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2023年07月06日

【新型コロナ】子供や若者の糖尿病が増加 コロナ禍での生活や環境の変化が影響?

 新型コロナのパンデミックにより、糖尿病と診断される子供や若者の数が、世界的に増えていることが分かった。

 コロナ禍で増えているのは、2型糖尿病だけではない。子供や若者の1型糖尿病の発症率も増加しているという調査結果も発表された。

 「子供や若者の糖尿病を適切に診断し、治療を開始するための対策をするとともに、糖尿病を予防・改善するための教育プログラムを提供する必要があります」と、専門家は指摘している。

子供や若者の2型糖尿病はコロナ禍で3倍に増加

 新型コロナのパンデミックがはじまってから1年目と2年目に、糖尿病と診断された子供や若者の数が、1型と2型の両方で増えていたことが分かった。詳細は、6月にシカゴで開催された米国内分泌学会(ENDO)の年次総会で発表された。

 新型コロナパンデミックの最初の年に、学校閉鎖や外出自粛などの要因により、子供たちの身体活動や運動が制限されたり、自宅にいる時間が増え、間食の頻度が増え、さらには不健康な食事が増えた結果、体重が増加し、2型糖尿病の症例が増加した可能性がある。

 「医療や保健活動に携わっている専門職は、子供や若者の糖尿病の発生率が増加していることを知り、診断の遅れを避け、適切な治療を開始するための対策をするとともに、糖尿病を予防・改善するための教育プログラムを提供する必要があります」と、オハイオ州のネーションワイド小児病院の内分泌内科医のベル サンバタロー氏は指摘している。

 研究グループは、子供や若者の2型糖尿病の新規発症について、米国の遡及的な医療記録で調査。新型コロナのパンデミックの前間(2017年1月~2020年2月)と、1年目(2020年3月~2020年12月)、2年目(2021年1月~2021年12月)とで比較した。

 その結果、子供や若者の2型糖尿病の年間発生率は、パンデミック前に比べて、パンデミック中にほぼ3倍に増加し、とくに2年目には、1年目に比べ61%増加していたことが分かった。

 体格指数(BMI)も、パンデミック中にはパンデミック前に比べて増加しており、1年目には29%、2年目には41%、それぞれ増加していた。糖尿病の急性合併症である糖尿病ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖症候群も増えていた。

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コロナ禍で子供や若者の1型糖尿病も増加

 コロナ禍で増えているのは、2型糖尿病だけではない。子供や若者の1型糖尿病の発症率も増加しているという調査結果も発表された。

 1型糖尿病は、生きていくのに欠かせないインスリンを産生するβ細胞が壊されてしまい、インスリンがほとんど分泌されなくなり発症する疾患。

 原因ははっきりと分かっておらず、すべての年齢で発症しうるが、小児期に突然発症することが多い。現在の医療では、生涯にわたり毎日4~5回の注射、またはポンプによるインスリン補充が必要となる。

 1型糖尿病は、糖尿病の大半を占め生活習慣病とも言われる2型糖尿病とは、原因や治療が大きく異なる。日本では、1型糖尿病の年間発症率は10万人あたり2人程度ととても少ない。

 一方、2型糖尿病は、もって生まれた遺伝的要因と、生活スタイルなどの環境的要因があわさり発症する。食べすぎや肥満、運動不足なども影響し、一般的に年齢を重ねると有病率が上昇していく。1型糖尿病の発症は、これらとは無関係だ。

子供や若者の1型糖尿病が増加している原因は?

 新型コロナのパンデミックにより、1型糖尿病の発症率が増加したという調査結果を、ドイツのヘルムホルツ研究センターが発表した。詳細は、米国医師会が刊行している「JAMA」に掲載された。

 研究グループは、ドイツの2010~2018年に出生した小児118万1,878人を対象としたデータベースを解析。

 1,242人が1型糖尿病と診断され、10万人年あたりの1型糖尿病の発症率は、2018年1月~2019年12月は19.5だったのが、2020年1月~2021年12月には29.9に増加していたことが分かった。

 1型糖尿病は、主に自己免疫により、インスリンを産生するβ細胞が破壊され、血糖を下げるインスリンの分泌が失われることにより発症すると考えられている。

 研究グループは、新型コロナのパンデミックにより自己免疫が促された可能性を指摘している。ただし、1型糖尿病と診断された子供の70%では、ウイルス感染の確認がされていないという。

コロナ禍による生活スタイルや環境の変化が影響?

 フィンランドのヘルシンキ大学の調査でも、新型コロナのパンデミックにより、世界的に1型糖尿病の発症率が増加したことが示されている。詳細は、「Lancet Diabetes & Endocrinology」に掲載された。

 新型コロナのパンデミックの最初の18ヵ月で、小児の1型糖尿病の発生率は16%増加したという。研究グループは、同大学病院が運営しているフィンランド小児糖尿病登録データを解析した。

 フィンランドでは、2020年3月~2021年8月に、785人の小児と若者が1型糖尿病と診断されたが、新型コロナのパンデミック中は、15歳未満の小児の1型糖尿病の発生率は、10万人年あたり61.0と大幅に高かった。

 ただし、1型糖尿病を発症した小児や若者で、過去に新型コロナに感染したことを示す抗体をもっていた人は少なかったという。

 「1型糖尿病の発症率が上昇しているメカニズムは十分に解明されていないので、ウイルス感染の直接的な影響によるものなのか、それともコロナ禍による生活スタイルや環境の変化が影響してるのか、突き止める必要があります」と、ヘルシンキ大学病院小児・若年者医療センターのミカエル クニップ教授は言う。

子供や若者の1型糖尿病を早期に診断し治療につなげることが重要

 研究グループは、新型コロナの流行期に1型糖尿病の診断が増えたのは、新型コロナウイルスの影響ではなく、環境要因によるものという見解を示している。

 コロナ禍での外出自粛や社会全体のロックダウンにともなう他人との接触機会の減少により、子供の急性感染症が大幅に減少し、それが1型糖尿病の発症リスクを高めた可能性があるという。

 「幼児期のウイルスへの曝露と感染は、自己免疫疾患に対する防御力を高めている可能性があり、生物多様性仮説として知られています」と、クニップ教授は説明している。

 「新型コロナのパンデミック中に診断された子供では、糖尿病ケトアシドーシスの発症が多くみられました。子供や若者の1型糖尿病を早期に正確に診断し、適切な治療の開始へとつなげる対策も必要です」としている。

1型糖尿病を適切に診断し治療するための対策

 糖尿病ケトアシドーシスは、1型糖尿病で主にみられ、糖尿病発症時やインスリン注射を中断したとき、あるいは感染症や外傷などによって極端にインスリンの必要性が増加したときなどに起こる。

 インスリンが不足した状態では、脂肪の分解が高まり、最後にケトン体という物質になる。このケトン体が著しく高くなり、血液が酸性に傾き、ケトアシド-シスと呼ばれる状態になる。

 ケトアシドーシスでは、口渇・多飲・多尿・体重減少・全身倦怠感などの症状が急激に起こり、さらに悪化すると、呼吸困難・速くて深い呼吸・悪心・嘔吐・腹痛・意識障害など、危険な状態におちいる。

 「ケトアシドーシスは、早期に発見すれば予後は良好であり、なるべく速やかに診断し治療を開始することが重要になります。フィンランドでは、小児や若者の1型糖尿病を早期に適切に診断するための対策をしています」と、クニップ教授は述べている。

Type 2 diabetes increased among youth during and after COVID-19 pandemic (米国内分泌学会 2023年6月15日)
Incidence, Severity, and Presentation of Type 2 Diabetes in Youth During the First and Second Year of the COVID-19 Pandemic (Diabetes Care 2023年1月13日)
Type 1 Diabetes Incidence and Risk in Children With a Diagnosis of COVID-19 (JAMA 2023年5月22日)
SARS-CoV-2 unlikely to cause type 1 diabetes (ヘルシンキ大学 2023年3月22日)
SARS-CoV-2 and type 1 diabetes in children in Finland: an observational study (Lancet Diabetes & Endocrinology 2023年4月)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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