ニュース

2023年04月17日

睡眠不足は腸内環境にも悪影響 腸から出る善玉物質が腸内環境を整える 「脳腸相関」を解明

 睡眠不足により腸内細菌叢が乱れるメカニズムをはじめて解明したと、北海道大学が発表した。

 睡眠不足により、腸から出ている善玉ペプチドである「αディフェンシン」が減り、腸内菌の重要な代謝物である短鎖脂肪酸が低下することを突き止めた。

 世界的な健康問題となっている睡眠障害に対して、腸内細菌叢を改善することが、新たな予防策や治療法になる可能性がある。

睡眠と腸内細菌叢との関連を解明

 腸内には100兆個にもおよぶ細菌が棲んでいて、腸内細菌叢を形成している。腸内細菌叢は個人差が大きいことが知られており、最近の研究で、その細菌の組成や多様性の異常が、糖尿病や肥満、免疫疾患、アレルギー疾患、がん、さらにはメンタルヘルスにも影響しているが分かってきた。

 一方、睡眠は、体のさまざまな生理機能の調節で、重要な役割をになっている。睡眠不足は、精神と身体の不調につながり、糖尿病や肥満などのさまざまな疾患のリスクを高めるが、腸内細菌叢との関わりについては良く分かっていない。

 そこで北海道大学は、睡眠障害にともない腸内細菌叢が破綻するメカニズムを解明するため、腸管の免疫で重要な役割をしている抗菌ペプチドである「αディフェンシン」に着目した。

 腸の細胞から分泌されるαディフェンシンは、腸内細菌叢の組成を調整し、腸内環境の恒常性を保っているとみられている。αディフェンシンの分泌量が低下したり、異常が生じると、腸内細菌叢が破綻する。

 同大学ではこれまで、年齢が高い人ほどαディフェンシンの量が減少し、免疫老化が起こりやすくなることを報告している。

 食事や運動などの生活スタイルは、腸内細菌叢にも影響をもたらすが、αディフェンシンの低下による腸内細菌叢の組成変化が影響しているとみている。

関連情報

睡眠不足により腸から出る善玉物質が減る

 「脳腸相関」とは、ヒトにとって重要な器官である脳と腸が、たがいに密接に影響をおよぼしあっているという考え方。

 たとえば、腸に病原菌が感染すると、脳で不安感が増したり、食欲についても、消化管から分泌されるホルモンが脳に関与していることなどが分かってきた。

 北海道大学の研究グループは今回、睡眠不足により、腸から産出されるαディフェンシンが低下し、腸内細菌叢の組成や機能の異常に関与していることをはじめて解明した。

 睡眠は、身体と精神の疲労の回復・成長・免疫機能の維持・記憶の定着など、さまざまな生理機能に関わっており、生命維持に直結している。睡眠不足は、心血管疾患・脳血管障害・がん・糖尿病・うつ病・認知症など、多くの疾患のリスクとなることも分かっている。

 睡眠の悪化に、腸内細菌叢の破綻が関わっており、とくに睡眠不足にともなうαディフェンシンの低下と、腸内細菌叢の組成変化が影響していることを解明すれば、自然免疫と腸内細菌叢を介した脳腸相関を改善し、睡眠障害をより良く治療できるようになる可能性がある。

αディフェンシン低下を介した睡眠不足での「脳-腸-全身」の相関メカニズムを解明

出典:北海道大学、2023年

「脳腸相関」のメカニズムを解明

 研究グループは今回、北海道寿都町に居住している、地域コホート研究(健康に暮らせる町づくりを目的とした生活習慣および健康状態の調査:DOSANCO健康調査)に参加した、消化器病の治療を受けていない35人を対象に調査した。

 睡眠と、αディフェンシンの分泌量、腸内細菌叢およびその代謝物の関連について詳細に解析した。便中のαディフェンシン量を解析し、同時に腸内細菌叢の組成解析、さらには腸内細菌代謝物である短鎖脂肪酸を定量することにより、睡眠時間、αディフェンシンと腸内細菌叢の関係をはじめて評価した。

 その結果、睡眠不足と腸でのαディフェンシン分泌量の低下は関連しており、睡眠不足が腸内細菌叢の組成と機能的な異常に関与していることが示された。

 睡眠不足になると、腸内細菌叢が破綻し、免疫系の機能に重要な菌代謝産物である酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸が低下するという。

 研究は、北海道大学大学院先端生命科学研究院の中村公則教授、同大学院医学研究院の玉腰暁子教授らの研究グループによるもの。

 「中高年者を対象とした今回の研究で、睡眠時間が短いほど、αディフェンシン分泌量が低いことを明らかにするとともに、腸内細菌叢の組成および代謝物の詳細な解析を行い、睡眠不足が腸内細菌叢の破綻および短鎖脂肪酸の低下と相関していることを明らかにしました」と、研究者は述べている。

 「今回の研究は、αディフェンシンと睡眠障害の関係をはじめて解明し、睡眠障害での自然免疫と腸内細菌叢を介した脳腸相関の影響を明らかにした画期的なものです。脳腸相関での"睡眠-αディフェンシン-腸内細菌叢"という新たな視点を提示しています」。

 「今後、αディフェンシンの分泌誘導をターゲットとした、睡眠障害に対する予防法や新規治療法の開発が期待されます」としている。

北海道大学大学院先端生命科学研究院
Shorter sleep time relates to lower human defensin 5 secretion and compositional disturbance of the intestinal microbiota accompanied by decreased short-chain fatty acid production (Gut Microbes 2023年3月21日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲