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2023年06月07日

糖尿病の人は歯でよく噛んで食べると血糖管理が改善 口の中の健康は糖尿病にも影響

 2型糖尿病の人は、歯や歯ぐきが健康で、咀嚼力を良好に保てていると、血糖値の管理が大幅に良くなることが明らかになった。

 「噛む力(咬合力)」が良いことは、2型糖尿病の人の血糖値を改善し、健康長寿につながる可能性があるとしている。

歯でよく噛んで食べられる糖尿病の人は血糖管理が良好

 「もしもあなたが糖尿病であったり、まわりに糖尿病の方がいたり、糖尿病患者さんの治療や支援をしている医療従事者である場合、口のなかの健康に対しても気を配ることをお勧めします」と、米ニューヨーク州立大学歯学部のメフメット エスカン氏は言う。

 研究グループは、「噛む力(咬合力)」を良好に維持できている2型糖尿病の患者は、咬合力が良好でない患者に比べ、血糖値の管理が大幅に良いことを実証した。

 研究グループは、トルコのイスタンブールの病院の外来診療所を受診した2型糖尿病患者94人から収集したデータを解析する後ろ向き研究を実施。

 患者を2つのグループに分け、最初のグループは咬合力が良好、つまり歯で食物をよく噛んで食べることができる患者が含まれていた。咬合力が良好なグループのHbA1cは低く、平均は7.48%だった。

 HbA1cは、1~2ヵ月の血糖値の平均が反映される、血糖管理の指標となる数値。糖尿病の合併症を予防するための目標は「HbA1c 7.0%未満」とされている。

 一方、歯の一部あるいは全部が欠けていて、食物をうまく噛むことができないグループでは、HbA1cが高く、平均は9.42%だった。

 エスカン氏によると、血糖値がわずか1%上昇するだけで、糖尿病の人の心筋梗塞などの心血管疾患や虚血性心疾患による死亡リスクは40%増加するという。

 さらには、血糖管理を良好に維持できていないと、腎臓病、網膜症、神経障害、足病変などの合併症のリスクも上昇する。

口のなかの健康に取り組むと糖尿病の治療も改善

 噛むことと糖尿病との関連については、以前から知られている。噛む力が弱ってしまうと、やわらかいものしか食べられなくなり、食事内容が偏る。すると、栄養バランスが悪くなり、糖尿病などにも悪い影響が出てくる。

 噛むことは、直接的に血糖値に影響することも分かっている。よく噛んで食べることで、膵臓から分泌され、血糖値を下げる働きをするホルモンであるインスリンや、小腸から分泌され、インスリンの分泌を促進する働きをもつホルモンであるインクレチンが上昇することが報告されている。

 インクレチンのひとつであるGLP-1は、膵臓に働きかけてインスリンの分泌を促したり、血糖値を上げるホルモンであるグルカゴンの分泌を抑制する。摂取した食物の胃からの排出を遅らせる作用や食欲を抑える作用などもあり、血糖値の上昇を抑えるのに役立つ。

 「歯の治療を行い、口のなかの健康に取り組むことは、糖尿病の治療を改善するためにも重要と考えられます」と、エスカン氏は指摘する。

 「口腔の健康に取り組むことは、健康的な食事、運動の習慣化、健康的な体重の維持、禁煙を奨励などと同じように、糖尿病をより良く治療するためのアプローチの一部になります」としている。

 エスカン氏が参加した過去の研究では、歯を失ったことで、咀嚼機能が大きく損なわれた2型糖尿病の患者を対象に、歯科インプラントや歯の修復などにより、咬合機能を改善する治療を行った。

 すると、HbA1cは歯の治療前は9.1%と大幅に高かったのが、治療から4ヵ月後は7.8%にまで低下した。さらに、18ヵ月後は6.2%にまで改善したという。

口のなかの健康を守るための3つのステップ

 歯には、口のなかで食物をかみ砕いたり、すりつぶしたりする役割がある。歯を支えているのが歯肉(歯ぐき)で、この歯肉に炎症が起こるのが歯周病で、歯を失う原因の第1位になっている。

 糖尿病のある人は、血糖管理を良好に保っていないと、細菌に対する体の炎症反応が増えることが知られている。歯周病菌の感染によって引き起こされる炎症も悪化しやすい。

 しかし、米国糖尿病学会(ADA)や米国歯科学会(ADA)は、「良い知らせもあります。歯周病はすぐに起こるものではなく、予防するためにできることはたくさんあります」とアドバイスしている。

 「糖尿病を適切に治療し、歯科検診や歯科健診を定期的に受け、口腔の健康を管理すれば、リスクを減らすことができます」としている。

 口のなかの健康を守り、健康的な笑顔を維持するためにできることとして、次の3つのステップがある。

口のなかの健康を守るための3つのステップ

1日に2回以上歯を磨く
 米国歯科学会は、フッ素が配合された歯磨き剤を使い、1日に2回以上、2分間の歯のブラッシングを行い、デンタルフロスや歯間ブラシも使うことを推奨している。

上手な歯の磨き方
米国歯科学会が公開しているビデオ

歯科健診を年に2回受ける
 歯の状態は年齢とともに変化し、適切な歯の磨き方も変わっていく。かかりつけの歯科医や歯科クリニックをもち、歯科健診を定期的に受ければ、歯周病予防のための治療も受けられる。
 歯科衛生士による専門的な口腔ケアを受けることもできる。具体的には、歯磨き指導や歯石の除去、歯のクリーニングなどが行われる。

歯科医に糖尿病について伝える
 歯科を受診した結果、治療が必要になることもある。その場合、もしも血糖コントロールが良好でないと、治療効果を得にくくなったり、治療をすぐに行えない場合もある。
 また、口腔治療を進めて良いかを、歯科医と糖尿病の主治医のあいだで確認をする必要が出てくる場合もある。歯科を受診するときは、自身が糖尿病をもっていることや、薬による治療を行なっていることなどを伝えることも大切。

The ability to chew properly may improve blood sugar levels in patients with Type 2 diabetes (ニューヨーク州立大学バッファロー校 2023年5月8日)
You, your teeth, and Type 2 diabetes: The ability to chew properly may improve blood sugar levels in patients with Type 2 diabetes, study suggests (ニューヨーク州立大学バッファロー校 2023年5月8日)
Mastication inefficiency due to diminished or lack of occlusal support is associated with increased blood glucose levels in patients with type 2 diabetes (PLOS ONE 2023年4月14日)
A fixed reconstruction of fully edentulous patients with immediate function using an apically tapered implant design: a retrospective clinical study (International Journal of Implant Dentistry 2020年11月23日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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