がんばりすぎない糖尿病ライフ

2025年10月29日

「シックデイ」ハードルを下げて対応の練習をしよう。
あれもこれも、プチシックデイ

「シックデイ」ハードルを下げて対応の練習をしよう。あれもこれも、プチシックデイ

 主治医から「低血糖とシックデイには気をつけましょうね」と言われたことはありませんか?そもそも「シックデイ」とは一体何でしょう。

 ひとことで言えば「具合が悪くて、いつものように食事がとれないとき」とされています。 普段の生活を基準にして薬が処方されているので、体調が崩れたり、食事が十分にとれなかったりすると、血糖値が不安定になってしまったり、低血糖を起こしやすくなったりします。また、ビグアナイド薬やSGLT2阻害薬などの薬剤を使用している方では思わぬ副作用が起きることもあります。そのため、医療者から、シックデイの時は「脱水や低血糖に注意」「この薬は中止」などと教わるわけです。

 シックデイに関する基本的な考え方や対応方法は、糖尿病ネットワークのこちらの動画記事も参考になります。

糖尿病3分間ラーニング 病気になったときの対応

糖尿病3分間ラーニング シックデイルール

体調が悪い時にそんな余裕はない

 実際の生活は境界線が曖昧です。熱があっても食欲はある人もいれば、元気でもなんとなく食欲がわかない日もあります。では「どこからがシックデイ?」と聞かれると、患者さん本人だけでなく、医療者でさえ明確に答えられないことが少なくありません。

 さらに、いざ具合が悪くなると、外来でもらった説明用紙を探す余裕もなければ、細かい注意事項を思い出すのも難しいものです。結果として「とりあえず薬は飲もうかな」「インスリンはいつも通り打つか」となるのは、ごく自然な流れでしょう。

 だからこそ、普段から「いつもと違う日」への対応を練習しておくことが、血糖マネジメントの安定や安心感につながります。これは、よりよい糖尿病ライフのために大切な備えです。

シックデイはもっとゆるく考えていい

 「シックデイ=食事がとれない日」と限定する必要はありません。「体が普段どおりじゃない日」をすべてシックデイと考えてよいのではないでしょうか。

 例えばこんな日も、立派なプチシックデイです。

  • 夏バテでそうめんしか食べられない日
  • 繁忙期で昼食を抜いてしまう時期
  • 台風や地震での1~2日間の避難生活
  • 月経や月経前症候群で食欲や気分が大きく変わるとき
  • 失恋でご飯が喉を通らない夜

 こうした「軽めのシックデイ=プチシックデイ」のときに、対応を少し調べたり、医療スタッフに気軽に確認したりする習慣をつけておくと、血糖マネジメントへの柔軟さを身に着けることができます。そして、本番の「ガチのシックデイ」──例えばインフルエンザや新型コロナウイルス感染症にかかったとき、生活が激変する(例えば災害などで数か月の避難生活を余儀なくされる)とき──にも落ち着いて対応できるはずです。

 実際に多くの患者さんを診ていると、この「柔軟さ」を持っている方ほど血糖値が安定しているように感じます。

医療者側にもできる工夫

 少し視点を変えますが、医療者側においても、シックデイの指導は「伝える」だけでなく、「聞ける雰囲気づくり」をすることが重要です。患者さんが「どうしたらいいかわからない」と思ったときに、電話や外来で気軽に質問できる環境があれば、安心感はぐっと高まります。

 医療者にとっては、「指導すること」以上に、「質問を受け止めること」で与える安心感に価値があるのかもしれません。

プロフィール

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田中 慧
たなか さとし
東京女子医科大学糖尿病代謝内科学分野 嘱託医師
糖尿病専門医/医学博士

10歳で糖尿病を発症。2型糖尿病と診断されていたが、28歳時に遺伝学的検査を受験し、遺伝性糖尿病のMODY3と診断された。ペン型インスリン、CGM使用中。インスリンポンプを使用していた時期もあり。患者としての25年以上の経験と、医師としての専門性を生かし、医療者・患者・家族をつなぐ活動を展開中。X(旧Twitter)では「おだQ」というハンドルネームで約15,000人のフォロワーに向けて糖尿病ライフのヒントを発信している

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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