ニュース
2022年07月25日
糖尿病の人は早期から認知症の予防を 18歳の若者も80歳の老人も認知症対策は必要
認知症の危険因子のない高齢者は、10~20歳若い人と同じように、脳を健康に保てていることが明らかになった。
「あなたが18歳の若者であっても、80歳の老人であっても、食事・運動・睡眠などの生活スタイルを改善することは、認知症リスクを減少するうえで、年齢よりも重要かもしれません」と研究者は述べている。
健康的な生活スタイルは年齢よりも重要
認知症の危険因子として糖尿病・喫煙習慣・難聴などが知られているが、これらのない高齢者は、10~20歳若い人と同じように、脳を健康に保てていることが、カナダのベイクレスト高齢者医療センターの研究で明らかになった。 「今回の研究で、健康的な生活スタイルは、認知機能のレベルを決定するうえで、年齢よりも重要である可能性が示されました」と、トロント大学ロットマン研究所で認知神経学を研究しているアナリーズ ラプルーム氏は言う。 「認知症を予防するために、2型糖尿病の治療、糖尿病のある人は血糖コンロールを良好に維持すること、難聴への対処、禁煙、必要に応じてサポートを取得するなど、できることはたくさんあります」としている。糖尿病は認知症の危険因子
認知症のなかでもっとも多いのはアルツハイマー型認知症だ。糖尿病とともに生きる人は、アルツハイマー型認知症のリスクが1.5倍高いという報告がある。 アルツハイマー型認知症の原因として知られるのは、脳機能を低下させるアミロイドβというタンパク質の蓄積。このアミロイドβは、認知症の症状があらわれる20年以上前から脳内にたまりはじめると考えられている。 糖尿病の人は、血糖コントロールが良好でないと、アミロイドβが蓄積しやすいことが分かってきた。糖尿病の適切な治療は、認知症予防につながる。血糖値や血圧値などをしっかりコントロールする管理することで、認知症のリスクはかなり減らせると考えられている。 多くの研究で、健康的な生活スタイルは、認知症を予防するために効果的であり、生活改善は早ければ早いほど良いことが示されている。 アルツハイマー病協会国際会議(AAIC)は、次のことを毎日の生活に取り入れることを勧めている。認知症を予防するための生活スタイル
▼ 生活習慣病の治療 | 高血圧・糖尿病・脂質異常症をコントロールする。治療を受けている人は、通院を続けることが大切。 |
---|---|
運動は糖尿病や高血圧、脂質異常症などの改善に良いだけでなく、認知症予防の観点からも勧められる。 | |
▼ 健康的な食事 | 全粒穀類・野菜・糖質の少ない果物・魚・豆類・大豆などを多く含む食事。動物性脂肪は控えめに。 |
▼ 睡眠を十分にとる | アミロイドβは、眠っているときに排出されやすいので、睡眠をとることは大切。睡眠の悩みがある人は医師に相談を。 |
▼ 脳を活動的に保つ | 知的な趣味は、脳に利益をもたらす。なんでも良いので楽しめることに取り組もう。 |
▼ 社会的な活動を保つ | 社会や地域の活動に積極的に参加したり、友人や家族と交流することは、メンタル面にも良い影響をもたらす。 |
▼ 禁煙する | タバコが認知機能低下のリスクを高めることはほぼ確実。禁煙すれば、それだけリスクを減らせる。 |
認知症の危険因子をオンラインでチェック
ベイクレスト高齢者医療センターやトロント大学は、脳の健康状態を簡単に評価できる「コグニシティ 脳の健康 評価ツール」を開発している。このツールはインターネットで無料で公開されており、20分ほどで自分の認知症リスクについて知ることができる。 ツールで調べられるのは、認知症の危険因子として知られている、▼高血圧、▼糖尿病、▼喫煙習慣、▼難聴、▼外傷性脳損傷、▼アルコール・薬物乱用、▼うつ病、▼低教育などの項目で、いずれも生活スタイルの改善により修正が可能なものだ。 ツールの点数に応じて、食事・運動などの生活スタイルを改善し、健康状態を全体的に高めるために役立つスマートトラッカーも提供される。認知機能の低下や認知症が疑われる場合には、フィードバックと推奨事項が表示され、医師の診療を受けることを勧め、医師と共有できるレポートも提供される。認知症の危険因子のない高齢者の脳は若者と同等
研究グループは今回、18~89歳の2万2,117人に参加してもらい、このツールを利用してもらった。参加者は、自宅でこのツールを使い、認知症リスクについて判定を受けた。 その結果、高齢者(66~89歳)は、中年者(45~65歳)や若年者(18~44歳)に比べ、危険因子が多い傾向があったが、40代~70代で危険因子をもたない人は、多くの危険因子をもつ10~20歳年下の人と認知能力は同等であることが示された。 さらに、危険因子が増えるにつれ、認知能力の低下も進み、これは3年の加齢に相当しており、年齢が上がるにつれてその関連性は大きくなることも、多項式回帰分析により明らかになった。認知症対策は人生の早いうちに開始すると効果的
「認知症予防に関する研究のほとんどは、中高年の成人を対象としていますが、今回の研究では、18歳以上の参加者のデータも含めました」と、同センターと同研究所のディレクターで脳神経学を研究しているニコール アンダーソン氏は言う。 「この研究は、生涯にわたる認知症の危険因子を、生活スタイルから調べた最初のものです」としている。 「認知症の危険因子は、できる限り人生の早期から対処することが必要で、またそれを実行することは可能であることが示されました」としている。 危険因子が増えるにつれ、認知能力の低下も進みやすくなる。たとえば、3つの危険因子をもつ人は、9年もの加齢に相当する認知能力の低下につながる可能性がある。 しかし、食事・運動・睡眠などの生活スタイルを改善することで、危険因子を減らすことができ、認知症のリスクも減少できる。すべての人は認知症のリスクを減らす力がある
「研究では全体として、すべての人は認知機能低下と認知症のリスクを減らす力をもっていることが示されました」と、ラプルーム氏は言う。 「あなたが18歳であろうと90歳であろうと、ご自分の現在の危険因子について知り、生活スタイルを改善し対策をはじめてください。そうすれば、脳の健康を維持でき、おそれることなく年齢を重ねることができます」としている。 今回の研究に、カナダ アルツハイマー病協会とカナダ自然科学工学研究評議会が支援している。研究グループは、心と体が何十年も若く、認知能力を良好に維持できている「スーパー高齢者」が、通常の高齢者とどう違うのかを調べる研究も計画している。 AAIC 2019 Highlights New Research Showing Healthy Lifestyle May Offset Environmental and Genetic Risk of Alzheimer's Disease (アルツハイマー病協会 2019年7月14日)Whether you're 18 or 80, lifestyle may be more important than age in determining dementia risk, study reveals (ベイクレスト高齢者医療センター 2022年7月13日)
The adverse effect of modifiable dementia risk factors on cognition amplifies across the adult lifespan (Alzheimer's & Dementia: Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring 2022年7月13日)
Brain Health Assessment - Cogniciti - Brain Health Powered by Science (コグニシティ)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
糖尿病合併症の関連記事
- 「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」開催報告を公開 医療従事者と患者が活発に対話 日本糖尿病学会
- 糖尿病の人は胃がんのリスクが高い どうすれば対策できる? 胃がんを予防するための6つの方法
- 掃除や買い物などの家事も立派な運動? わずか20分の活動が糖尿病を改善 「座っている時間」を中断して体を動かす習慣を
- ブルーベリーが腸内環境を健康にして糖尿病や肥満を改善 メントールから抗肥満・抗炎症の化合物
- 糖尿病の人は腎臓病のリスクが高い 腎臓を守るために何が必要? 「糖尿病・腎臓病アトラス」を公開
- 楽しく歩きつづけるための「足のトリセツ検定」をスタート 糖尿病の人にとっても「足の健康」は大切
- 緑茶を飲んでいる人は糖尿病リスクが低下 心臓病や脳卒中が減少 緑茶は歯周病の予防にも良い?
- 「糖尿病網膜症」は見逃しやすい 失明の原因に 手遅れになる前に発見し治療 国際糖尿病連合などが声明を発表
- 植物性食品が中心の食事スタイルが糖尿病リスクを低下 心臓血管病・がん・うつ病のリスクも減少
- なぜ男性は女性よりも糖尿病リスクが高い? メカニズムを解明 男性はインスリンの働きを高める対策が必要