がんばりすぎない糖尿病ライフ

2025年11月18日

靴を履くだけでも運動療法!?

 「運動しなきゃ」と思うほど、体が動かなくなる。そんな経験はありませんか。
糖尿病の治療は「食事療法」「運動療法」「薬物療法」が三本柱とよく言われますが、この中で運動が一番の難関だという人は少なくありません。仕事や家事で疲れて帰ってきてから、わざわざ運動する気力が湧かない、そんな日もありますよね。
 運動の重要性は、1型糖尿病をもつ人も、2型糖尿病をもつ人も同じです。運動療法の具体的なメリットや方法などは、以下の記事を参照してください。

糖尿病の運動療法情報ファイル

 さて、「がんばって運動する」よりも前にできることがあります。それが「座る時間を減らすこと」と「靴を履くこと」です。

靴を履くだけでも運動療法!?

まずは動く準備をすることから。立つことは立派な運動

 運動療法というと、「ウォーキング30分」とか「筋トレ週3回」など、いきなり理想に近い目標を思い浮かべてしまいがちです。けれど、それが続かない理由の多くは、スタート地点が高すぎることにあります。
 実際、これまでの研究でも、3~5分程度の軽い活動でも血糖改善に効果があることが報告されています。つまり何もやらないよりは何かやったほうがよいということで、「玄関で靴を履いて外に出る」「エレベーターを待つ間に少し足踏みをする」だけでも、体は『動くモード』に切り替わります。実際は一歩も歩いていなくても、それで十分、運動療法として立派な一歩です。

「ながら運動」で積み上げる

 寝転んだり座っている時間を減らすことも重要です。掃除機をかける、洗濯物を干す、買い物で遠い店を選ぶ。これらはすべて運動療法の一部です。わざわざ時間をつくって歩かなくても、立つ時間を増やすことで、筋肉は確実にエネルギーを使います。
 糖尿病をもたない方を含むデータですが、座っている時間が1日6時間以上の方は、そうではない方に比べて心臓病や死亡率が上昇するという報告があります。つまり、立つ時間を増やして座る時間を減らすのも、立派な運動療法ということですね。

 たとえばこんな感じはどうでしょうか。

  • 1日のうちに立ち上がる回数を意識してみる
    (スマートウォッチの活用もおすすめです。筆者が用いているスマートウォッチは、座っている時間が30分以上続くと立ち上がるように通知してくれます。)
  • テレビは立って見る。デスクワークは立って行う。
  • バスや電車では立つようにする。

 こうした、「ながら立ち」を積み重ねるだけで、1日の総活動量は大きく変わります。

血糖測定をモチベーションに活用する

 さて、何事も、実際に結果を伴うほうが続くものです。血糖値は、運動の強度やタイミングによって変わりますが、たとえば、持続血糖測定器(CGM)を用いて血糖推移を見るのもポイントです。

参考:血糖トレンドの情報ファイル 測定機器を知る

 10分歩いてどのくらい下がるか、夕食後に家事をしたらどう変化するか。そんなデータを積み重ねると、自分の「動きと血糖の関係」がだんだん見えてきます。運動を「体験」として理解できると、「やらなきゃ」から「やると分かる」に変わります。
 ここで注意することは、特にインスリン分泌が低下している人では、運動を行っている間は逆に血糖値が上昇傾向になる人がいます。運動をするとアドレナリンなどの血糖値を上げるホルモンが分泌されるからです。しかし、こういった方でも筋肉量が増えれば、「運動をしていない時間の血糖」や「食後血糖」が抑制されるため長期的にはプラスですから、全体を見るように意識してみてください。

続けるために、ハードルを下げよう

 運動療法は、「どれだけ動くか」よりも「どれだけ続けられるか」です。今日は靴を履くだけでもいいし、明日は近所のコンビニまで歩くだけでもいい。そうやって少しずつ積み重ねた行動が、やがて「習慣」になります。

 「がんばる」ではなく、「少し動く」。そのくらいの気持ちで、今日も靴を履いてみましょう!

プロフィール

田中慧プロフィール画像

田中 慧
たなか さとし
東京女子医科大学糖尿病代謝内科学分野 嘱託医師
糖尿病専門医/医学博士

10歳で糖尿病を発症。2型糖尿病と診断されていたが、28歳時に遺伝学的検査を受験し、遺伝性糖尿病のMODY3と診断された。ペン型インスリン、CGM使用中。インスリンポンプを使用していた時期もあり。患者としての25年以上の経験と、医師としての専門性を生かし、医療者・患者・家族をつなぐ活動を展開中。X(旧Twitter)では「おだQ」というハンドルネームで約15,000人のフォロワーに向けて糖尿病ライフのヒントを発信している

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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