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2023年10月31日

うつ病は糖尿病の危険因子 うつ病を治療すると血糖管理も改善 両方を良くする「マインドフルネス」とは?

 2型糖尿病とうつ病は関連が深く、糖尿病の人はうつ病を発症するリスクが高く、うつ病の人は糖尿病のリスクが高いことが示されている。

 うつ病が2型糖尿病の発症リスクを高めることが、72万人超を対象とした大規模な研究で確かめられた。

 うつ病を効果的に治療し、改善する方法の開発も進められている。

 運動や、ヨガ・ストレッチ、瞑想などを取り入れた「マインドフルネス」が、ストレスのレベルを下げ、うつ病の改善や幸福度の向上につながることが示された。

糖尿病とともに生きる人の4割に「心の健康」の悩みが

 2型糖尿病とうつ病は関連が深く、糖尿病の人はうつ病を発症するリスクが高く、うつ病の人は糖尿病のリスクが高いことが示されている。

 「糖尿病とともに生きる人の多くは、食事や運動、薬の服用などを、長期間にわたり自分で管理しなければならず、大きな負担を抱えながら生活しています」と、英国糖尿病学会(Diabetes UK)のディレクターであるエリザベス ロバートソン氏は言う。

 「こうした毎日の重い負担により疲労感が高まり、うつ病のリスクを高めている可能性があります」としている。

 同学会の調査では、糖尿病とともに生きる人々の40%が、糖尿病と診断されて以来、メンタルヘルスについての悩みをもつことが示されている。

 糖尿病がうつ病を直接に引き起こすわけではないにしても、糖尿病の管理に取り組む困難さが、うつ病の発症と関連している可能性があるとしている。

糖尿病とうつ病は関連が深い

 うつ病が2型糖尿病の発症リスクを高めることが、英国のサリー大学などによる大規模な研究で明らかになった。

 研究グループは、英国とフィンランドの72万人超を対象に、DNAの塩基配列の違いを網羅的に調べるゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施。メンデルランダム化と呼ばれる統計手法を用いて、遺伝情報と健康状態の関連を分析した。

 その結果、うつ病が2型糖尿病の発症リスクを1.26倍に高め、さらに3分の1以上の人で、うつ病と糖尿病に肥満が関わっていることが分かった。

 「2型糖尿病の人でうつ病は多くみられます。うつ病が2型糖尿病の一因であり、うつ病と糖尿病の両方を治療することで、両疾患を相乗的に改善できる可能性が示されました」と、同大学統計マルチオミクス部のインガ プロコペンコ教授は言う。

関連情報

糖尿病とうつ病の治療を同時に行うと相乗的に良くなる

 ペンシルベニア大学医学部が発表した別の研究では、2型糖尿病とうつ病の両方の治療を同時に受けた人は、血糖管理が大幅に改善し、うつ病も良くなることが示されている。

 研究グループは、180人の患者を対象に、糖尿病とうつ病の治療を同時に受ける群と、従来の糖尿病の治療を受ける群に分けて比較した。

 その結果、糖尿病とうつ病の治療を同時に受けた人は、12週間の治療により、1~2ヵ月の血糖値の平均を反映するHbA1cの値が目標としている7%未満に達する割合が60.9%に上昇し、うつ病の状態も58.7%で改善した。それぞれ従来の治療を受けた人よりも大幅に高かった。

 糖尿病とうつ病の治療を同時に受けた人は、医師の指示通りに薬を服用するなど、治療に積極的に参加するアドヒアランスも改善していた。

 「糖尿病とうつ病の両方を抱えている患者さんは多くみられます。両方の疾患の治療を統合して行うことで、両方の臨床転帰が大幅に改善する可能性があります」と、同大学家庭医学・地域保健学のヒラリー ボグナー氏は言う。

うつ病や不安症に「マインドフルネス」で対策

 うつ病を効果的に治療し、改善する方法の開発も進められている。

 ウォーキングなどの運動や、ヨガ・ストレッチ、瞑想などを取り入れた「マインドフルネス」の教室が、各地で開催されている。

 マインドフルネスは、日本の禅の考え方や瞑想を参考にして開発されたメンタルトレーニングで、日本語に訳すと「気付くこと」「意識すること」という意味になる。

 マインドフルネスを簡潔にあらわすと「今、ここで起きていることを、あるがままに感じて、受け止めること」。

 「過去を思い出して不安になったり、未来のことを心配するのではなく、今この瞬間に集中することで、変化を受け入れやすくなり、必要な調整ができるようになります。気分も明るくなります」と、英国糖尿病学会のマインドフルネス教室で指導しているドナ ブース氏は言う。

 過度のストレスは、血糖値の変動にも影響をもたらすが、マインドフルネスや、運動やヨガを行うことで、否定的な感情にとらわれなくなり、ストレスのレベルを下げられるとしている。

「マインドフルネス」に取り組み
うつ病や不安症の人の「パーソナルリカバリー」が改善

 日本でもマインドフルネスについての研究が行われている。関西医科大学が発表した新しい研究では、うつ病や不安症のある人が、「マインドフルネス」を取り入れた作業療法に取り組むと、改善することが示された。

 研究グループは、うつ病や不安症のある人のために、マインドフルネスを組み込んだ8週間の作業療法プログラムを開発。

 その結果、プログラムに参加した人は、参加しなかった人に比べ、リカバリープロセスの尺度が有意に改善し、その効果は持続することが分かった。

 「パーソナルリカバリー」とは、病気や障害をもっている人が、それを受容し、新たな人生の意味や目的を見出し、生活をより充実したものにしていく過程と考えられている。

 さらに、脳波の解析を行ったところ、プログラムに参加した人は、脳の前頭前野にある、判断・意欲・自制心などの高次の能力に関わる部位が活性化することも分かった。

 これらは、うつ病の症状の改善や幸福度の向上につながる可能性がある

 研究は、関西医科大学精神神経科学講座の加藤正樹准教授、総合医療センター精神神経科作業療法士の山本敦子らの研究グループによるもの。

マインドフルネス作業療法に取り組んだ群ではパーソナルリカバリーのスコアが改善した

出典:関西医科大学、2023年

関西医科大学 精神神経科学講座
Effectiveness and Changes in Brain Functions by an Occupational Therapy Program Incorporating Mindfulness in Outpatients with Anxiety and Depression: A Randomized Controlled Trial (Neuropsychobiology 2023年8月10日)

Depression Is A Risk Factor For Type 2 Diabetes, Our Research Reveals (英国糖尿病学会 2023年9月7日)
New study reveals depression is a risk factor for type 2 diabetes (サリー大学 2023年9月7日)
Bidirectional Mendelian Randomization and Multiphenotype GWAS Show Causality and Shared Pathophysiology Between Depression and Type 2 Diabetes (Diabetes Care 2023年7月26日)
Depression and Diabetes (英国糖尿病学会)
New Mindfulness And Yoga Sessions For People With Diabetes (英国糖尿病学会 2020年4月20日)
People with diabetes, depression improve with TLC (ペンシルベニア大学医学部 2020年8月18日)
Integrated Management of Type 2 Diabetes Mellitus and Depression Treatment to Improve Medication Adherence: A Randomized Controlled Trial (Annals of Family Medicine 2012年1月)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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