肥満を伴う2型糖尿病患者では、糖尿病を発症してから6年以内であれば、食事療法と運動療法を徹底させれば、糖尿病を完治できる可能性があることが、英国の「DiRECT」研究で明らかになった。
体重コントロールに着目した新しいアプローチ
生活スタイルを改善し、食事療法と運動療法をしっかり行い、体重をコントロールすることで、2型糖尿病の人の半分近くは、事実上「糖尿病を完治した」状態を維持できることが、英国で実施されている「DiRECT」(糖尿病を寛解するための臨床試験)で明らかになった。
やり遂げると薬物療法を完全にやめられる、もしくは量を減らすこともできるという。詳細は医学誌「Cell Metabolism」に掲載された。
「DiRECT」研究は、英国のニューキャッスル大学のロイ テイラー教授とグラスゴー大学のマイク リーン教授に率いられ実施されている。2型糖尿病患者298人が参加し、体重コントロールに着目した新しいアプローチにより、2型糖尿病をどれだけ改善できるかを調べている。
介入プログラムに参加した患者は、徹底した低カロリー食を続け、ウォーキングなどの運動を毎日行い、専門のスタッフによるストレスへの対処や睡眠などについてのアドバイスを受けている。
2型糖尿病の多くで、膵臓は血糖値を調整するホルモンであるインスリンを十分に産生できなくなる。肥満のある人の多くが、体重を減らし肥満を解消することで、糖尿病を発症する前の状態に戻せることが判明した。
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β細胞を「再起動」 糖尿病から離脱
研究で得られた知見は、「糖尿病を一度発症すると、生涯にわたり"治った"と同じ状態を維持できても、完治することはない」という従来の定説を覆すものだ。
「2型糖尿病の早期治療では、薬物療法を開始するとともに、食事や運動などの生活習慣の改善が指導されていますが、現実には医療現場は多忙であり、生活習慣の指導は控えめに行われている傾向があります」と、テイラー教授は言う。
高カロリーの食事や運動不足が原因で、肝臓に脂肪が過剰に蓄積されると、インスリンへの体の反応が鈍くなり、膵臓でインスリンが過剰に生成されるようになる。
そうなると、全身に脂肪がたまりやすくなり、さらにインスリンが分泌されるという悪循環に陥る。やがて、インスリンを産生するβ細胞は疲弊し機能が低下され、結果として血糖値が高くなる。
「肥満のある人では、生活スタイルの改善をしっかりと行い、体重を適正にコントロールすることで、β細胞を"再起動"できます。インスリン分泌が残存している2型糖尿病患者は、適度な体重減少によりβ細胞を"再生"でき、血糖コントロールが改善した結果、糖尿病から離脱できることが示されました」と、テイラー教授は言う。
12ヵ月の強化療法でβ細胞が正常化
研究グループは、発症後6年以内の64人の2型糖尿病患者を対象に、食事療法や運動療法を中心とした集中的な体重コントロールに取り組む介入群と、従来通りの治療を行う対照群にランダムに割り付けた。
その結果、介入群では血糖コントロールが改善し血糖値が正常化した結果、46%(29人)が2型糖尿病から離脱できたことが明らかになった。
12ヵ月の介入により、2型糖尿病から離脱できた人(改善した群、29人)と、そうでない人(改善しなかった群、16人)に分かれた。
研究グループは、2つの群の最大の違いはインスリンを産生するβ細胞にあると考えている。減量により血糖コントロールが安定した群では、β細胞は再び正常に機能しはじめ、体が必要とする適切な量のインスリンを分泌するようになった。
食後のインスリン分泌に差が
2型糖尿病が生活スタイルを管理し改善することが重要な病気であることについて、糖尿病医療の専門家はこれまで見解を一致させてきたが、糖尿病を完全に治癒するのは不可能だと考えてきた。それが「DiRECT」研究で覆った。
ただし、糖尿病を寛解できるのは患者の半分に限られる。およそ半数は内臓脂肪がもたらすストレスに対し、β細胞が持ち堪えることができなかった。
糖尿病の罹患期間の平均は改善した群では2.7年、改善しなかった群では3.8年だった。両群とも同様に体重を減らし、改善した群では16.2kg、改善しなかった群では13.4kg、それぞれ減少し、肝臓や膵臓にたまった脂肪も同様に減少し、血中の中性脂肪値が低下した。
両群を比べたところ、食後のインスリンの初期分泌に差があることが分かった。
膵β細胞のインスリン分泌は、血中グルコース濃度の上昇に応答して2段階で起こる。第1段階は約10分間持続する短時間のスパイクで構成されるが、2型糖尿病では低下していることが多い。このインスリン分泌の第1段階は、改善した群では増加したが、改善しなかった群では変化はなかった。
内臓に脂肪が蓄積された状態は危険
「体重が標準体重を超える肥満の人にとって、減量がいかに重要であるかが示されました。特に内臓に脂肪が蓄積された状態は危険です」と、テイラー教授は述べている。
「糖尿病のある人にとって、これはとても勇気づけられる良い知らせです。生活スタイルの改善は、誰もが手を延ばせる実行可能なツールなのです」。
「DiRECT」研究が開始されてから1年しか経っておらず、2年目以降の成果に期待しているという。研究グループは、2型糖尿病から離脱できなかった人では、何が障害になっているかを、遺伝子レベルで解明することを目指している。
研究グループは、糖尿病発症の根底にある膵臓のβ細胞の機能の変化を評価しアルゴリズムを適用し、効果的な治療を行えるようにすることを目指している。インスリンを分泌するβ細胞がどれだけ機能しているかを調べ階層化し、新たに開発した治療法を適用することを計画している。
'Rebooting' insulin-producing cells key to Type 2 diabetes remission(ニューカッスル大学 2018年8月2日)
Why weight loss produces remission of type 2 diabetes in some patients(Cell Press 2018年8月2日)
Remission of Human Type 2 Diabetes Requires Decrease in Liver and Pancreas Fat Content but Is Dependent upon Capacity for β Cell Recovery(Cell Metabolism 2018年8月2日)
'Rebooting' insulin-producing cells found to be key to Type 2 diabetes remission(英国糖尿病学会 2018年8月2日)
[ Terahata ]