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2020年09月24日

救急・集中治療領域におけるバイオマーカーの有用性と今後の展望

第47回 日本集中治療医学会 学術集会 教育セミナー(ランチョン)34 Web公開より

熱中症におけるL-FABPの有用性

患者救命のポイントは「いかに早く診断し、暑熱環境から救うか」

 近年の地球温暖化に伴って、熱中症が大きな問題となっている。厚生労働省のプレスリリース6)によれば、2000年代前半200〜300人だった熱中症による死亡は、2015年には900人を超え、2018年には1,518人(参考値)まで増えている。そしてその7〜8割が、高齢者の非労作性の熱中症である。わが国の「熱中症診療ガイドライン2015」7)において、高体温の時間が長くなると予後が不良になることが記載されている。熱中症による後遺症を起こした群と起こさなかった群を比較すると、深部体温が38℃台になるまでの冷却時間は後遺症群の方が長く、正常な体温まで下げるのに時間がかかると後遺症を残す可能性が高くなることが示された。熱中症はすぐ冷やすこと、暑熱環境から救うことが重要で、そのためには早期の気づきが必要である。
 熱中症の病態生理には、①暑熱環境にあって急性に身体のサイトカインあるいは活性酸素が出ることにより、ショックを惹起する、②間接的に内臓血流を低下させバクテリアルトランスロケーションを起こすことにより、敗血症様の病態やショックを惹起する、という2つの大きな経路がある。患者を救命するためには、このような病態生理に着目していかに早く診断し、いかに早く暑熱環境から救うかが重要となる。
 なお熱中症の重症度分類において、Ⅱ度は医療機関の受診が必要なレベル、Ⅲ度は入院加療が必要なレベルと規定されている。Ⅲ度熱中症に対しては、血管内に冷却カテーテル(IVTM)を留置して血液を迅速に冷却することにより、患者転帰が改善するといわれている。われわれの研究でも、血管内冷却を行った方が24時間後の生理学的スコア(SOFA)は有意に低下していた8)。IVTMによる血管内冷却は、熱中症による急性重症脳障害に伴う発熱患者を対象に、2014年から保険収載されている。このⅢ度熱中症は中枢神経障害・肝機能障害・腎機能障害・血液凝固異常のいずれかに該当するものとされるが、具体的にどれぐらいのレベルのデータであればⅢ度といえるのか、明確にはわかっていない。

採尿だけで測定でき、早期診断・転帰予測がフィールドから可能に

 熱中症に対しては、いかに迅速に診断し治療を施すかが患者の救命に関わってくる。早期診断と的確な重症度評価が必要で、その点、安全かつ頻回に測定できアクセシビリティも高い尿中L-FABPは、熱中症の診断にも有用ではないか、また虚血再灌流や脱水の評価にも有用ではないかとわれわれは考えている。
 われわれは最近、国内10施設による多施設前向き観察研究J-HEAT Studyを開始した。目的は「熱中症患者における尿中・血中バイオマーカー測定による病態把握」で、尿中L-FABP、HMGB1、Histoneを測定し、これらが熱中症患者でどのように変化したか、現在解析を行っているところである。まずはJ-HEAT Studyの研究参加施設の1つである新松戸中央総合病院における予備データであるが、5年間にわたる熱中症患者1,188例の解析では、重症度に比例する形で有意に尿中L-FABP値が上昇していた(表1)。

表1 熱中症重症度と尿中L-FABP値
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表1 熱中症重症度と尿中L-FABP値
〔新松戸中央総合病院 中村司先生・佐藤英一先生よりご供与〕

 また、ある転帰良好例(29歳男性)では、治療に伴って尿中L-FABP値が急激に改善していた。これに対し、死亡3例(78歳男性、88歳女性、99歳男性)では入院後も3〜4倍という高さで尿中L-FABP値が上昇し、治療にあまり反応することなく亡くなっていた。尿中L-FABP値がいかに治療の有効性に反応して変動するか、これらのデータからもうかがえる。
 続いてわれわれが同じく予備的に実施した試験の中間解析結果であるが、試験対象となった12例(平均年齢73.5歳、体温中央値38.9℃、労作性8例・非労作性4例、modified Ranking Scale [mRS] 0-2:8例・3-4:4例)において、従来の血液指標(GOT・GPT、乳酸値、BUN、クレアチニン、PT-INR)と尿中L-FABPとの比較で、いずれも正の相関が認められた(図3)。また、1カ月後のmRSと尿中L-FABP、およびその他データにおけるROC曲線下の面積(AUC)を比較すると、尿中L-FABPが最もAUCが高く、血液指標と遜色ない転帰予測のプロファイルが得られた(表2)。このデータが示すことは血液指標と異なり非侵襲的に採取可能な尿のバイオマーカーである尿中L-FABPが、熱中症の病態を総合的に判断する可能性があるということである。また、L-FABPは病院内検査室などではもちろんのこと、フィールドで採尿だけで測定できるという点で、より迅速な評価・転帰予測がフィールドから可能になることが想定される。

図3 L-FABPと各種生化学検査との関係(Day 0)
図3 L-FABPと各種生化学検査との関係(Day 0)
〔横堀將司先生よりご供与〕
表2 一か月後mRS(Good:0-2)と尿中L-FABP値
尿中L-FABPは熱中症の病態を総合的に反映するバイオマーカーの可能性
表2 L-FABPと各種生化学検査との関係(Day 0)
〔横堀將司先生よりご供与〕

おわりに

 理想的なバイオマーカーとして重要なのは、感度、特異度、低侵襲性、治療への反応性、アクセシビリティの5つである。近年話題になっている尿中L-FABPは腎不全、特に虚血再灌流障害の病態を把握するためのバイオマーカーとして有用とされるが、熱中症についてもその病態生理に基づいた早期の診断や転帰予測にメリットがあるのではないかと考えられる。とりわけ優れているのは尿で測定可能な点で、病院だけでなく病院搬送前からの熱中症患者の重症度判定、スクリーニングにも使用できるのではないかと思われる。引き続きデータを集積し、さらに研究を進めていく所存である。

文献

1) Yokobori S, et al. CNS Neurosci Ther 19:556-565, 2013
2) Yokobori S, et al. Sci Rep 8:15964, 2018
3) Uchino S, et al. JAMA 294:813-818, 2005
4) Yamamoto T, et al. J Am Soc Nephrol 18:2894-2902, 2007
5) AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016、東京医学社、2016
6) 厚生労働省プレスリリース、2018
7) 日本救急医学会:熱中症診療ガイドライン2015
8) Yokobori S, et al. Critical Care Med 46:e670-e676, 2018

初 出

第47回 日本集中治療医学会 学術集会 教育セミナー(ランチョン)34 Web公開 2020年4月28日~2021年1月31日

演題:救急・集中治療領域におけるバイオマーカーの有用性と今後の展望

演者:横堀 將司 先生(日本医科大学大学院 医学研究科 救急医学分野 教授、日本医科大学付属病院 高度救命救急センター 部長)

共催:シミックホールディングス株式会社、積水メディカル株式会社

L-FABP情報サイト

[ DM-NET ]
日本医療・健康情報研究所

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