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2022年12月02日

ウォーキングで「脳のインスリン抵抗性」を改善 糖尿病の人の認知機能を運動で高める

 インスリンが効きにくくなるインスリン抵抗性は、脳にも影響を及ばす。ウォーキングなどの運動をすることで、「脳のインスリン抵抗性」が改善し、認知力などのパフォーマンスが向上するという研究が発表された。

 また、運動不足を解消し、体を積極的に動かすようになると、質の良い睡眠をとれるようになり、睡眠薬などを服用する必要がなくなる可能性があるという研究も報告されている。

 運動不足が続き、脳のインスリン抵抗性を放置していると、認知症の原因物質が脳にたまりやすくなり、認知症でもっとも多いアルツハイマー病の発端となることも知られている。

インスリンが効きにくくなるインスリン抵抗性は脳にも起こる

 インスリン抵抗性は、筋肉・脂肪細胞・肝臓などのインスリンが作用する臓器・細胞で、インスリンに対する感受性が低下し、インスリンの血糖を下げる働きが十分に発揮されない状態。

 肥満や運動不足などが原因でインスリンが効きにくくなり、ブドウ糖が細胞に十分取り込まれなくなることが、2型糖尿病の原因のひとつになっている。

 インスリン抵抗性は、身体的な作用だけでなく、脳にも影響を及ばす。運動をすることで、「脳のインスリン抵抗性」が改善し、認知力などのパフォーマンスが向上するという研究を、ドイツ糖尿病研究センター(DZD)が発表した。

 「脳がインスリンに良好に反応しなくなると、体の代謝や摂食行動の調節などにも悪影響があらわれてきます」と、テュービンゲン大学糖尿病・代謝疾患研究所(IDM)および同大学病院糖尿病・内分泌科のステファニー クルマン氏は言う。

 「今回の研究で、わずか8週間の運動でも、運動に取り組むことで、過体重や肥満の人の脳のインスリン感受性が回復できる可能性が示されました」としている。

運動を続けると、血糖を下げるインスリンが効きやすい体に変わっていく
脳でもインスリンが効きやすくなり、認知力などのパフォーマンスが向上

出典:ドイツ糖尿病研究センター、2022年

運動により脳内のインスリン抵抗性を改善

 研究グループは、21歳~59歳の男性7人と女性14人を対象に、持久力トレーニングに8週間取り組んでもらう試験を行った。トレーニングの前後に、機能的磁気共鳴画像法(MRI)を使用して、脳のインスリン感受性について測定した。参加者の体格指数(BMI)は27.5~45.5で、全員が過体重か肥満だった。

 その結果、脳内のインスリン抵抗性は運動プログラムにより、標準体重の人と同じレベルまで改善された。脳のインスリン感受性が改善されるのにともない、代謝にもプラスの効果があらわれ、空腹感が減少し、不健康な内臓脂肪の蓄積は減少した。

 「今回の研究は、脳のインスリン抵抗性は可逆的であり、体の代謝や体重を改善し中枢神経系を調節することで、回復が可能であることが示されました。運動療法は、肥満の悪影響を打ち消すための、実行可能な治療となることが示唆されました」と、クルマン氏は言う。

関連情報

運動療法で認知症も予防 糖尿病と肥満の治療の新たな出発点に

 脳のインスリン抵抗性を放置していると、認知症の原因となるアミロイドβが脳にたまりやすくなるという研究も発表されている。アミロイドβが凝集し蓄積されることが、認知症でもっとも多いアルツハイマー病の発端となると考えられている。

 インスリン抵抗性を改善するために効果的なのは、ウォーキングなどの有酸素運動や、筋力トレーニングだとしている。有酸素運動により筋肉への血流が増えると、ブドウ糖がどんどん細胞のなかに取り込まれるようになり、インスリンの効果が高まり、血糖値は低下する。また、筋力トレーニングにより筋肉が増えると、それだけインスリンの効果も高まり、血糖値は下がりやすくなる。

 同研究所では、2型糖尿病のリスクが高い人を対象に、脳のインスリン感受性を改善することが、代謝と認知能力に実際に有益な効果をもたらすかを検証し、運動療法が効果をもたらすメカニズムを解明するために、さらに大規模な介入研究を計画しているという。

睡眠の悩みがある? 運動を試してください!

運動不足を解消するだけで睡眠を改善できる可能性

 多くの人は睡眠の悩みをもっており、成人人口の10~20%が、長期におよぶ深刻な睡眠障害を抱えているという調査結果がある。不眠症に苦しんでいて、睡眠補助薬に頼っている人も多い。

 しかし、運動をする習慣をつくり、運動不足を解消するだけで、薬を服用する必要はなくなり、質の良い睡眠をとれるようになる可能性がある。

 研究は、ノルウェー科学技術大学(NTNU)が、ノルウェーで実施されている大規模な研究である「トロンデラーグ健康調査」に参加した、平均年齢51.5歳の3万4,357人の成人を対象に行ったもの。

 30万4,899人年の追跡期間に、参加者の17%が睡眠の問題を抱えていることが分り、約5,800人が睡眠薬の処方を受けた。

運動は睡眠障害を予防するための効果的な手段

 データを解析した結果、運動をする習慣があり、心肺フィットネス(CRF)が良好で、心肺機能が優れている人は、睡眠薬の処方が少ないことが分かった。とくに男性では、心肺機能が良好な人は、睡眠の問題を抱え睡眠薬が必要となるリスクが15%低かった。

 「これらの調査結果は、運動を行い身体的に健康であることは、睡眠の質を高めるのに役立つことを示唆しています」、とエルンストセン氏は言う。

 「睡眠の悩みをもつ人に睡眠についてアドバイスをするときは、運動療法についても考慮する必要があります。運動を続けて、心肺フィットネスを改善もしくは良好に維持することは、睡眠障害を予防するための効果的な代替手段になりえます」としている。

Exercise helps against insulin resistance in the brain (ドイツ糖尿病研究センター 2022年11月7日)
Exercise restores brain insulin sensitivity in sedentary adults who are overweight and obese (JCI Insight 2022年9月22日)
Having trouble sleeping? Try exercise! (ノルウェー科学技術大学 2022年12月1日)
Association Between Cardiorespiratory Fitness and Incident Purchase of Hypnotic Drugs in Adults: The HUNT Study (Mayo Clinic Proceedings 2022年10月14日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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