がんばりすぎない糖尿病ライフ

2026年01月29日

糖尿病は遺伝する?遺伝と上手に付き合う具体的な方法

「親が糖尿病なんです。私もなりますか?」
「私の糖尿病は、子供に遺伝しますか?」

 外来でも日常でも、とてもよく受ける質問です。この問いの奥には、多くの場合「避けられない未来かもしれない」という不安と、「子どもに影響したらどうしよう」という心配の二つの気持ちがあります。
 まず最初にお伝えしたいのは、遺伝は誰の責任でもないということです。生まれ持った体質は、良い悪いで裁くものではなく、ただの「初期設定」にすぎません。

糖尿病は遺伝する?遺伝と上手に付き合う具体的な方法

 さて、家族に糖尿病の方がいると、確かに糖尿病をもつリスクは上がります。しかし、そのような方がやるべきことは、実はそれほど多くありません。

まずは「早めに気づく仕組み」を作りましょう

 家族に糖尿病をもつ方が多い場合に目指すべきなのは、「発症を100%防ぐこと」ではありません。「もし血糖値が上がってきても、早い段階で気づく」ことが何より大事です。
 糖尿病は、気づくのが遅いほどしんどくなりやすい一方で、早く気づければ、生活を少し整えるだけで合併症を未然に防げることも多いです。
 具体的には、健康診断で血糖やHbA1cを「年に1回は必ず確認する」。これだけでも、将来的なリスクをかなり低減することができます。また、妊娠を考えている方なら、妊娠前に一度チェックしておくと、より安心につながります。

自分がリスクの高い体質ならば、リスクを下げる生活を

 さて、一般的に2型糖尿病の場合、発症リスクは加齢(歳をとること)、肥満(過体重)、たばこ、運動不足などで高くなります。年を取るのを止めるのは不可能です(笑)ので、それ以外のことに気を配る必要があります。
 そこで最も重要になるのが体重です。理想体重を厳密に目指す必要はありませんが、目安としてはBMI(肥満指数)が18以上25未満の範囲に収まっていることが望ましいと考えられます。肥満指数は体重(kg)を身長(メートル)で2回割ると計算できます。
60kg、165cmの方でしたら60÷1.65÷1.65=22.04 になります。
 また、定期的な運動習慣や、たばこを吸わないことも大きなメリットになるでしょう。

「子どもに遺伝するのでは」と心配なときの考え方

 親として、ここが一番つらい部分かもしれません。1型糖尿病や2型糖尿病では、「糖尿病そのものがそのまま遺伝する」というより、「なりやすさが遺伝する」のが正しいです。
ですので、親ができる一番のことは、子どもに恐怖を渡すことではなく、生活のツールを渡すことです。
 たとえば、親自身が毎年きちんと健康診断を受けている姿を見せること。食育の一環として、栄養バランスを考えた食事を日常にすること。間食や清涼飲料水、ジャンクフードの摂取が当たり前にならないようにすること。夜更かしが習慣化しないようにすること。運動を罰ゲームにせず、楽しいものとして扱うこと。こうした環境づくりは、遺伝よりも強く作用することが少なくありません。
 遺伝がなければ考えなくてよかったことを考えなければならない。それは確かに理不尽です。糖尿病をもつ方のお子さんが、実際に若いうちから糖尿病を発症したときの気持ちは、察するに余りあります。ただ、冒頭で述べた通り、遺伝は誰の責任でもないという視点は、とても大切です。

単一遺伝子による糖尿病(MODY)の話

 糖尿病の中には、ひとつの遺伝子が原因で「糖尿病が遺伝している」と言えるタイプも、確かに存在します。
 たとえば、やせ型なのに、親も子も10代から20代で糖尿病と診断されている場合。1型糖尿病と言われてきたけれど、経過が少し典型的でない場合。このようなケースでは、単一遺伝子による糖尿病(MODY)の可能性があります。この点については、別の記事で詳しく取り上げたいと思います。

消費者向け遺伝子検査は星占い程度の感覚で

 最後に、最近よく話題になる「消費者向け遺伝子検査(DTC遺伝子検査)ビジネス」についても触れておきます。
 結論から言うと、現段階(2026年1月執筆時)では、医学的に実用的といえる水準には達しておらず、不安な気持ちにつけ込む側面が強いビジネスにとどまっています。検査結果だけで「将来、糖尿病になります/なりません」とか、「この生活習慣をすれば予防できます」といった医療的判断を行える段階では、残念ながらありません。つまり現状は、「便利そうに見えるけれど、医療にそのまま直結させるには早い」という段階だといえます。
 将来的には、個人向け遺伝子検査の質が向上して、その人の効く薬が分かるなど、わかりやすい形で糖尿病の予防や治療に使えるようになれば、遺伝情報は「星占い」ではなく、「日常のマネジメントに活かせる道具」へと育っていく可能性があります。いつになるかは分かりませんが、そのときこそ、遺伝リスクは必要以上に恐れるものではなく、有用な予測ツールとして使用できるものになるでしょう。

プロフィール

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田中 慧
たなか さとし
東京女子医科大学糖尿病代謝内科学分野 嘱託医師
糖尿病専門医/医学博士

10歳で糖尿病を発症。2型糖尿病と診断されていたが、28歳時に遺伝学的検査を受験し、遺伝性糖尿病のMODY3と診断された。ペン型インスリン、CGM使用中。インスリンポンプを使用していた時期もあり。患者としての25年以上の経験と、医師としての専門性を生かし、医療者・患者・家族をつなぐ活動を展開中。X(旧Twitter)では「おだQ」というハンドルネームで約15,000人のフォロワーに向けて糖尿病ライフのヒントを発信している

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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