がんばりすぎない糖尿病ライフ
糖尿病は遺伝する?遺伝と上手に付き合う具体的な方法
「親が糖尿病なんです。私もなりますか?」
「私の糖尿病は、子供に遺伝しますか?」
外来でも日常でも、とてもよく受ける質問です。この問いの奥には、多くの場合「避けられない未来かもしれない」という不安と、「子どもに影響したらどうしよう」という心配の二つの気持ちがあります。
まず最初にお伝えしたいのは、遺伝は誰の責任でもないということです。生まれ持った体質は、良い悪いで裁くものではなく、ただの「初期設定」にすぎません。

さて、家族に糖尿病の方がいると、確かに糖尿病をもつリスクは上がります。しかし、そのような方がやるべきことは、実はそれほど多くありません。
まずは「早めに気づく仕組み」を作りましょう
家族に糖尿病をもつ方が多い場合に目指すべきなのは、「発症を100%防ぐこと」ではありません。「もし血糖値が上がってきても、早い段階で気づく」ことが何より大事です。
糖尿病は、気づくのが遅いほどしんどくなりやすい一方で、早く気づければ、生活を少し整えるだけで合併症を未然に防げることも多いです。
具体的には、健康診断で血糖やHbA1cを「年に1回は必ず確認する」。これだけでも、将来的なリスクをかなり低減することができます。また、妊娠を考えている方なら、妊娠前に一度チェックしておくと、より安心につながります。
自分がリスクの高い体質ならば、リスクを下げる生活を
さて、一般的に2型糖尿病の場合、発症リスクは加齢(歳をとること)、肥満(過体重)、たばこ、運動不足などで高くなります。年を取るのを止めるのは不可能です(笑)ので、それ以外のことに気を配る必要があります。
そこで最も重要になるのが体重です。理想体重を厳密に目指す必要はありませんが、目安としてはBMI(肥満指数)が18以上25未満の範囲に収まっていることが望ましいと考えられます。肥満指数は体重(kg)を身長(メートル)で2回割ると計算できます。
60kg、165cmの方でしたら60÷1.65÷1.65=22.04 になります。
また、定期的な運動習慣や、たばこを吸わないことも大きなメリットになるでしょう。
「子どもに遺伝するのでは」と心配なときの考え方
親として、ここが一番つらい部分かもしれません。1型糖尿病や2型糖尿病では、「糖尿病そのものがそのまま遺伝する」というより、「なりやすさが遺伝する」のが正しいです。
ですので、親ができる一番のことは、子どもに恐怖を渡すことではなく、生活のツールを渡すことです。
たとえば、親自身が毎年きちんと健康診断を受けている姿を見せること。食育の一環として、栄養バランスを考えた食事を日常にすること。間食や清涼飲料水、ジャンクフードの摂取が当たり前にならないようにすること。夜更かしが習慣化しないようにすること。運動を罰ゲームにせず、楽しいものとして扱うこと。こうした環境づくりは、遺伝よりも強く作用することが少なくありません。
遺伝がなければ考えなくてよかったことを考えなければならない。それは確かに理不尽です。糖尿病をもつ方のお子さんが、実際に若いうちから糖尿病を発症したときの気持ちは、察するに余りあります。ただ、冒頭で述べた通り、遺伝は誰の責任でもないという視点は、とても大切です。
単一遺伝子による糖尿病(MODY)の話
糖尿病の中には、ひとつの遺伝子が原因で「糖尿病が遺伝している」と言えるタイプも、確かに存在します。
たとえば、やせ型なのに、親も子も10代から20代で糖尿病と診断されている場合。1型糖尿病と言われてきたけれど、経過が少し典型的でない場合。このようなケースでは、単一遺伝子による糖尿病(MODY)の可能性があります。この点については、別の記事で詳しく取り上げたいと思います。
消費者向け遺伝子検査は星占い程度の感覚で
最後に、最近よく話題になる「消費者向け遺伝子検査(DTC遺伝子検査)ビジネス」についても触れておきます。
結論から言うと、現段階(2026年1月執筆時)では、医学的に実用的といえる水準には達しておらず、不安な気持ちにつけ込む側面が強いビジネスにとどまっています。検査結果だけで「将来、糖尿病になります/なりません」とか、「この生活習慣をすれば予防できます」といった医療的判断を行える段階では、残念ながらありません。つまり現状は、「便利そうに見えるけれど、医療にそのまま直結させるには早い」という段階だといえます。
将来的には、個人向け遺伝子検査の質が向上して、その人の効く薬が分かるなど、わかりやすい形で糖尿病の予防や治療に使えるようになれば、遺伝情報は「星占い」ではなく、「日常のマネジメントに活かせる道具」へと育っていく可能性があります。いつになるかは分かりませんが、そのときこそ、遺伝リスクは必要以上に恐れるものではなく、有用な予測ツールとして使用できるものになるでしょう。
プロフィール
田中 慧
たなか さとし
東京女子医科大学糖尿病代謝内科学分野 嘱託医師
糖尿病専門医/医学博士
10歳で糖尿病を発症。2型糖尿病と診断されていたが、28歳時に遺伝学的検査を受験し、遺伝性糖尿病のMODY3と診断された。ペン型インスリン、CGM使用中。インスリンポンプを使用していた時期もあり。患者としての25年以上の経験と、医師としての専門性を生かし、医療者・患者・家族をつなぐ活動を展開中。X(旧Twitter)では「おだQ」というハンドルネームで約15,000人のフォロワーに向けて糖尿病ライフのヒントを発信している
- 2026年01月29日 糖尿病は遺伝する?遺伝と上手に付き合う具体的な方法
- 2026年01月20日 何のために治療をする?
- 2025年12月24日 糖尿病のせいで眠れない夜、それもまた人生
- 2025年12月11日 コンビニ食で基礎カーボカウント法をはじめてみよう
-
2025年11月27日
「模範的な患者」演じていませんか?
外来での「すみません」はセルフスティグマのサインかも - 2025年11月18日 靴を履くだけでも運動療法!?
-
2025年10月29日
「シックデイ」ハードルを下げて対応の練習をしよう。
あれもこれも、プチシックデイ -
2025年10月15日
糖尿病であること、周りに言う?言わない?
〜「カミングアウト」と「アウティング」の話〜 - 2025年09月30日 低血糖の補食はおいしさよりも成分重視
- 2025年09月17日 糖尿病をもつ人は、人生の何割を糖尿病に費やしている?
※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。
Copyright ©1996-2026 soshinsha. 掲載記事・図表の無断転用を禁じます。
治療や療養についてかかりつけの医師や医療スタッフにご相談ください。

医療・健康情報グループ検索