ニュース

2019年07月25日

循環器領域におけるバイオマーカーとしての尿中L-FABPの有用性と可能性

第83回 日本循環器学会学術集会 ランチョンセミナー48より

 近年、慢性腎臓病(CKD)と心血管疾患が密接に関係していることが明らかになり、循環器領域においてもCKDの早期発見・治療の重要性が指摘されている。2011年に保険収載されたバイオマーカー「尿中L-FABP」は、急性腎障害(AKI)の発症やCKDの進展予測、さらには腎障害の進展と関係して心血管疾患の発症・予後予測のバイオマーカーとしても有用であることが明らかになってきた。本セミナーでは、循環器領域におけるバイオマーカーとしての尿中L-FABPの有用性と可能性について、独立行政法人地域医療機能推進機構東京高輪病院院長の木村健二郎先生に講演いただいた。

演者:木村 健二郎 先生(独立行政法人 地域医療機能推進機構 東京高輪病院 院長)

演者:木村 健二郎 先生(独立行政法人 地域医療機能推進機構 東京高輪病院 院長)

座長:山口 修 先生(愛媛大学大学院医学系研究科 循環器・呼吸器・腎高血圧内科学講座 教授)

座長:山口 修 先生(愛媛大学大学院医学系研究科 循環器・呼吸器・腎高血圧内科学講座 教授)

血清クレアチニンだけでは腎機能を把握しきれない

 急性腎不全(ARF)は従来、血清クレアチニン(Cr)の上昇により定義されてきた。しかし、血清Crは腎機能が定常状態の時には糸球体濾過量(GFR)を反映するが、腎機能が急激に低下した時にはGFRを反映しない。すなわち、GFRが急激に低下すると血清Crはすぐには上昇せず、数日かけてゆっくりピークに達し、GFRが戻り始めてもまだ上昇していたりする。また、高齢者など筋肉量の少ない患者では、GFRが低下しても血清Crはあまり上昇しない。これら臨床的欠点のためにARFの発見や治療が遅れ、予後の改善がなされないことが問題だった。

 こうした状況を背景に登場したのが、急性腎障害(AKI)という新しい概念である。AKIは国際的な腎臓専門医団体であるKDIGOが、急激に腎機能が低下する病態を定義づけるべく作成したもので、①48時間以内の血清Cr 0.3mg/dL以上の上昇、②7日以内の血清Crの1.5倍以上の上昇、③尿量0.5mL/kg/hr未満が6時間持続、のいずれか1つがあればAKIと診断する。

 従来の考え方からすれば、血清Crが0.3mg/dL以上上昇しただけでAKIと診断するのは違和感があるかもしれない。しかし重要なのは、血清Crが上がってきたところで診断がつく点である。とはいえ、まだ血清Crが上昇しないうちに診断がつく、あるいは上昇する可能性のある人を事前に発見できれば、さらに望ましいことはいうまでもない。また、筋肉量が少ない患者における血清Crの上がり方は緩やかでゆらぎに近く、血清Crだけでは腎機能を把握しきれない。そのため近年は、バイオマーカーに対する期待が高まっている。

次は...
AKIの早期診断に尿中バイオマーカーが有用

[ DM-NET ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲