がんばりすぎない糖尿病ライフ

2025年11月27日

「模範的な患者」演じていませんか?
外来での「すみません」はセルフスティグマのサインかも

 診察のとき、医療者から「最近どうですか?」と聞かれたり、家族や友人に生活の様子を尋ねられたりすることがありますよね。本当は特別なことはできていないし、むしろ糖尿病とあまり向き合えていないのに、「運動を増やしました」「気をつけるようにしています」と、つい言ってしまう...。そんな経験がある方は決して少なくないでしょう。

 私自身も、糖尿病と長くつき合うなかで「できていないと思われたくない」「期待に応えなくちゃ」という気持ちが強くなった時期がありました。自己管理ノートを本来の値から「良い値」に書き換えてしまったことも多くあります。ただし、その「模範的であらねば」という気持ちは、知らないうちに心の負担になることがあるのです。

 糖尿病は自分の行動が治療に大きくかかわる病気です。だからこそ、「血糖が高いのは自分のせい」「できなかった自分はだめだ」と考えやすい傾向にあります。こうした自己否定の積み重なりを、専門用語で「セルフスティグマ(自己スティグマ)」と呼びます。周囲の期待や偏見から外れてしまっている自分を見て、「自分は良い患者ではない」「自分はできていない」「自分はだめな患者だ」と感じてしまう心の動きのことです。

「模範的な患者」演じていませんか?  外来での「すみません」はセルフスティグマのサインかも

「乖離(かいり)的スティグマ」と「セルフスティグマ」

 この背景には「乖離的スティグマ」という現象が関係しています。これは、冒頭で述べたような、社会や医療者がえがく「模範的な糖尿病患者像」と、実際の自分とのギャップから生まれる感情のことです。

 たとえば、「糖尿病をもつ人は、運動を毎日続けて当然。」「間食は絶対ダメ」といった、糖尿病をもつ人があるべき理想像が、暗黙のうちに治療の前提になっています。その基準から少しでも外れると、「やれていない」「不真面目だ」と言われてしまう空気がある。この「ずれ」こそが乖離的スティグマです。

 そして、このズレが自分の心に積み重なっていくと、「こんな自分はだめだ」と自分を責めてしまう。これがセルフスティグマです。
 自己否定が強くなると、通院や血糖測定、運動などのセルフケアから距離を置いてしまうこともあります。実際、国内外の研究でも、自己否定感の強い人ほど自己管理行動が低くなる傾向が報告されています。

セルフスティグマのサインとしての「すみません」

 ご自分や、糖尿病をもつご家族から、こんな言葉が自然に出ていませんか?

 「自己管理できなくて、すみません」「私はだめだから」「早死にしますよね」

 これらは、自己否定感・セルフスティグマのサインです。けれど、決してあなたに問題があるわけではありません。

模範的でない=悪い、ではないのです

 血糖値は食事内容だけでなく、睡眠、ストレス、感染症、ホルモン変動など、数多くの要因に左右されます。完璧に管理することのほうがむしろ非現実的なのです。そして、ときに「完璧な患者像」を暗に求めてしまう医療者側にも責任があります。

 大事なのは、「うまくできなかった日は自然な変動のひとつ」と捉える視点です。そのほうが、長く安定して続けられるマネジメントにつながります。

 セルフスティグマを和らげる小さな一歩は、「できていないところ」ではなく「できているところ」に目を向けること。昨日より少し早く寝られた、測定を忘れずにできた、補食を落ち着いて選べた。どれも立派な自己管理です。

 また、医療者に「模範的な姿」を見せようとするより、リアルな生活を伝える方が、ずっと良い医療につながります。

 糖尿病の外来はテストではありませんから、模範解答を目指すのではなく、現実的で続けられるやり方を一緒に見つけることが大切です。個人的には、日々をやりくりするなか、通院を継続している時点で、すでに十分に「糖尿病と向き合っている良い患者さん」だと思います。

プロフィール

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田中 慧
たなか さとし
東京女子医科大学糖尿病代謝内科学分野 嘱託医師
糖尿病専門医/医学博士

10歳で糖尿病を発症。2型糖尿病と診断されていたが、28歳時に遺伝学的検査を受験し、遺伝性糖尿病のMODY3と診断された。ペン型インスリン、CGM使用中。インスリンポンプを使用していた時期もあり。患者としての25年以上の経験と、医師としての専門性を生かし、医療者・患者・家族をつなぐ活動を展開中。X(旧Twitter)では「おだQ」というハンドルネームで約15,000人のフォロワーに向けて糖尿病ライフのヒントを発信している

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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