がんばりすぎない糖尿病ライフ

2026年01月20日

何のために治療をする?

 あなたは一体、何のために血糖値を下げているのでしょうか?

 外来で診療をしていると、実にさまざまな理由で通院されている方がいらっしゃると感じます。HbA1cが、ある数値を下回らないと仕事ができないから。手術を受けるために必要だから。通院しないと家族に心配されたり、怒られたりするから。妊娠を考えているから。あるいは、すでに生活の一部になっていて、特に深く考えずに治療を続けているという方もいるでしょう。

 では、これまでに「何のために糖尿病の治療をしているのか」を、きちんと説明された記憶はあるでしょうか?血糖値を正常範囲にすること、そのものがゴールなのではありません。糖尿病をもたない人と、できるだけ変わらない生活に近づくこと。これが本当の目的です。そう考えると、将来の合併症を防ぐために血糖値を下げる、という考え方はとても理にかなっているように思えます。

何のために治療をする?

 ところが現実では、目的と手段が入れ替わってしまっていることが少なくありません。ケットウチやエーワンシーという数字が主役になりすぎてしまい、医療者から「もう少し下げましょう」という無言の圧を感じることもあります。さらに近年では、持続血糖測定器(CGM)によって分単位、時間単位で血糖の変動が見えるようになり、「今この瞬間の血糖値」に意識が縛られやすくなったのも事実です。

 その結果、気づかないうちに「血糖値のための生活」になってしまうことがあります。食べたいものを我慢し、数字に一喜一憂する毎日。これは、本来は生活を支えるはずの治療が、かえって生活を苦しめてしまっている状態だと言えるでしょう。

 例えば、すでに平均寿命を大きく超えている方が、将来の合併症リスクを恐れるあまり、若い人と同じように厳格な血糖マネジメントを求められるとしたら、それは本当にその人の幸せにつながるでしょうか。反対に、仕事や子育ての真っ最中の方が、「完璧な数値」を目指すあまり、心も体もすり減らしてしまうのも、本末転倒だと感じます。

 血糖マネジメントは、あくまで生活をよりよくするための「道具」にすぎません。その道具が目的になってしまったとき、治療は一気につらいものになってしまいます。 だからこそ、ときどき立ち止まって、「何のために治療をしているのか」「どんな生活を守りたいのか」「血糖値を下げることは、そのための手段として本当に役に立っているのか」を確認してみることが大切なのではないでしょうか。

プロフィール

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田中 慧
たなか さとし
東京女子医科大学糖尿病代謝内科学分野 嘱託医師
糖尿病専門医/医学博士

10歳で糖尿病を発症。2型糖尿病と診断されていたが、28歳時に遺伝学的検査を受験し、遺伝性糖尿病のMODY3と診断された。ペン型インスリン、CGM使用中。インスリンポンプを使用していた時期もあり。患者としての25年以上の経験と、医師としての専門性を生かし、医療者・患者・家族をつなぐ活動を展開中。X(旧Twitter)では「おだQ」というハンドルネームで約15,000人のフォロワーに向けて糖尿病ライフのヒントを発信している

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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