女子医科大学糖尿病代謝内科学分野 嘱託医師
糖尿病専門医/医学博士

10歳で糖尿病を発症。2型糖尿病と診断されていたが、28歳時に遺伝学的検査を受験し、遺伝性糖尿病のMODY3と診断された。ペン型インスリン、CGM使用中。インスリンポンプを使用していた時期もあり。患者としての25年以上の経験と、医師としての専門性を生かし、医療者・患者・家族をつなぐ活動を展開中。X(旧Twitter)では「おだQ」というハンドルネームで約15,000人のフォロワーに向けて糖尿病ライフのヒントを発信している

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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