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2025年05月20日
【1型糖尿病の最新情報】成人してから発症した人の血糖管理は難しい? β細胞を保護する治療法を開発

成人してから1型糖尿病を発症した人は合併症リスクが高い?
成人期に1型糖尿病を発症した人は、心血管疾患と死亡のリスクが高く、予後が良好ではない傾向があることが、スウェーデンのカロリンスカ研究所の新しい調査で示された。
研究グループは、2001~2020年の成人期に1型糖尿病と診断された1万184人、2型糖尿病と診断された37万5,523人、全人口登録簿から抽出した対照群50万9,172人を比較した。
その結果、成人発症1型糖尿病の人は、対照群と比較して、心血管疾患、がん、感染症を含むあらゆる原因による死亡リスクが高いことが示された。
成人発症の1型糖尿病患者の、心筋梗塞や脳卒中などの主要心血管イベント(MACE)の発症リスクは、対照群に比べると1.30倍に上った。
ただし、1型糖尿病の人のMACEの発症率は、2型糖尿病の人に比べると0.67倍で、大幅に低いことなども示された。
1型糖尿病はかつては、小児期や若年期にのみ発症するとみられていたが、現在は生涯を通じていつでも発症する可能性があることが知られている。
1型糖尿病は中高年が多く発症する2型糖尿病とは異なる
1型糖尿病は、血糖値を下げるインスリンを分泌する膵臓のβ細胞が、壊されてしまうことで発症する。
一般的に糖尿病として認知され、糖尿病の人の9割以上を占める2型糖尿病とは、1型糖尿病の発症の原因や治療のあり方はまったく異なる。
1型糖尿病でβ細胞が壊される原因ははっきりとは分かっていないが、免疫反応が誤って働き、自分の細胞を攻撃してしまう「自己免疫」が関わっていると考えられている。
1型糖尿病を発症すると、β細胞からインスリンがほとんど分泌されなくなることが多く、血糖を調整するインスリンを、注射やインスリンポンプで補充し、血糖管理を生涯続ける必要がある。
生活習慣病とも呼ばれる2型糖尿病は、中高年以降の人が多く発症するが、1型糖尿病は、世界中で幅広い年齢の人が発症しているものの、小児期や若年期の若い人が多く発症している。
血糖管理を改善すれば合併症を予防できる
研究は、同研究所環境医学研究所のソフィア カールソン氏らによるもの。研究成果は、「European Heart Journal」に発表された。
「年齢を重ねてから1型糖尿病を発症した人は、予後不良になりやすいことが示されました。主な原因は、血糖管理の不良、過体重や肥満、喫煙などの不健康なライフスタイルです」と、カールソン氏は言う。
「ただし、血糖管理を改善することで、成人期に診断された人でも、予後は大幅に改善されることも示されました」と指摘している。
とくに、1~2ヵ月の血糖値の平均をあらわすHbA1cが10%を超えていると、死亡リスクは上昇した。糖尿病の合併症を予防するための目標はHbA1cを7.0%未満に、低血糖などの理由で難しい場合は8.0%未満に維持することだとされている。
1型糖尿病の人は、インスリン分泌が不足しているため、外からインスリンを補充することが絶対必要となる。
インスリンの基礎分泌と追加分泌を、インスリンの注射などで補う、「強化インスリン療法」が基本となる。良好な血糖管理を維持するために、血糖値のモニタリングが必要になることも多い。
年齢を重ねてから1型糖尿病を発症した人は、小児期や若年期に発症した人に比べ、インスリン療法などに適応するのが難しい場合があることなどが考えられる。
「成人発症の1型糖尿病について、発症のリスク因子や細小血管合併症などの予防などを含め、引き続き調査を行う予定です」と、研究者は述べている。
「インスリンポンプや持続血糖モニター(CGM)などの先進技術の活用を含め、成人発症の1型糖尿病の最適な治療法について検討する必要があります」としている。
研究は、スウェーデン研究評議会、スウェーデン糖尿病財団などからの支援を得て行われた。
膵臓のβ細胞を保護する治療法を開発
1型糖尿病の発症の主要な原因は、免疫システムがインスリンを産生する膵臓のβ細胞を誤って攻撃し破壊することだとみられており、膵臓で起こる炎症反応が関わっていることが知られている。
免疫システムが活性化すると、免疫細胞や炎症性サイトカインが関与して、有害な炎症が起こる。
チロシンキナーゼ2(TYK2)とよばれる酵素の働きを抑える薬により、炎症を抑えて、膵臓のβ細胞を保護するだけでなく、免疫系によるβ細胞への攻撃も軽減する治療法の開発を、米国のインディアナ大学が進めている。研究成果は「eBioMedicine」に掲載された。
TYK2が含まれる分子には、細胞外からの刺激シグナルを細胞内に伝達する働きがあり、自己免疫疾患の病態に関与する炎症性サイトカインの受容体に結合してシグナルを伝達する。このシグナル伝達を遮断することで、炎症を抑えられると考えられている。
「TYK2を抑制することが、インスリンを産生するβ細胞を守りながら、免疫系による炎症を鎮める強力な方法となりえることが示されました」と、同大学糖尿病研究センターのカーメラ エバンス-モリーナ所長は言う。
「1型糖尿病のリスクのある人、または最近発症した患者さんを対象に、TYK2阻害薬による治療効果を評価する研究を、近く開始することを目指しています」としている。
Adult-onset type 1 diabetes increases risk of cardiovascular disease and death (カロリンスカ研究所 2025年5月14日)
Adult-onset type 1 diabetes: predictors of major cardiovascular events and mortality (European Heart Journal 2025年5月14日)
Dual-action approach targeting inflammation shows potential as Type 1 diabetes treatment (インディアナ大学 2025年5月7日)
Pharmacological inhibition of tyrosine protein-kinase 2 reduces islet inflammation and delays type 1 diabetes onset in mice (eBioMedicine 2025年5月6日)
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