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2025年07月01日

日本食はメンタルヘルス改善に有用 うつ病が減少 日本食は糖尿病リスクも軽減 日本の働く人を調査

 ご飯、みそ汁、緑黄色野菜、漬物、イモ類、大豆製品、キノコ類、海藻類、脂の多い魚、緑茶などをとる日本食パターンの食事は、健康的とみられている。

 日本食をとっている傾向が強いほどうつ病が少なく、メンタルヘルスが良好である傾向があることが、日本の企業の勤労者1万2,000人超を対象とした新しい調査で明らかになった。

 別の研究でも、日本の健康的な食事パターンにより、糖尿病のリスクが低下することが示されている。

 日本食パターンにより、心筋梗塞、心不全、脳卒中などの、循環器疾患のリスクが低下することも確かめられた。

日本食パターンの食事をしている人はうつ症状が少ない

 日本の企業の勤労者1万2,000人超を対象に、日本の伝統的な食パターンをスコア化し、抑うつとの関連について調査した結果、日本食をとっている傾向が強いほどうつ病が少ないことが、職域多施設研究「J-ECOHスタディ」で明らかになった。

 調査では、ご飯、味噌汁、大豆製品、調理野菜、キノコ類、海藻、魚、緑茶などの摂取頻度が多い「伝統的日本食パターン」のスコアや、これに果物、生野菜、乳製品を取り入れた「改良型日本食パターン」のスコアが高い人は、抑うつ症状はおよそ2割少ないことが示された。

 うつ病は、労働者の生産性低下や長期欠勤の原因として深刻な社会問題になっている。心の健康を保つ手段のひとつとして、「食事」に注目が集まっている。

 欧米では地中海食などの特定の食事パターンが抑うつのリスクを下げることが報告されているが、日本の伝統的な食習慣との関連については、これまで十分に検討されていなかった。

日本食のスコアが高いとうつ症状が2割少ないという結果に

 そこで、国立健康危機管理研究機構(JIHS)などの研究グループは、職域多施設研究「J-ECOHスタディ」に2018~2020年に参加した、日本の5つの企業に勤務する従業員1万2,499人の生活習慣データについて、日本食パターンと抑うつ症状との関連を調査した。

 J-ECOHスタディは、関東・東海の企業10数社の約10万人の勤労者が参加している職域多施設研究。働く世代の生活習慣病や関連する疾患の実態や要因などを明らかにし、その予防や管理を改善することを目的に実施されている。

 その結果、いずれの食事パターンでも、日本食のスコアが高い群ほど、抑うつ症状の有症率比が段階的に低くなる傾向がみられた。

 スコアがもっとも低い群に比べて、もっとも高い群では、抑うつ症状の有症率は、伝統的日本食のスコアの高いグループで17%減少し、改良型日本食のスコアの高いグループで20%減少した。

 なお、調査の参加者1万2,499人の88%は男性で、平均年齢は42.5歳で、全体の30.9%に抑うつ症状が認められた。

なぜ日本食を好む人はうつ病が少ない?

 今回の研究は、日本の伝統的な食パターンをスコア化し、抑うつとの関連について、日本の企業の勤労者を対象に調べたはじめてのものとしている。

 日本食をとっている人が強いほどうつ病が少ない傾向があることについて、疫学的な関連を裏付けるメカニズムとして、研究者は次のことを指摘している。

  • 海藻、大豆食品、野菜に含まれる葉酸は、セロトニンやドーパミンといった脳内の神経伝達物質の合成を助ける。
  • 脂の多い魚に豊富に含まれるn-3系脂肪酸には、抗炎症作用があり、神経伝達物質の働きをサポートする。
  • 緑黄色野菜、緑茶、納豆や味噌などの発酵食品に含まれる抗酸化物質は、脳に悪影響を与える酸化ストレスを軽減する。
  • 海藻、野菜、大豆食品、キノコ類に豊富に含まれる食物繊維は、腸内細菌のバランスを整え、抗炎症作用やセロトニン産生を促進する作用のある短鎖脂肪酸を増やし、抑うつ症状を緩和する。
  • 日本食に特徴的な「うま味」成分が、副交感神経を亢進させ、心理的な安定をもたらしている可能性もある。

 「今回、勤労者を対象にした大規模な疫学研究により、日本食には心の健康を支える働きがあるという仮説を支持する結果が得られました。前向き研究による検証が必要ですが、日本人におけるエビデンス(科学的証拠)として、抑うつの予防に関する職域や地域での公衆衛生対策の一助となることが期待されます」と、研究者は述べている。

 研究は、国立健康危機管理研究機構(JIHS)臨床研究センター疫学・予防研究部の三宅遥上級研究員、溝上哲也部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Psychiatry and Clinical Neurosciences」に掲載された。

日本食パターンの食事は糖尿病リスクも減らす
循環器疾患や心疾患などのリスクを低下
 ご飯、みそ汁、緑黄色野菜、漬物、イモ類、大豆製品、キノコ類、海藻類、脂の多い魚、緑茶などをとる日本食パターンの食事は、糖尿病のある人にとっても健康的とみられている。

 日本人を対象としたJPHC研究でも、とくにタバコを吸わない人で、日本の健康的な食事パターンにより、糖尿病のリスクが低下することが示されている。

 一方で、欧米型の食事パターンであると、タバコを吸わない男性では、2型糖尿病の発症が増えることも示された。肉類・加工肉、ソフトドリンク、果物ジュース、マヨネーズ、乳製品などを多くとる食事パターンは「欧米型」とみられている。

 「JPHC研究」は、日本人のライフスタイルとがん・脳卒中・心筋梗塞などの発症の関係を明らかにするために実施されている多目的コホート研究。

 JPHC研究の別の報告では、日本食パターンにより、心筋梗塞、心不全、脳卒中などの、循環器疾患や心疾患などによる死亡のリスクが低下することも示された。

 研究者はその理由として、日本食パターンの食事は、海藻、漬物、緑黄色野菜、魚介類、緑茶を多くとり、それらに食物繊維や抗酸化物質、カロテノイド、エイコサペンタエン酸などの、健康に有益な栄養素が多く含まれることを挙げている。

 日本食は、食塩のとりすぎになりやすいという欠点もあるが、食塩のナトリウムを体外に排泄し血圧の上昇を抑えるカリウムの摂取量も多く、カリウムが食塩による影響を打ち消している可能性を、研究者は指摘している。

 食塩の摂取量が多いと、血圧が高くなりやすく、循環器疾患のリスクが上昇する。カリウムが多く含まれるホウレンソウ、コマツナ、ブロッコリー、ニンジン、トマトなどの野菜や、イモ類、海藻類、果物などを十分に食べたい。

国立国際医療研究センター 臨床研究センター 疫学・予防研究部
職域多施設研究(J-ECOHスタディ)
Association between the Japanese-style diet and low prevalence of depressive symptoms: Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study (Psychiatry and Clinical Neurosciences 2025年6月16日)

国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト
Development and validation of prediction models for the 5-year risk of type 2 diabetes in a Japanese population: Japan Public Health Center-based Prospective (JPHC) Diabetes Study (Journal of Epidemiology 2023年5月20日)

Dietary patterns and type 2 diabetes in Japanese men and women: the Japan Public Health Center-based Prospective Study (European Journal of Clinical Nutrition 2012年10月24日)
Association between adherence to the Japanese diet and all-cause and cause-specific mortality: the Japan Public Health Center-based Prospective Study (European Journal of Nutrition 2020年7月16日)

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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