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2023年04月17日

「運動」と「マインドフルネス」で糖尿病の人のメンタルヘルスを改善 ストレス緩和に役立ち血糖値も低下

 うつ病や不安症などのメンタル不調を改善するのに効果的な方法のひとつは、ウォーキングなどの運動や身体活動を習慣として行うことだ。

 運動を習慣として行うことで得られるメンタルヘルスへの影響として、ストレスの軽減、自尊心の向上、睡眠の改善、不安の最小化などがある。

 うつ病や不安障害などのメンタル不調を改善するのに役立つと注目されている、もうひとつの方法は「マインドフルネス」だ。

 ヨガやウォーキング、瞑想などの、ストレス緩和やリラックスに役立つ「マインドフルネス」を実践することが、糖尿病の人のメンタルヘルスの改善に役立つという研究が発表された。

 ストレスを軽減し、気分を改善することは、糖尿病の治療の自己管理や調整を高めるのにも役立つ。

運動や身体活動でメンタル不調を改善

 糖尿病とともに生きる人は、うつ病などのメンタル不調のリスクが高いことが知られている。糖尿病の人は、そうでない人に比べ、うつ病の発症リスクが1.3倍高いという報告がある。

 糖尿病の治療は、食事療法の遵守し、不健康な食べ物の誘惑と闘い、運動を習慣として行い、医師から指示された薬をきちんと服用・注射しなければならないなど、自分で管理しなければならないことがたくさんある。そのため、多くの患者がストレスに悩まされている。

 うつ病は、もっとも一般的にみられるメンタル不調で、米国では成人の8.4%が罹患しているという。うつ病の患者にとって生活の質を大きく下げる原因になるだけでなく、社会的な生産性の損失も深刻だ。

 うつ病や不安症などのメンタル不調を改善するのに効果的な方法のひとつは、ウォーキングやサイクリング、ラケットスポーツ、水泳、ダンスなどの運動や身体活動を習慣として行うことだ。

 うつ病や不安症などは精神科クリニックで治療されることが多く、薬物療法などは進歩しているものの、運動や身体活動が、うつ病を改善するための潜在的な治療オプションになりえることは十分に知られていない。

 運動を習慣として行うことで得られるメンタルヘルスへの影響として、ストレスの軽減、自尊心の向上、睡眠の改善、不安の最小化などがある。

 運動や身体運動がうつ病を改善する根本的なメカニズムのひとつに、運動中や運動後に体から分泌されるホルモンであるエンドルフィンの影響がある。

 エンドルフィンが出ると、たとえば「ランナーズ ハイ」という言葉にある通り、多幸感が生じ、気分が全体的に改善され心地良くなる。

運動により多くのベネフィットを得られる

 「運動を習慣として行うことで、早く眠りにつけるようになり、睡眠の質を改善できることを示した研究はたくさんあります」と、ジョンズ ホプキンス大学睡眠センターのディレクターであるシャーリーン ガマルド氏は言う。

 「どれくらいの運動をいつ行えば良いかについては個人差があります。ご自分のお体の声に耳を傾けて、運動や身体活動に応じて、どれくらい眠れるようになったかを確かめながら取り組むことをお勧めします」としている。

 米国心臓学会(AHA)や同大学によると、運動を行うことで下記のベネフィットを得られやすくなる。

ストレスの減少
多くの人が、日常生活でストレスを感じているが、ストレスが慢性化し重度になると、うつ病や睡眠障害、高血圧や2型糖尿病、肥満などのリスクが高くなる。運動に取り組むことは、ストレスレベルの低下に関連しており、うつ病のリスクを軽減する。

自尊心の向上
うつ病でもっとも一般的にみられる症状として、自尊心の低下がある。運動に取り組むことは、自尊心を向上させることにつながる。たとえば、肥満のある人が、運動を続けて体重を減らすことができれば、自信と自尊心の向上につながり、人生に対するより前向きな見方を強めるのに役立つ。

睡眠の改善
うつ病に関連し多くみられるもうひとつの症状として、睡眠障害がある。うつ病の人多くは、夜によく眠れないなど、休息により疲労をとることが十分にできないでいる。とくにウォーキングなど有酸素運動が、睡眠の質を改善するのに有用であることは、多くの研究で確かめられている。睡眠パターンをより健康的にすることは、疲労を軽減し、憂鬱な気分を改善するのに役立つ。

不安の最小化
うつ病に苦しむ人は、不安障害も抱えていることが多い。運動に取り組むことが気分転換になり、仕事や家族に対する義務など、不安を引き起こす要因から気をそらすことができる。たとえ20~30分であっても運動に集中することで、不安の原因となるこれらのことから距離を置くことができ、気分をリセットし、不安を軽減することができる。

運動を通じた社会交流
うつ病の人は孤立感や孤独感も抱えていることが多いが、運動はこれらの感情を軽減するのに役立つ。たとえば、友人とワークアウトをしたり、グループでフィットネスをするクラスに参加することで、さまざまな社会交流もできるようになる。社交性が高まると、自分も社会の一員であると感じられるようになり、うつ病や孤独感の軽減につながる。

「マインドフルネス」がメンタルヘルス改善に効果的

「マインドフルネス」が注目されている

 うつ病や不安障害などのメンタル不調を改善するのに役立つと注目されている、もうひとつの方法は「マインドフルネス」だ。

 ヨガやウォーキング、瞑想などの、ストレス緩和やリラックスに役立つ「マインドフルネス」を実践することが、2型糖尿病の治療や管理に役立つという研究を、南カリフォルニア大学ケック医学校などが発表した。

 マインドフルネスは、日本の禅などの考え方や瞑想をヒントにして開発されたメンタルトレーニング。マインドフルネスを日本語に訳すと「気付くこと」「意識すること」という意味になる。

 マインドフルネスを簡潔にあらわすと、「今、ここで起きていることを、ありのままに感じて、受け止めること」。自分の体や心の状態を意識することで、ストレスを受ける場面に遭っても、ネガティブな感情にとらわれることなく、物事をありのままにみることができるようになり、平静を保てるようになる。

 海外では、マインドフルネスを取り入れて、ウォーキング・ヨガ・気功・太極拳・瞑想などに取り組み、ストレスへの対処法やリラックスの仕方などを身に付けることで、ストレスや不安を自分で管理できるようになるよう設計されたプログラムが増えている。

 ゆっくりと呼吸し、自分の呼吸に注意を向けるトレーニングにより、マインドフルネスを高められる。深い呼吸をしながら行うヨガやストレッチ、ウォーキング、瞑想などを組み合わせたプログラムもある。

糖尿病の人が「マインドフルネス」を実践するとHbA1cが低下

 研究グループは、2型糖尿病患者に対するマインドフルネスの実践がもたらす効果を調べた、ランダム化比較試験を含む28件の研究を系統的に分析した。対象となったのは、糖尿病の飲み薬などで治療を受けている、心臓病や腎臓病などの合併症のない患者だった。

 その結果、ストレスや不安を自分で管理できるようになるよう設計されたマインドフルネスのトレーニングを受けながら、ウォーキング・ヨガ・気功・太極拳・瞑想などに取り組んだ人は、過去1~2ヵ月の血糖値の平均を反映するHbA1c値が平均して0.84%低下していた。

 「このことは、広く利用されている糖尿病の治療薬であるメトホルミンを服用した場合とほぼ同等の効果を、4週間から6ヵ月のマインドフルネスの実践により得られることを示しています」と、ハーバード大学でメンズ ヘルス ウォッチを担当しているマシュー ソラン氏は言う。

 「2型糖尿病の合併症を予防するための治療目標は、HbA1cを7.0%未満に下げて維持することですが、米国でこの目標を達成できている患者さんは半数しかいません。このことを考えると、マインドフルネスの効果には期待できます」としている。

 もっとも効果の高かったのはヨガで、HbA1cの約1%の低下と関連していることが示された。1週間にヨガを行う日を1日追加すると、HbA1cは平均して0.22%低下する計算になるという。ヨガなどに取り組むことで、空腹時血糖値(FBG)も平均して22.81mg/dL低下した。

糖尿病の人のためのヨガ
Yoga With Adriene
ヨガは変化を生み出し、ストレスをやわらげ、体の変化を促すと解説

運動や身体活動を取り入れたリラクゼーションのすすめ

 「ヨガなどへの取組みを含めたマインドフルネスの実践により、ストレス反応とは逆のリラクゼーション効果を期待できます」と、マサチューセッツ総合病院およびハーバード大学心体医学研究所のシャル ラムチャンダニ氏は言う。

 体を動かしながらリラックスすることで得られる弛緩反応により、ストレスホルモンであるコルチゾールの値が低下するという報告もある。これは、血糖値を下げるインスリンが働きにくくなるインスリン抵抗性の改善や、高血糖の抑制、HbA1c値の低下にも影響する。

 「運動や身体活動を取り入れたリラクゼーション法の実践により、血流の改善や血圧の低下など、心臓病や脳卒中から保護し、糖尿病患者を助ける効果も期待できます」としている。

 「ストレスを軽減し、気分を改善することは、糖尿病の治療の自己管理や調整の能力を向上するのに役立ちます。糖尿病の治療は、不健康な食べ物の誘惑との闘い、食事療法の遵守、定期的な運動への取り組み、医師から指示された薬の服用など、自己で管理しなければならないことがたくさんあり、多くの患者さんはストレスに悩まされています」。

 ただし、今回の研究は、さまざまなリラックス法の実践が、HbA1cなどの低下と関連していることを示唆したものであるものの、その因果関係については十分に解明されていない。

 「マインドフルネスをどのように実践するとより効果的であるか、何に注意しなければならないかを解明する必要があります。しかし、今回の研究で、あらゆるマインドフルネスの実践は治療にプラス効果をもたらすことが示されたのは注目すべきことです」と、ラムチャンダニ氏は指摘している。

糖尿病の人のためのヨガ
Penyogastar Official
ヨガはストレス解消に役立ち、血糖値を下げ、HbA1cを改善する

Working Out to Relieve Stress (米国心臓学会 2021年10月19日)
Exercising for Better Sleep (ジョンズ ホプキンス大学医学部 2023年4月17日)
A mindful way to help manage type 2 diabetes?: Mindfulness practices like yoga may help people with diabetes control blood sugar (ハーバード大学医学部 2023年2月6日)
Mind-body practices lower blood sugar levels in people with type 2 diabetes (南カリフォルニア大学 2022年9月28日)
Mind- and Body-Based Interventions Improve Glycemic Control in Patients with Type 2 Diabetes: A Systematic Review and Meta-Analysis (Journal of Integrative and Complementary Medicine 2023年2月8日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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