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2025年06月11日
肥満のある人が体重を減らすと糖尿病リスクは大幅減少 中年期の体重管理は効果が高い 血糖値を下げる薬を止められる人も
肥満は糖尿病のリスク因子 肥満を改善すると糖尿病も改善
肥満は太っている状態を示し、肥満にともない健康を脅かす合併症がある場合、あるいは合併症になるリスクが高い場合に、肥満症と診断される。
日本肥満学会は、日本人では体重と身長から算出されるBMI(体格指数)が18.5以上25未満であれば「普通体重」、BMIが25以上であれば「肥満」と定めている。
糖尿病と肥満は密接に関連しており、肥満は2型糖尿病のリスク因子のひとつだ。
肥満の原因は、食べすぎや運動不足などの不健康なライフスタイルだと、決めつけられることがあり、ときにマイナスの印象でみられることもあるが、実際には社会や環境による影響や、ストレス、遺伝因子による個人差なども影響しており、個人の力だけでは解決が難しいことも多いとみられている。
肥満を改善するために必要なのは減量だ。ただし、BMIを減らすことだけではなく、内臓脂肪を減らすると、肥満に合併する疾患の予防・改善を期待できる。
40~50代の人が肥満を改善すると糖尿病リスクが大幅に減少
中年期に食事や運動などのライフスタイルを改善し、体重を減らし、肥満や過体重を改善すると、糖尿病リスクが大幅に減少することが、フィンランドのヘルシンキ大学の新しい研究で明らかになった。研究成果は、「JAMA Network Open」に発表された。
40~50代の中年期に食事や運動などによる体重管理についてのサポートを受け、持続的な減量を行った人は、体重が変わらなかった人に比べて、2型糖尿病を含む慢性疾患のリスクが48%低下した。体重を減らした人では、体重減少が死亡リスクの低下と関連することも示された。
研究グループは、フィンランドと英国で実施された3件のコホート研究に参加した2万3,149人の成人を対象に、12~35年間追跡して調査し、肥満や過体重を改善したときの、2型糖尿病などの発症との関連を調べた。
「今回の研究は、健康状態を最適に保つために、生涯を通じてBMIを25未満に維持することが理想的であることを示しています。ライフスタイルを改善することが、健康状態を大幅に改善し、寿命を延ばすことにつながることを、多くの人に理解してもらうきっかけになることを願っています」と、同大学臨床医学部のティモ ストランドバーグ教授は言う。
「研究が開始された35年前に比べて、今日では肥満や過体重の人が増えており、このことはとくに重要な意味をもちます」としている。
体重を減らすと血糖値を正常に維持しやすくなる
健康的な体重を維持することが、糖尿病リスクを減らすことは、アジア人を対象とした別の調査研究でも示されている。
2型糖尿病と肥満のある人は、体重を減らすことで血糖値を正常に維持できるようになることが分かった。研究成果は、「PLOS Medicine」に発表された。
「2型糖尿病と肥満のある人は、健康的な体重を維持すると、糖尿病リスクを大幅に減らせることが示されました。体重を減らしそれを維持した人になかには、数は多くないにしても、血糖管理が改善し、血糖値を下げる薬が必要なくなる人も出てきました」と、香港中文大学の糖尿病・内分泌代謝の専門医であるアンドレア ルク氏は言う。
アジア人でも肥満を改善すると糖尿病リスクは低下
研究グループは、香港で新たに2型糖尿病と診断された3万7,326人の成人を対象に、7.9年(中央値)追跡して、健康的な食事や運動の習慣化などライフスタイルを改善するための支援を受け、適正体重を維持したときに、糖尿病の管理がどれだけ改善するかを調べた。
その結果、肥満や過体重の人が体重を減らし、それを維持すると、糖尿病リスクは大幅に低下することが示された。
さらに、体重を減らした人の6%は、糖尿病の寛解(糖尿病が治ったのに近い状態になること)を達成したことも分かった。
薬物療法を必要とせずに、血糖値を正常に維持できることを、2型糖尿病の「寛解」と定義した。血糖降下薬を3ヵ月以上服用しておらず、6ヵ月以上の間隔をあけてHbA1cが2回連続して6.5%未満になった場合を寛解とした。
体重を増やした人に比べると、糖尿病の診断後1年以内に体重を10%以上減らした人は、糖尿病寛解が3.28倍に、5%~10%減らした人では2.29倍にそれぞれ増えることも示された。
持続的な減量により糖尿病の管理を改善できる
「2型糖尿病患者さんが、ライフスタイルを改善するための集中的な支援と、包括的な管理アプローチを受け、体重がもっとも減少し、それを維持できた場合は、糖尿病の寛解の可能性が高まることが示されました」と、ルク氏は言う。
「ただし、糖尿病の寛解を経験した人のうち、半数は3年以内に血糖値がふたたび上昇しました」としている。
英国で実施された白人を対象とした臨床試験では、2型糖尿病と肥満のある人は、12ヵ月にわたり体重を減らし健康的な体重を維持することで、半数が血糖降下薬を使用せずに1~2ヵ月の血糖値の平均をあらわすHbA1cを6.5%未満に下げられたという結果が出ている。
しかし、今回のアジア人を対象とした試験では、持続的な減量により、2型糖尿病の管理を改善できることが示されたものの、体重管理のみで長期的に正常な血糖値を維持するのは難しいことも分かった。
「糖尿病で肥満や過体重のある人が、体重を減らすのに成功すると、血糖値が下がり糖尿病の管理が改善することが示されましたが、そうした場合でも通院を続け、医師による検査や診断、治療を受け続けることが大切です」と、ルク氏は指摘している。
あなたの肥満、治療が必要な「肥満症」かも!? (一般社団法人 日本肥満学会)
Midlife weight loss linked to longer, healthier lives (ヘルシンキ大学 2025年5月28日)
Weight Loss in Midlife, Chronic Disease Incidence, and All-Cause Mortality During Extended Follow-Up (JAMA Network Open 2025年5月27日)
CUHK study shows few patients with type 2 diabetes can achieve diabetes remission in real-world settings through weight loss at early stage and eventually stop medications (香港中文大学 2024年2月8日)
1-year weight change after diabetes diagnosis and long-term incidence and sustainability of remission of type 2 diabetes in real-world settings in Hong Kong: An observational cohort study (PLOS Medicine 2024年1月23日)
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