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2025年07月02日
糖尿病の治療薬メトホルミンが長寿に関係 老化を遅らせ寿命を延ばす薬に期待

メトホルミンは糖尿病の治療に広く使われている薬
メトホルミン(ビグアナイド薬)は、2型糖尿病の治療に広く用いられている血糖値を下げる薬。肝臓で糖がつくられる糖新生を抑えることで血糖を下げ、消化管からの糖の吸収を抑えたり、体のインスリンの働きを高める作用などもある。
メトホルミンは、他の血糖値を下げる薬と併用しなければ低血糖を起こす危険性は低く、体重を増やしにくい薬なので、肥満のある糖尿病の人にもよく利用されている。
まれに乳酸アシドーシスと呼ばれる副作用を起こすことがあり、とくに腎機能障害ある人や、脱水やアルコールの飲みすぎなどには注意が必要となるものの、糖尿病の治療に長く使われている実績があり、安全で薬価も安い薬だ。
メトホルミンが老化を遅らせ寿命を延ばす可能性
広く使用されている糖尿病治療薬であるメトホルミンが、老化に関連するいくつかのプロセスに作用する可能性があるという研究が進められている。
糖尿病治療薬であるメトホルミンの使用は、長寿と関連することが最新の研究で示された。研究は、米カリフォルニア大学などによるもの。研究成果は「Journal of Gerontology」にオンライン掲載された。
「老化を遅らせ、寿命を延ばす薬の開発など、抗加齢医学への関心が高まっています。糖尿病治療薬として広く使用されているメトホルミンは、老化に関連するいくつかのプロセスに作用すると期待されています」と、同大学公衆衛生・人間長寿科学学部のアラジン シャディアブ氏は言う。
米国で実施されている多施設共同研究で、2型糖尿病のある閉経後女性で、メトホルミンの使用は、他の糖尿病治療薬の使用に比べて、90歳未満での死亡リスクを30%低下させることと関連することが示された。
メトホルミンを使っている女性は長寿という結果に
研究グループは、米国国立衛生研究所(NIH)などの支援を得て30年以上にわたり実施されている、大規模な全国コホート研究である「女性の健康イニシアチブ」(WHI)のデータを解析した。
その結果、解析の対象になった2型糖尿病の女性438人のうち、メトホルミンによる単剤療法を開始した女性の90歳未満死亡率は100人年あたり3.7だったのに対し、同じく血糖降下薬であるSU薬を開始した女性の5.0に比べて大幅に低かった。メトホルミンによる単剤療法を開始した場合、90歳未満死亡のリスクは30%も低かった。
WHIの研究には、1990年代半ばから全国40の臨床センターで、50~79歳の女性16万1,808人が参加している。参加した女性のうち、現在でも4万2,000人を超える78~108歳の女性が生存しており、積極的に活動しているという。
「今回の研究は、ランダム化比較試験(RCT)によるものではなく、因果関係を推測することはできませんが、糖尿病治療薬であるメトホルミンの使用は、長寿と関連することが示されました」と、シャディアブ氏は述べている。
メトホルミンは古い歴史のある薬
糖尿病の治療では、食事療法と運動療法を行い、十分な効果を得られない場合は、薬物療法が併用される。
ハーバード大学医学部によると、メトホルミンは糖尿病の人の血糖値を下げるだけでなく、心血管疾患による死亡リスクの低下など、心血管系にも効果をもたらす。余分な体重を減らす効果がある場合もあるという。
欧米で2型糖尿病の薬物療法の第一選択薬として使われることの多いメトホルミンの歴史は、約百年前にさかのぼる。
欧州で古くから薬草として利用されていたガレガ オフィシナリスの成分のひとつであるグアニジンに、血糖値を下げる作用があることが、1918年に発見された。
グアニジンには毒性があるため、毒性をなくすため化合物が合成され、ビグアナイドと名付けられた。化合物からメトホルミンが開発され、糖尿病の治療に使われるようになった。日本でも、最初のメトホルミン製剤が1960年代に発売された。
メトホルミンの潜在能力に期待
「近年、老化を含むさまざまな疾患の予防や治療を可能性する方法の開発に関心が高まっています。メトホルミンは、糖尿病以外の人にも健康上のメリットをもたらす可能性があります」と、ハーバード大学医学部の医学部担当教授であるロバート シュマーリング氏は述べている。
メトホルミンの潜在能力を調べる研究が進められており、たとえば、メトホルミンが2型糖尿病患者のがんリスクを軽減したり、認知症と脳卒中のリスクを減らしたり、さらには老化を遅らせ、加齢にともなう疾患を予防し、寿命を延ばす効果なども期待されている。
これまでの予備研究では、メトホルミンがインスリンへの反応の改善、抗酸化作用、血管の健康改善などにより、老化を遅らせ、寿命を延ばす可能性が指摘されているという。
気になるメトホルミンの副作用としては、吐き気、胃の不調、下痢などがあるが、ほとんどの人でこれらは軽度であり、安全性プロファイルは良好としている。
より深刻な副作用として、重度のアレルギー反応や、血流中に乳酸が蓄積する乳酸アシドーシスが起こることがあり、とくに重度の腎臓病のある患者でこのリスクが高くなるため、医師はそうした患者へのメトホルミンの処方に対して慎重である傾向はあるものの、実際にそうした副作用が起こるのはまれだとしている。
「これまでの研究は有望ではあるものの、糖尿病患者さん以外へのメトホルミンの広範な使用を承認するには、より説得力のあるエビデンスが必要となります。しかし、この古くからある薬を新たな効果のある薬として再利用したいと考えている臨床研究者にとって、素晴らしい出発点となる可能性があります」と、シュマーリング教授は述べている。
Use of Metformin Associated with Exceptional Longevity Among Older Women (カリフォルニア大学サンディエゴ校 2025年5月19日)
Comparative Effectiveness of Metformin vs Sulfonylureas on Exceptional Longevity in Women with Type 2 Diabetes: Target Trial Emulation (The Journals of Gerontology: Series A 2025年5月19日)
Is metformin a wonder drug? (ハーバード大学医学部 2024年4月8日)
メトホルミンの適正使用に関するRecommendation (日本糖尿病学会)
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