ニュース

2022年10月17日

魚を食べると脳が健康になり思考力も高まる 糖尿病の人は認知症リスクが高い 魚で頭も体も健康に

 中年期に、魚などn-3系(オメガ3)脂肪酸を含む食品を多く食べている人は、ほとんど食べていない人に比べ、思考スキルが優れており、脳の構造も健康である傾向があるという研究を、米国神経学会(AAN)が発表した。

 魚に多く含まれるn-3系脂肪酸であるEPAとDHAに、認知力の回復を向上させる効果がある可能性があるとしている。

 ただし、n-3系脂肪酸を含むサプリメントについては不明としている。研究成果は、AANの医学誌「Neurology」にオンライン掲載された。

n-3系脂肪酸は血液の流れを良くし、血栓や動脈硬化を抑える

 認知症のなかでもっとも多いのはアルツハイマー型認知症だ。糖尿病とともに生きる人は、アルツハイマー病のリスクが1.5倍高いという報告がある。

 糖尿病があると認知症になりやすい原因として、脳の血管の動脈硬化、酸化ストレスの増加、終末糖化産物の形成、インスリン抵抗性などが指摘されている。

 将来に自分が認知症を発症するのではないかと、心配になっている人は少なくない。そんな人にとって朗報となる研究が発表された。

 中年期に、魚などn-3系(オメガ3)脂肪酸を含む食品を多く食べている人は、ほとんど食べていない人に比べ、思考スキルが優れており、脳の構造も健康である傾向があるという研究を、米国神経学会(AAN)が発表した。

 n-3系脂肪酸は、2重結合をもつ脂肪酸で、血液の流れをスムーズにし、血栓や動脈硬化を抑え、心血管疾患や脳卒中などのリスクを下げるのに役立つと考えられている。

 n-3系脂肪酸には、EPA(エイコサペンタエン酸)・DHA(ドコサヘキサエン酸)・α-リノレン酸などがある。EPA・DHAは、サバ・イワシ・サーモン・マグロなどの魚に多く含まれ、α-リノレン酸は、植物油の大豆油やアマニ油などに多く含まれている。n-3系脂肪酸は、クルミなどのナッツ類にも含まれる。

 日本人を対象とした調査でも、魚などからn-3系脂肪酸を多く摂取している人は、虚血性心疾患のリスクが低下し、認知症の発症が少ないことが明らかになっている。

食事に簡単な変更を加えることで脳の認知能力の回復を改善

 「食事スタイルを改善することは、私たちの脳の健康をうながす方法のひとつです」と、米テキサス大学サンアントニオ健康科学センターのクラウディア サティザバル氏は言う。

 「食事に簡単な変更を加えることで、脳の認知能力の回復を改善し、認知症を潜在的に予防できることを示せれば、公衆衛生に大きな影響をもたらす可能性があります」。

 研究グループは、米国で1940年代から行われている、心筋梗塞や脳卒中の効果的な予防策を調べるための大規模研究である「フラミンガム心臓研究」の参加者を対象に、横断的研究を行った。

 対象となったのは、認知症や脳卒中を発症していない平均年齢46歳の米国人2,183人。研究グループは、参加者の血中のn-3系脂肪酸などの値を測定し、エピソード記憶・処理速度・実行機能・抽象的推論などを調べる思考力テストを実施した。脳の容積を測定するために、MRIにより脳画像のスキャンも行った。

 n-3系脂肪酸の値の平均は、多く摂っているグループでは全脂肪酸の5.2%だったのに対し、少ないグループでは3.4%だった。n-3系脂肪酸の最適値は8%以上で、4%~8%は中程度、4%未満の低値とみられている。

関連情報

魚のEPAとDHAを多く摂っている人は脳の海馬の体積も大きい

 その結果、魚に含まれるn-3系脂肪酸であるEPAとDHAの値がもっとも高かったグループでは、思考力テストの平均スコアが高く、とくに抽象的推論が優れていることが明らかになった。さらに、記憶で重要な役割を果たしている脳の海馬領域の平均体積も大きかった。

 「n-3系脂肪酸、とくにEPAとDHAを多く摂ることで、認知力の回復を向上させる効果を得られる可能性があることが示されました。今後さらに詳しい研究を行い確かめる必要がありますが、平均年齢46歳の中年者でもこうした効果を期待できることが分かったのは興味深いです」と、サティザバル氏は述べている。

 「さらに良いことに、今回の研究では、n-3系脂肪酸の摂取が中程度であっても、脳機能を維持するのに十分である可能性を示せました」。

 「n-3系脂肪酸を豊富に含む魚などを、習慣的に食べることをお勧めします。これは、心臓血管の健康を改善するために、週に2サービング以上の魚を食べることを推奨している、米国心臓学会の食事ガイドラインとも一致しています」としている。

n-3系脂肪酸を豊富に含む魚を食べることを推奨

 認知症でもっとも多いアルツハイマー型認知症は、アミロイドβという老廃物が脳に蓄積し、神経細胞に障害を与えることが原因で発症すると考えられている。アミロイドβの蓄積や凝集にかかわるタンパクを、APOE遺伝子が司っている。

 研究では、APOE遺伝子型についても調べ、n-3系脂肪酸と脳の認知機能や構造との関連は、APOE遺伝子型による代謝パターンによって異なることも示唆された。

 なお研究者は、今回の研究は一時点に限定して調査したもので、参加者を時間の経過とともに追跡して調査したものではなく、また、n-3系脂肪酸と脳機能の維持について因果関係を証明したものでもないと付け加えている。さらに、対象となったのは白人が多く、他民族にもあてはまるかについては、さらに研究を重ねて確かめる必要があるとしている。

 研究は、米国国立加齢研究所(NIA)と米国国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)の支援を受けて行われたもの。

Can Eating Omega-3 Fatty Acids in Midlife Help Your Brain? (米国神経学会 2022年10月5日)
Association of Red Blood Cell Omega-3 Fatty Acids With MRI Markers and Cognitive Function in Midlife: The Framingham Heart Study (Neurology 2022年10月5日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲