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2023年09月12日

認知症を予防するための[食事・運動・睡眠]は糖尿病の治療と共通 9月は「世界アルツハイマー月間」

9月21日は「世界アルツハイマーデー」

 糖尿病とともに生きる人は、認知症を発症するリスクが高いことが知られている。認知症リスクは、糖尿病予備群の段階で上昇することも報告されている。

 一方で、食事や運動などの生活スタイルを改善することで、認知症のリスクを下げられることも分かっている。認知症の発症を防いだり、遅らせるための効果的な方法をさぐる研究が世界中で行われている。

 食事・運動・睡眠など、認知症リスクを下げるための生活スタイルは、どんなやり方をすると良いのかが分かってきた。

4人に1人が認知症のリスクがある

 毎年9月は「世界アルツハイマー月間」、9月21日は「世界アルツハイマーデー」だ。これらは、アルツハイマー病などの認知症に対する理解や認識を高めるために、国際アルツハイマー病協会(ADI)と世界保健機関(WHO)が定めたもの。

 「認知症」は、脳の神経細胞の働きが徐々に低下し、認知機能(記憶、判断力など)が低下し、社会生活に支障をきたした状態。

 日本でも高齢化の進展とともに、認知症の人は増加している。65歳以上の高齢者では7人に1人が認知症で、認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)の人も加えると、4人に1人が認知症のリスクがあるとみられている。

糖尿病の治療は認知症の予防にもつながる

 認知症の多くを占めるアルツハイマー型認知症などは、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの慢性疾患とも関連が深い。

 糖尿病とともに生きる人は、血糖値が高い状態が続くと、認知症リスクが上昇することが知られている。認知症リスクは、糖尿病予備群の段階で上昇することも報告されている。

 日本人を対象に実施されている久山町研究では、糖尿病の人はそうでない人と比べて、アルツハイマー病に2倍なりやすく、脳血管性認知症は1.6倍なりやすいことが示されている。

 逆に、低血糖を起こさないようにしながら、血糖管理を良好に維持していれば、認知症のリスクは低下する。糖尿病の治療そのものが、認知症の発症に対して保護的に働くという報告もある。

食事や運動を改善すると認知症リスクが低下する

 食事や運動などの生活スタイルを改善することで、認知症のリスクを下げられることが分かっている。認知症の発症を防いだり、遅らせるための効果的な方法をさぐる研究が世界中で行われている。

 野菜をよく食べていて、野菜に含まれる色素成分であるカロテノイド[ルテイン・ゼアキサンチン・リコピン]やビタミンEのレベルが高い人は、アルツハイマー病などの認知症の発症リスクが低く、認知機能も高く維持できていることが明らかになっている。

 研究は、米国で実施されている「ラッシュ大学記憶・老化プロジェクト」に参加した1,000人以上の男女を、10年以上追跡したもの。

 その結果、野菜に含まれるカロテノイドや、ルテイン・ゼアキサンチンの摂取量の多い人は、アルツハイマー病のリスクが50%低いことが明らかになった。

 さらに、野菜や魚、ナッツ類などの健康的な食品を食べ、肉類やジャンクフードなどをあまり食べていない人は、アルツハイマー病のリスクが低下し、認知能力の低下も少ないことも分かった。

 ルテイン・ゼアキサンチン・リコピンは、緑黄色野菜に多く含まれるカロテノイドの一種で、ホウレンソウやブロッコリー、ケール、カブの葉などの野菜に含まれる。

 「カロテノイドには、体内で増えた活性酸素を除去する抗酸化作用があり、脂溶性ビタミンであるビタミンEにも抗酸化作用があり、老化を防止する働きがあるとみられています」と、バージニア工科大学基礎科学教育学科のキャスリーン ドリー教授は言う。

 「カロテノイドなどを豊富に含む健康的な食事は、あらゆる年齢層で、脳の健康状態に最高に保つのに役立つと考えられます」としている。

ウォーキングなどの運動で認知症を予防

 ウォーキングなどの適度で活発な運動を行うことは、認知症予防に役立つだけでなく、軽度認知障害やアルツハイマー病を発症した人でも、認知機能の低下を遅らせることを期待できるという別の研究を、北米放射線学会(RSNA)が発表している。

 研究では、週に8キロメートルを歩いている人は、記憶と学習の中枢である脳の主要な領域が10年以上にわたり保護されていることが示された。さらに、ウォーキングを習慣として行っている人は、記憶力の低下が5年間にわたりゆるやかであることも分かった。

 「研究では、運動や身体活動の量が多い人ほど、脳の容積が大きくなる傾向が示されました」と、ピッツバーグ大学放射線科のサイラス ラジ氏は言う。

 「すでに認知障害が起こっている人も、脳の容積を維持し、認知機能の低下を遅らせるために、週に8キロメートル以上を歩くことが勧められます。健康な人は、週に10キロメートルを歩くことを目標にしてください」としている。

 研究グループは今回、現在進行中の20年間の研究に参加した、健康な成人 299人(平均年齢78歳)、認知障害のある人 127人(平均年齢81歳)、軽度認知障害(MCI)のある人 83人、アルツハイマー型認知症のある人 44人を対象に調査した。

スマホや活動量計を活用して毎日の歩数を増やす

 米ペンシルベニア州立大学は、認知症のリスクを軽減するための運動や身体活動について、米国国立老化研究所(NIA)などの支援を受けて研究している。

 「軽めのウォーキングなどの運動であっても、習慣として行っていれば、認知機能の改善や脳の健康にベネフィットをもたらします」と、同大学神経学部のジョナサン ハクン氏は言う。

 「スマートフォンや歩数計を、ほとんどの人が所持しています。こうしたデバイスをより良く活用する方法を開発すれば、1日の歩数を増やすのはもっと楽になります」としている。

 研究グループは、歩数計の機能が付いたスマートフォンや、活動量計、スマートウォッチなどを利用して、アルツハイマー病や認知症のリスクが高い中年成人を対象に、軽めの運動を行う習慣を維持することを促す介入を計画している。

 「研究では、取り組みやすく、続けやすい運動法を開発するため、アルゴリズムを使用したスマート ウォッチを活用します。1人ひとりに合わせて、達成しやすい目標を提案し、進捗状況も確認しやすいよう工夫してあります」と、ハクン氏は述べている。

睡眠の改善も認知症リスクを減らすために効果的

 食事や運動以外にも、認知症のリスクを減らすために効果的な方法がある。それは、睡眠を改善することだ。

 ぐっすりとよく眠ることが、アルツハイマー病のリスクの高い高齢者の記憶喪失をやわらげるのに効果的という研究を、カリフォルニア大学が発表した。

 「ノンレム徐波睡眠」として知られる深い睡眠は、脳内のβアミロイドというタンパク質に対する回復力を高める可能性があるという。βアミロイドは認知症に深く関係しており、記憶喪失を引き起こすと考えられている。

 「よい睡眠をとることは、すでに認知や記憶の障害があらわれはじめている人でも、その影響を緩和したり軽減したりするのに役立つ、大切な生活要因だと考えられます」と、同大学人間睡眠科学センターのゾフィア ザベチュ氏は言う。

 「睡眠を改善するために、規則的な睡眠スケジュールをつくり、日中に起きているときは心身ともに活動的に動き回り、夜の遅い時間にコーヒーを飲まないようし、スマホなどの明るいスクリーンを見るのを最小限に抑え、寝室は涼しく暗くし、夜寝る前に温かいシャワーを浴びるといった工夫が役立ちます」と、とザベッチ氏は言う。

 研究グループは、「バークレー高齢者コホート研究」の参加した、認知症と診断されていない62人の高齢者を対象に、PET(陽電子放射断層撮影法)スキャンを使用して、脳内のβアミロイドの沈着量を測定し、睡眠との関係を調べた。

 その結果、より高いレベルの深い睡眠をとった人は、質の良い睡眠をとれなかった人に比べ、脳内のβアミロイドの沈着があっても、記憶力テストの成績が良かった。

世界アルツハイマーデー/世界アルツハイマー月間 (厚生労働省)
Eat your vegetables to protect your brain (バージニア工科大学 2023年8月11日)
Low Xanthophylls, Retinol, Lycopene, and Tocopherols in Gray and White Matter of Brains with Alzheimer's Disease (Journal of Alzheimer's Disease 2023年6月)
Walking Slows Progression of Alzheimer's (北米放射線学会 2010年11月29日)
Physical activity, brain plasticity, and Alzheimer's disease (Archives of Medical Research 2012年11月29日)
$3.6M to fund study on long-term physical activity to reduce Alzheimer's risk (ペンシルベニア州立大学 2023年9月5日)
Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission (Lancet 2020年7月30日)
Deep sleep may mitigate Alzheimer's memory loss, Berkeley research shows (カリフォルニア大学 2023年5月3日)
NREM sleep as a novel protective cognitive reserve factor in the face of Alzheimer's disease pathology (BMC Medicine 2023年5月3日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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