ニュース
2025年06月27日
【1型糖尿病の最新情報】幹細胞から分化した膵島細胞を移植 インスリンが不要になり重症低血糖もゼロに

幹細胞から分化した膵島細胞を移植
インスリンが不要になり重症低血糖もゼロに
試験は、トロント大学、ペンシルベニア大学、ウィスコンシン大学、シカゴ大学、ペンシルベニア大学などの病院の研究者により行われた。試験に参加した1型糖尿病患者は、低血糖性認識障害および重症低血糖イベントがあり、血糖管理が困難だった。
試験に使われた「Zimislecel(VX-880)」は、米Vertex Pharmaceuticals社が開発している、同種幹細胞から分化したインスリンを分泌する膵島細胞を移植する治療法。それにより、グルコース応答性インスリン産生を含む膵島細胞の機能と、血糖値を調節する能力を回復するというもの。
幹細胞は、失われた細胞をふたたび生みだす能力のある細胞で、体をつくるさまざまな細胞を作りだす分化の能力と、同じ性質をもつ細胞に分裂する自己複製の能力がある。
再生した膵島細胞は、門脈(栄養を多く含む血液を肝臓に運ぶ静脈)への注入によって投与され、膵島細胞を免疫拒絶から保護するために慢性的な免疫抑制療法も必要となる。
12人の1型糖尿病患者を対象に1年間以上行われた臨床試験では、主に次のことが示された。
- Cペプチド(CPR)はインスリンが膵β細胞で合成されるときにできる副産物で、インスリン分泌の指標となる。試験では、グルコース応答性の内因性Cペプチド産生が1年間の追跡調査を通じて持続し、インスリン産生が回復したことが示された。これにより、血糖管理の目標であるHbA1c 7%未満が達成され、血糖値が目標(70~180mg/dL)におさまっている時間は70%以上になった。
- 移植により、1日のインスリン投与量は平均して92%減少し、外因性インスリン使用量が減少した。移植してから90日目以降は、全員で重症の低血糖イベントが発生しなくなった。
- 移植を受けた1型糖尿病患者12人中10人(83%)は、外因性インスリンの必要がなくなり、インスリン療法から離脱するのに成功した。
- 移植を受けた患者はおおむね良好な忍容性を維持し、有害事象のほとんどは軽度または中等度であり重篤なものではなかった。
近い将来に1型糖尿病患者に画期的な治療選択肢をもたらすと期待
1型糖尿病は、血糖値を下げるインスリンを分泌する膵臓のβ細胞が、壊されてしまうことで発症する。β細胞からインスリンがほとんど分泌されなくなることが多く、1型糖尿病と診断されたら、インスリンを注射やインスリンポンプで補充し、血糖管理を生涯続ける必要がある。
1型糖尿病は、世界中で小児や若い人を中心に幅広い年齢の人が発症している。一般的に糖尿病として認知されている糖尿病の9割以上を占め生活習慣が関わる2型糖尿病とは、1型糖尿病の発症の原因や治療のあり方は異なる。
1型糖尿病でβ細胞が壊される原因はすべては解明されていないが、免疫反応が正しく働かず、自分の細胞を攻撃してしまう「自己免疫」が大きく関わっていると考えられている。
「完全に分化した幹細胞由来の膵島細胞を移植する治療は、前例のないはじめてのものです。12人の患者さん対象に、1年以上の追跡調査を行った結果、全員から規模、一貫性、持続性についての良好な結果を得られたことは、重度の低血糖を合併している1型糖尿病患者さんにとって希望をもたらすことを意味します」と、Vertex Pharmaceuticals社のカルメン ボジック氏は述べている。
「ベースラインのHbA1cが7%を超え、重度の低血糖を複数回経験している12人の1型糖尿病患者さんの全員が、HbA1cと血糖値の範囲内時間の両方で、血糖管理の目標を達成でき、重度の低血糖イベントを排除できたことに注目しています」と、ペンシルベニア大学病院の膵島細胞移植プログラムのディレクターであるマイケル リケルズ教授は言う。
「通院して糖尿病の管理をしている1型糖尿病の患者さんや、1型糖尿病のコミュニティでの現状の満たされていないニーズについて考えると、幹細胞由来の膵島を移植する治療により、内因性インスリン分泌を回復できることを示した今回の試験の成果は、そう遠くない将来に、1型糖尿病の患者さんにとって画期的な治療選択肢をもたらすことなるだろうと、希望と自信を与えてくれます」としている。
Vertex Presents Positive Data for Zimislecel in Type 1 Diabetes at the American Diabetes Association 85th Scientific Sessions (Vertex Pharmaceuticals 2025年6月20日)
Stem Cell-Derived, Fully Differentiated Islets for Type 1 Diabetes (New England Journal of Medicine 2025年6月20日)
1型糖尿病の関連記事
- 【1型糖尿病の最新情報】幹細胞から分化した膵島細胞を移植 インスリンが不要になり重症低血糖もゼロに
- 【1型糖尿病の最新情報】発症からインスリン枯渇までの期間を予測 より効果的な治療を期待 日本初の1型糖尿病研究
- 【1型糖尿病の最新情報】成人してから発症した人の血糖管理は難しい? β細胞を保護する治療法を開発
- 1型糖尿病の人の7割が運転中に低血糖を経験 低血糖アラート機能付きCGMが交通安全に寄与
- 腎不全の患者さんを透析から解放 「異種移植」の扉を開く画期的な手術が米国で成功
- ヨーヨーダイエットが1型糖尿病の人の腎臓病リスクを上昇 体重の増減を繰り返すのは良くない
- 世界初の週1回投与の持効型溶解インスリン製剤 注射回数を減らし糖尿病患者の負担を軽減
- 腎不全の患者さんを透析から解放 腎臓の新しい移植医療が成功 「異種移植」とは?
- 【1型糖尿病の最新情報】幹細胞由来の膵島細胞を移植する治療法の開発 危険な低血糖を防ぐ新しい方法も
- 若い人の糖尿病が世界的に増加 日本人は糖尿病になりやすい体質をもっている 若いときから糖尿病の予防戦略が必要