がんばりすぎない糖尿病ライフ

2025年09月17日

糖尿病をもつ人は、人生の何割を糖尿病に費やしている?

 糖尿病の治療は年々進歩しています。SGLT2阻害薬やGLP1受容体作動薬の登場、インスリン製剤はより安定して使いやすくなり、持続血糖測定器も精度や利便性が大きく向上しました。糖尿病をもつ人の寿命は延び、糖尿病に関連する合併症を発症する方も着実に減ってきています。これは本当に喜ばしいことです。ただ、その一方で、あまり変わっていないこともあります。それが『糖尿病にかかる人生の時間』です。

 毎月の通院、毎日の血糖測定、さらに食事に気を配り、運動を意識し、低血糖があればその対応をする。日々の生活の中に当たり前のように組み込まれているこれらの行動を、あらためて振り返ってみると、実はかなりの時間を『糖尿病のため』に使っているのではないかと思います。

糖尿病のために使う時間を考えてみよう

 たとえば月1回の通院。毎月の通院を要する方もいれば、数か月おきの受診の場合もありますが、定期的な通院がどうしても必要になります。

 通院の日は、①移動(交通費や時間がかかる)、②受付、③採血・採尿、④診察、⑤会計、⑥移動、⑦薬局での調剤 といった流れで、ほとんどが待ち時間。それだけで気づけば半日があっという間に過ぎてしまう、ということも珍しくありません。

 私自身は幼少期から糖尿病とともに過ごしてきましたが、学生時代のスケジュールへの影響は少なくありませんでした。たとえば大学の講義や実習があっても、月1回は午前中を病院で過ごさないといけない。結果的に講義を欠席して、単位を落としそうになったこともあります。また、成人してから糖尿病と診断された方にとっては、『何もなかった頃』とのギャップに戸惑うこともあります。治療にかかる時間の多さに圧倒され、モチベーションを保つのが難しくなることもあるかもしれません。

 そして、忘れてはならないのが低血糖です。これもまた、静かに時間を奪っていく存在です。症状が出れば、その場で何もできなくなります。すぐに糖を補給しても、落ち着くまでにはしばらく時間がかかりますし、補食の量を見誤れば次は高血糖になって、また調整が必要になってしまう。そうして1日の予定がすっかり崩れてしまうこともあるのです。

低血糖時の捕食の選び方

医療者にも、時間の話をしてみよう

 こうした『糖尿病にかかる時間』については、医療者側ももっと意識を向けたほうが良いと考えています。糖尿病治療はマラソンのようなものです。短距離走のように全力で走り続けても、途中で燃え尽きてしまっては意味がありません。目標設定が現実離れしていれば、どれだけ頑張っても達成できず、疲弊してしまうのは当然のこと。

 だからこそ、『どうすれば無理なく続けられるか』を一緒に考えることがとても大切です。たとえば、通院の頻度を見直してもらったり、近隣、あるいは夜間診療を行っているクリニックに紹介してもらったりするのも一案です。日々の自己管理にかかる時間や手間についても、医療者にきちんと伝えてみましょう。

 もし、そういった相談をしてもうまく伝わらないような医療者であれば、その方は残念ながら糖尿病をもつ人の生活への理解がまだ足りないのかもしれません。『糖尿病とどう付き合っていくか』は、『時間との付き合い方』でもあります。

 がんばりすぎず、でも投げ出さず。できる範囲で、少しでも心地よく。そんな時間の使い方を、ぜひ探してみてくださいね。

プロフィール

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田中 慧
たなか さとし
東京女子医科大学糖尿病代謝内科学分野 嘱託医師
糖尿病専門医/医学博士

10歳で糖尿病を発症。2型糖尿病と診断されていたが、28歳時に遺伝学的検査を受験し、遺伝性糖尿病のMODY3と診断された。ペン型インスリン、CGM使用中。インスリンポンプを使用していた時期もあり。患者としての25年以上の経験と、医師としての専門性を生かし、医療者・患者・家族をつなぐ活動を展開中。X(旧Twitter)では「おだQ」というハンドルネームで約15,000人のフォロワーに向けて糖尿病ライフのヒントを発信している

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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