がんばりすぎない糖尿病ライフ

2026年03月31日

糖尿病と終活について考えてみよう

認知症になったときのことを考えたことがありますか?

 糖尿病をもつ人の平均死亡時年齢は、男性74.4歳、女性77.4歳(2011年〜2020年、日本糖尿病学会の調査)といわれています。これは10年前の調査に比べて約3年延びています。このデータ自体も現在からみるとやや古く、近年は新しい薬やデバイスが登場していることを考えると、さらに寿命は延びている可能性があります。

 長く生きられるようになったことは、とても喜ばしいことです。ただその一方で、自分自身の将来について、ふと不安になることもあるのではないでしょうか。「長生きできるのはいいけれど、もし自分が認知症になったらどうなるのだろう?」と。

糖尿病と「よく死ぬ」ということ

 「よく生きる」という言葉はよく耳にしますが、「よく死ぬ」という言葉を聞く機会はあまりありません。しかし医療の現場では、人生の最期をどのように迎えるかという問題も大切なテーマです。さて、糖尿病の治療は「糖尿病をもたない人と同じような人生を送ること」が目的ですよね。糖尿病をもつ人が、糖尿病をもたない人と同じように死ぬ、というのはどのようなものでしょうか?

 これは私見ですが、人生の最期だけでも、糖尿病であることに振り回されないでいる期間をつくるという考え方も大切なのではないかと思っています。

 施設に入所されている方が、糖尿病をもっているからと厳しい食事制限をされていたり、甘味や間食を完全に禁止されている現状を耳にすると、少々寂しい気分になってしまいます。

糖尿病と認知症

 さて、糖尿病をもつ我々は、認知症を発症する頻度が高いとされています。寿命が延びたことで、認知症と糖尿病が重なるケースも増えており、これは現在の糖尿病診療における大きな課題のひとつです。

 糖尿病の治療は、日々考えることが多いですよね。食事や運動の調整、内服や注射のタイミング、血糖値に応じた薬の調整、低血糖への対応など、細かな判断が積み重なっています。ところが認知症になると、食事をとったかどうか分からなくなったり、薬を飲み忘れたり、逆に重複して服用してしまったりすることもあります。低血糖の症状にも気づきにくくなり、対応が遅れてしまうこともあります。

 現代の医療では、認知症そのものを完全に防ぐことは難しいのが現状です。だからこそ、「もし認知症になったらどうしよう」とただ不安を抱えるのではなく、「なったときにどうするかを今のうちに考えておく」ことが大切になると思います。

認知症になったときに備えておくこと

 まず重要なのは、自分の治療内容を周囲の人に知ってもらうことです。特に糖尿病といわれてから長く、自分で上手に自己管理ができている方こそ、いざというときのため、ご家族にも治療内容を把握しておいてもらったほうがよいでしょう。

 そしてもう一つは、普段から主治医と相談をして不安を減らしておくことです。認知症が進行してきた場合には、HbA1cの目標を少し緩めたり、内服・注射の回数を減らしたり、よりシンプルな治療へ変更することがあります。インスリン治療を行っている方でも、場合によってはインスリンを使わない治療に切り替えることもあります。

家族がインスリンを打つことになる日が来る

 一方で、1型糖尿病や膵性糖尿病、インスリン分泌が極端に少ない2型糖尿病など、インスリン治療を継続する必要がある方もいます。インスリンは自分で打つものというイメージが強いかもしれませんが、年齢とともに家族が注射をサポートする場面も少なくありません。

 これは認知症に限った話ではなく、視力低下で目盛りが見えにくくなったり、手の震えや筋力低下で細かな操作が難しくなる場合にも起こります。そのようなとき、全面的に医療者に頼らなくとも、家族のサポートによって治療を安全に継続できることがあります。

 ただし、注射のサポートを突然お願いされた家族にとっては大きな負担にもなりえます。そのため、インスリン注射が今後も必要になる見込みのある方は、元気なうちから自分の治療内容や手技を共有しておく必要があるでしょう。

糖尿病と終活について考えてみよう

病院に通えなくなったとき

 糖尿病の治療は定期通院が前提ですが、高齢になると通院そのものが難しくなることがあります。足腰の問題や交通手段の確保、家族のサポート状況など、理由はさまざまです。地方では交通手段が限られている場合もあります。

 そのような場合には、いくつかの選択肢があります。病状が安定していれば通院間隔を延ばすこともできますし、かかりつけ医に、近隣の医療機関への転院の相談をすることも一つの方法です。

 また、訪問診療という形で自宅での治療を続けることも可能になってきています。インスリン治療を行っている場合でも、訪問診療や訪問看護と組み合わせることで対応できるケースが増えています。ただし、外来通院よりもある程度医療費が増えてしまう点がネックといえるかもしれません。

施設でのインスリン継続は結構大変

 高齢になると、介護施設に入所する可能性もあります。そうなると気になるのが「施設でも糖尿病の治療は続けられるのか?」という点です。

 サービス付き高齢者向け住宅(いわゆるサ高住)などでは、内服の見守りは可能でも、看護師が常駐していない場合は注射対応が難しいことがあります。そのため、週1回製剤などに変更して注射回数を減らしたり、訪問診療や訪問看護を組み合わせたりして対応するケースが多くなります。

 看護師が24時間常駐する施設であればインスリン治療を続けられることありますが、そうした施設はごく少数に限られ、多くの施設では対応が難しいのが現状です。このあたりは自治体により地域差もありますので、いざというときに相談できる信頼できるケアマネージャーを見つけておくとよいと思います。

よりよい糖尿病ライフの最期を

 繰り返しになりますが、糖尿病の治療は「糖尿病をもたない人と同じような人生を送ること」が目的です。「理想的な治療」を追い求めることも大切ですが、ときには治療のシンプルさと安全性を優先することが、ご本人にとってよりよい糖尿病ライフを送ることにつながる場合も多くありますので、一度考えてみてはいかがでしょうか。

プロフィール

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田中 慧
たなか さとし
東京女子医科大学糖尿病代謝内科学分野 嘱託医師
糖尿病専門医/医学博士

10歳で糖尿病を発症。2型糖尿病と診断されていたが、28歳時に遺伝学的検査を受験し、遺伝性糖尿病のMODY3と診断された。ペン型インスリン、CGM使用中。インスリンポンプを使用していた時期もあり。患者としての25年以上の経験と、医師としての専門性を生かし、医療者・患者・家族をつなぐ活動を展開中。X(旧Twitter)では「おだQ」というハンドルネームで約15,000人のフォロワーに向けて糖尿病ライフのヒントを発信している

※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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